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良い提案の必須条件を身につけよう

企業Webサイトの半分は、お客さんはそれなりに満足しているが、残り半分は役に立っていないと言われている。だから役に立つWebなどを作れるプロデューサ・ディレクタが必要であり、クロスメディアエキスパートはそのディレクタ部分の人の目標となるものである。それには、今刻々と変化しているところの知識も必要になるが、その前にそういうことに興味のある人でなければならないし、そうでないと知識も追いつかないだろう。その上で基本としてお客さんの言っていることがわかることが良い提案の必須条件である。

実際には、クロスメディアエキスパートの試験の中では論述問題という形で、提案書を書いてもらう。提案書の中身が優れているとか、優れていないとか、どれだけ儲かるとか、ということを評価するのではなく、お客さんの戦略をきちっと捉え、自社の戦略とうまく合わせるということができているかどうかを見る問題である。

お客さんの課題を捉え、要望がどういうものであるか理解するにはヒアリング能力が重要になる。それに対して今日的な方法で、お客さんのコストも考えて提案をまとめ、それで実際にお客さんにわかるようにプレゼンをしていくに至るまでを、きちっと順番を踏んで物事を考えることができるか、合理的なものの考え方ができるかどうかをみている。逆に言うと、たまたま我社はこういうことが得意だということだけで、他のソリューションもあり得るが、取りあえず自分のところが得意なもの、利益率が高いものをお客さんに押しつけるというのは世の中にはいっぱいあるが、それではお客さんのソリューションにはならない。

そういうマインドを持ち、ヒアリングして、ロジカルシンキングする方法論は別にクロスメディアでなくても、世の中のソリューションビジネスに共通するものである。メディアの制作もそのレベルまでいかなければeビジネスのパートナーにはなれないという考えからきている出題である。

提案書を書く論述試験とは具体的にどういうものかについては、クロスメディアエキスパート情報マガジン2008の後ろのほうにソリューション提案の例題として見本が付いている。これは試験そのものではなく、試験に臨む人々がグループ演習のような形で行った例である。最初に状況設定があるがこれは試験本番には毎回少しずつ変わる可能性がある。従来からのあるお客さんのプロフィールがあって、そこの課題に関してお客さんから「何かやってくれ」と言われたのではなく、自主提案をしてみようというストーリーである。

本当は直接お客さんにヒアリングが必要だが、設定は自社が昔から付き合っている会社なので、社内の情報あるいは営業マンが出入りしているところで集めた情報をまとめた資料を読んでヒヤリングの代替とし、それを分析して2時間の試験の中で提案の土台を手で書く。資料には貸借対照表や損益計算書があって、どの程度の規模のビジネスをしているのかがわかる。

上記冊子には提案書演習の結果を2通り載せている。どちらかが優れているという意味ではない。異なる着眼点、切り口、結論であっても、そのこと自体は採点に関係ない。資料の分析や提案の組み立ての論理性が問題で、最初の段階では決めかねる費用やスケジュールは、必要な項目が意識されているだけでもよい。サンプルの提案書は採点時の合否判定の水準で言うと、かつかつのレベルなので実際はもう少し書く必要があると思う。

よくありがちな提案は、Webをリニューアルするとかメールマガジンを出すということだけがあって、そこに至る道筋やその効果予測が不足なものである。単にメルマガをしようというのではなく、メルマガを誰が誰に対してどういうタイミングでだせばどのような効果が期待できるというような、具体的なところが何らか想定されていないといけない。奇をてらった、全くユニークな提案を狙っているのではなく、筋の通った提案を望んでいるということである。

今まで、提案したが逆効果ということも実はよく起こっている。お客さんの間尺に合わないようなものを提案しては「何を考えているのか」と思われたり、特にIT業がお客さんのビジネスに関係なく、自分のところにウン百万円のCRMツールがあるということで、それを押し込みに来るというようなことが世の中にはたくさんある。だからこそ今までお客さんとビジネスの付合いがあるところなら、ちゃんとお客の戦略性とマッチした提案をできるというアドバンテージがあるのである。

しかし、たまたま良い仕事がとれてクロスメディア制作の仕事が順調に行きそうに見えても、お客さんのところに出ていく社員の誰かが、とんちんかんな解釈すると、それまで積み上げた信頼が崩れてしまう。クロスメディアエキスパートという資格制度とか試験は適材適所というのを基本的に考えていて、お客さまのビジネスを理解できないヒアリング能力のない人は無理にこういった仕事にはかかわらせないような意味合いもある。

逆に販促の世界では全く無名の会社や人が、このクロスメディアの資格を取ったということで大きなプロジェクトから一緒にやろうと声をかけられた話もある。外部との連携でプロジェクトをする際に、お互い同じ資格を取っているとなれば、かなり共通認識があるので同じ土台で物事を考えることができるようになる。DTPのエキスパートもそういう意味があったが、全然分野が違う人でも一緒に仕事ができることで、ビジネスの広がりも期待できるのである。

関連情報:
イニシアティブがとれるメディア提案(6/13)

【講義】クロスメディアの知識と提案方法(7/5)
【演習】クロスメディアのソリューション提案(7/12)
【講義・演習】クロスメディアの知識とソリューション提案(8/2、3)

(2008年6月 クロスメディア研究会

2008/06/04 00:00:00


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