2008年6月13日に行われたクロスメディア研究会「イニシアティブをとれるメディア提案」では、クロスメディアエキスパート認証試験の論述問題への取り組み方、実際の顧客提案を行う上で必要になるポイントを紹介した。今回佐々木雅志氏の講演より一部抜粋して紹介する。
第5期の試験を振り返ると、受験者は全般的に論述試験に苦戦しているようだ。そもそも、知識を問う学科試験に加えてなぜ論述試験があるのかというと、実は現実のビジネス現場におけるコミュニケーション能力を見るためである。そこを意識して問題に取り組んでほしい。だから試験問題も与件と各問いを実際のヒアリング結果とその整理、提案にきちんと置き換えて考えると、出題の意図がよく伝わるのではないだろうか。
合格しない提案書は何が足りないか。リアルなビジネス能力を見る論述試験と、高校や大学の入学試験と比較してみると分かりやすい。学校入試の長文読解は、例えば「「それ」とは何を指しているのか20文字以内で書け」というように、問題文中から、文章を抜いてくれば答えになるような問題である。つまり、設問を読んで長文を読むと、短時間で答えが見つかるテクニックが通用する。
しかし、クロスメディアエキスパート試験はそれでは対処できない。読み飛ばしてそれに対する設問を見ても何も解答のヒントがない。まずは問題文をきちんと読むことが前提になる。例えば、時間不足による不合格者は少なくないが、これも最初に与件となる問題文をきちんと読まないから、設問と問題文で、何回も行ったり来たりすることになる。結果的に時間が足りなくなる。今まで5回試験を行ったが、すべて同じような傾向が出ている。 最初にきちんと問題文を読んで、そこから問題を抽出していく、解決可能な課題をピックアップしていくように考える訓練をしなければいけない。これがきちんとできる人は、顧客とコミュニケーションができる人であり、同じようことを何度も聞きに行くこともなく、ヒアリング能力が高い人と言える。実務を通じた経験、訓練がないと、このあたりが難しい。
例えば、自分の代わりに経験の浅い人が顧客訪問して帰ってきた時に、「顧客は青がイヤで赤がいいと言っていました」と言ったら、「あ、そう」と済ます人はめったにいないだろう。普通なら顧客が赤を選択した理由を聞く。 「ここに乗せるのは緑の商品だろう。それを提示するのに何でバックグラウンドが赤なのか。チカチカして見えないだろう。全然バリアフリーじゃない。そんなのでいいのか」と顧客を訪問した担当者に聞くと、「分かりません」と答えた。その場合あなたは、「何でその時に聞けないのか」と、若い人に指摘したくなるだろう。顧客に満足してもらう提案を行うためには、顧客がそれを選んだ理由も知りたい。つまり、問題文を読むことで(顧客にきちんと聞くことで)、解決したら喜んでもらえること、本質は何なのかということを読み取る力が必要になる。これは試験のテクニックだけの問題ではなく、顧客に対して提案を行っていく上では不可欠な力である。
ヒアリングは、顧客に対していろいろな質問ができるような信頼関係を築かなければならない。その上で細部にわたった質問をして、誤解していないかどうかを確認する。この際に必ず繰り返して質問し、「やはりそういう意味でいいですよね」と確認していくことが非常に大事である。 しかし、筆記試験ではこの部分を飛ばしてある。ただし、正しい質問をする能力があるかどうかは判断している。それは顧客の課題を解決する提案を行うという前提に、解決されたら喜ばれる課題が挙がっているかどうかで、顧客に正しい質問をする能力があるかどうかの部分を見ている。何が問題だと挙げているか、何を解決すべき課題としているか。私たちになぜそれができると思っているかという情報の収集能力や分析能力を、それぞれの設問内容への解答で見ている。
論述試験は基本的に「絶対の正解」というものはない。従って、だいたい「この提案はいい」といっても、同じであることは少ない。全く違うデバイスやメディアを使っていたり、全く違う種類のクリエイティブを示唆していたりする。子育てに対する提案にしても、ターゲットは主婦もあれば、子育てしているお父さんもいるなど、いろいろである。しかし、良い解答はターゲットが違ってもそれぞれに対して非常に魅力的な提案を行っている。 正解がないということは、解決すべき課題や目指すべきゴールが回答者によって微妙に違っている。それは学科試験のように、「この問題の正解を答えなさい」というのではなく、「私がこれから正解を出すための問題はこれです」というところまでの一貫性も求められているということである。
「なるほど、それなら他社よりいい」と言われるように、「なぜ私の提案があなたにとってより良いものか」ということが伝わっていないといけない。競合は同業他社とは限らない。例えば印刷機を売ろうとしたら、経理担当の役員からストップが掛かり、「その5000万円あれば工場の屋根が直せる」と言われる。印刷機を売りに行って、ほかの印刷機メーカーではなくて屋根屋さんと競合ということがリアルビジネスでは実際に起こる。従って「これがあなたにとっての最優先事項だ」というようなことが書いてあると、さらにいい。
より良い提案を行うためには、「なぜ」をたくさん考えてみる必要がある。 例えば、売り上げが落ちている問題に対して、「売り上げが落ちているから売り上げを上げよう」というのは、ただの同義反復で回答ではない。ハードウエアビジネスの売り上げ減少を分析すると、ハードウエアそのものの売り上げは堅調なのに、保守サービスの収入が落ちているなどということがある。原因は顧客がなかなか保守契約に入ってくれないからだとする。この場合「それならサービスの収入を上げよう」というのでも、ぜんぜん課題にならない。そもそもサービスの収入が落ちている原因は何か。ここで「サービスの質が悪いから」ということになれば、徐々に根本に近づいていく。「顧客のメンテナンスが悪いから頻繁に壊れる。それは自分のせいではない」などと言い出して自分の責任ではないと言い張るメンテナンス要員がいるならば、「社員教育が不足しているのではないか」と考えることができる。これが仮説である。そうしたら、売り上げが落ちているのを解決するためにあなたが提案するのは、もしかしたら社員教育かもしれないのだ。このようなことを考えてみる。
(『プリンターズサークル』2008年8月号より一部抜粋)
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クロスメディアエキスパート認証試験
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2008/08/12 00:00:00