世の中には矛盾に満ちたものが少なくない。また不条理と知りつつ敢えてしなくてはいけないことも多い。ここまで深刻なものではないが、相反する価値観が共存することは我々の周りには数多く存在している。例えば「義理と人情を秤にかけりゃ♪」もその類だろう。
義理と人情♪と同列視するわけではないが、PAGE2008でも相反する価値観を持ったコンファレンス/セミナーがある。もしかすると私だけがそう感じているだけかもしれないので、企画者本人(私のことだが?)がそう自覚しているものを挙げてみたい。まずは2月6日の午後に行われるコンファレンスA2「新時代の画像ビジネス」と2月7日の午後に行われるセミナーH6「デジタル時代にも通用するアナログ時代のテクニック」だ。
最近レタッチという言葉を聞くようになったが、製版で言うレタッチとは少々ニュアンスが異なる。本来は「フォトデザイン」と呼ぶべきもので、アートディレクション的な要素が強い。その中核になる技術はCG的な技法が主であり、Photoshopの機能に依存はしてもVer.4.0までの製版的な方法ではなく、レイヤーを二百種類くらい使ったクリエイティブな世界なのである。
この世界を語るのが「新時代の画像ビジネス」コンファレンスであり、対するのが「デジタル時代にも通用するアナログ時代のテクニック」セミナーだ。坂本恵一氏の流暢且つ興味深い話は二時間フルに聞いても飽きることは無いが、今回は「製版的なテクニックで捨てるべきものは捨てる時代が来た」ということを私の口から言わねばならないとも思っている。しかし「捨てるべきものは」ということで、まだまだ活用できるノウハウもあるということは断言しておく。
CGと聞くと引いてしまう印刷関係者が少なくないが、画像に関した仕事が多い印刷会社にとって、今後この辺の技術が肝になってくるのは間違いない。おそらくCG的技術者の数も片手くらいは有してしないとなかなか仕事がスムースに流れないだろう。分りやすく言えばカメラマン以上にクリエイティブな世界ということだ。
「その世界に印刷業界も入るべきですよ!」そんな経営的なセンス、技術的な知識は他業界から仕入れてしまえば良いじゃないというのがA2「新時代の画像ビジネス」なのである。そしてフォトデザイン(レタッチ?)への写真入稿フォーマットがRAW入稿ということは常識として押さえておかねばならないポイントだ。
つまり仕上がり、色・調子をカメラマンではなくフォトデザイナー(レタッチャー)が決められるというのが非常に大きなポイントなのだ。カメラマンはその素材を提供するということだ。そんなことを題材に印刷入稿について色々と考えるのが2月7日のコンファレンスD1「RAWデータと印刷入稿」である。これがRAWの本質を考えるコンファレンスだとすると、RAWデータの使い方を肯定しつつ、その運用方法を誤らないようなポイントを伝授するのが同日午後から行われるセミナーH5「印刷会社のための正しいRAW現像」である。第三セクター製のRAW現像ソフトを否定するものではないが、標準カラースペースとしてのPro Photo RGBを使用した場合の白色点での色シフト等、技術的な細かいことまで言及したい。
最後にこだわって置きたいのが「RAWは画像データをいじることが出来るという安易な誤解」についての警鐘だ。最近RAWで受け取って安易に彩度を上げたりして、色が飽和して調子が飛んだ印刷物をしばしば目にする。一言で表現すれば「RGB入稿であれだけトラブった会社がRAW入稿なんか出来るはずがない」ということだ。RAWを甘く見たらとんでもない事になる。そんな意味でLab入稿をトライしてみたのが2月8日のコンファレンスD4「広色域印刷の品質を追求する〜分光画像で比較する〜」である。Lab入稿はいわば究極の姿であり、RGB入稿もRAW入稿も●●もない絶対値入力の世界ということになる。この辺りに一石を投じたつもりの実験である。(2008年1月・郡司秀明)
2008/01/29 00:00:00