AdobeのPostScriptがきっかけで始まったDTPは、AdobeのフォントフォーマットであるType1の独占に対するパソコン陣営の反発からTrueTypeが開発されて、フォント戦争状態が起こった。その結果、DTP分野はType1が守ったが、パソコンはTrueTypeが支配して安定状態ができた。それをふまえて両者が共存できるOpenTypeの登場でフォント戦争は終結することになる。と思ったら、Mac OS X のバンドル日本語フォントがヒラギノになるということで、日本ではDTPのデフォルトフォントの座を巡るモリサワ対DSの戦いが始まった。
PostScriptRIPの世界では、Adobeの純正RIPと、ハーレクインなどの互換RIPと、CEPSで培われた出力回りの技術が3つ巴の競争を繰り広げていて、これらの要素の入り混じった多様な出力ソリューションが林立してた。これは2つほどの理由があり、AdobeがPostScriptの標準を守る上で、あまり「業界」の仕様変更要求に対してこまめに対応しないことと、互換RIPはそこにニッチビジネスを見つけたためであろう。
PostScriptでプリプレスはオープン化するといわれて、いろいろなメーカーの参入があったが、結局ハイエンドの出力はかつてのCEPSメーカーだけが供給するようになったので、このままでは各CEPSメーカーの技術に逆戻りしそうな状況になった。Adobeにとってハイエンドは広がるマーケットではないが重要視はされていて、長期的に改善が進むようには対応している。RIPに関してはPDF対応やExtremeがそれにあたり、これらで多様化する出力ソリューションを再びAdobeのコンセプトの元に統一しようと考えたのであろう。
これは功を奏して、プリプレスから印刷までの世界をつないで巨人となったハイデルベルグがExtremeに忠実なPrinergyを採用するに至り、Adobeの指導性が回復したかに見えた。ところがハイデルベルグと提携していたクレオがサイテックスと一緒になることになって、Prinergyを持って出てしまった。一体ハイデルベルグのRIPがどうなるのかdrupa2000まで分からなくなった。
おまけに、大日本スクリーン製造と富士写真フィルムが提携してRIPを共同開発することになり、互換RIPを今後も進化させるとともに、続けてAdobeExtremeのPDFベースのRIPも出すという。いったい世の中前へ進んでいるのか、戻っているのか、わからない状態になりつつある。
これらから、ハイエンドにはAdobeの強大な影響力は薄れている印象を受ける。Mac OS X におけるPDF対応描画エンジンの話しはAdobeからは技術説明はない。これに対応したATM環境をWindows用に出すかどうかもまだわからない。Mac OS X に代表されるプリンタフォントの終焉の傾向に対してイメージセッタやCTP側へのサジェッションもない。AdobeはWEBを主なビジネスの場にして、印刷の世界を先導することはなくなるとすると、それは印刷産業の力の低下を表すものかもしれない。
(テキスト&グラフィックス研究会会報 通巻132号より)
2000/04/26 00:00:00