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DTPの経験から何をするか? DTPの過去・現在・未来 最終回

DTPの過去・現在・未来 その13 最終回
1997年7月31日T&G研究会ミーティング「DTPの発展を検証する」より (社)日本印刷技術協会 理事 小笠原 治

過去12回にわたって、1980年頃から1995年頃までのDTPの歴史のうち、大きな出来事を述べてきた。1996年にはAcrobat3.0やPostScript3が出て、その後それらが日本語化されて今日に至る。印刷を取り巻く状況は大きく変わった。入ってくる原稿はどんどんデジタルになるし、出ていく情報もデジタルのまま、というのもアリになった。この1996年の技術を覆すようなものはまだでていないという点で、1996年以降を「今日」といっても差し支えないであろう。ではこれからDTPがさらに展開するとしたら、一体どのような方向があるのだろうか?

DTPの技術が展開する方向は3つ考えられる。第1はまだ残っている問題として、生産効率を高めるとかワークフローの自動化などが当然ある。第2の方向も明確でもう1つは、紙以外の世界が広がってくるので、今までの技術を電子媒体に継承させることで、Acrobatなどは典型的だがWEB関連でもいろいろなものがある。第3にマーケットとして大きいのは、プリプレスの専門家を相手にするのではなく、コンシューマ向きの展開がある。デジタルカメラなどは典型的だが、それらを対象にしたアプリケーションが盛んになっていく。

実はコンシューマ分野は、まだたくさんやり残したことがある。今まではあくまで紙なり写真なりから取り込んで印刷版の上に出すというモデルでしか見ていなかったので、プリクラなりシール/カードなどは他の分野の人が多く手がけるようになっている。これは印刷会社の従来のビジネスモデルとは合わないところが多く、1回何百円のプリクラをしたい会社は少ないだろうが、何らかの仕掛けがあれば印刷会社がする可能性もある。例えば、アマチュア写真のDPEを行っているところは、デジタルのサービスビューロ化してくる。デジタルカメラで写真を撮ったものを紙できれいに出したい、あるいは大判のポスターに出したいとか、パソコン上でCGで作ったものをポスターにするというのは、アメリカの場合、出力サービスビューロでも行っているが、カラーラボ系列がデジタル化してをやろうとかいうことも出てきている。

大判プロッタのように、印刷物ではなくてもDTPからアウトプットなり加工して出力するものは広がっていく。今のところは主に看板屋が行っているが、インテリア、エクステリア、その他多様なサービスにだれが取り組んでいくのかである。例えば常時変化する地図のようなものは固定的な印刷よりもオンデマンドの出力の方がよい。これは公共の案内板ではあるが、コンシューマ向きの壁紙への応用もあるだろう。コンシューマ向きは途方もない応用範囲があるので、このあたりのネタがこれから増えていくのだろう。

プロ向きの課題は、当然生産性等あるが、それは逆にどうすればいいかがはっきりしている。例えば新聞社なら新聞社のやり方のモデルがある。かつては新聞社のシステムを一市民が真似しようとしても歯がたたなかったが、コンピュータ・ツー・プレートの時代になると、全く新聞と同じ速度で印刷物制作できるようになる。ただそれをどうすればよいかはもうわかりきったことなので、DTPの課題と言わなくてもいいだろう。

この15年ほどを振り返ってみて、非常に短時間にいろいろなものが大きく変わったのだが、アメリカ人が集中してやり出すと、物事が進むのが速い。日本人は、やはりコンピュータとか情報とかいうことに対しては、アメリカ人ほど熱心ではないのかなと思ってしまう。日本は機器の製造は得意で、モバイル端末でもデバイスの開発は早いが、情報規格とか新たなアーキテクチャの応用がそれほど速くない。それはこれから何が起ころうとしているのか、先を見ていないからではないだろうか。

アドビを作った人達はゼロックスにいてInterpressというPDLを作っているが、それと技術的には似ているが、指向は全く違うPostScriptをほんの2〜3年くらいで作ってしまう。そしてさらに2〜3年たったらプリプレス開発の世界がごろっと変わってしまうようなことを彼らはする。日本の場合は新技術の是非を議論している間に2〜3年たってしまうが、技術が未来に何かをもたらしてくれるのでは…、という期待で行う議論は不毛である。技術が人に方向づけをするというのは本末転倒である。

過去を見るとAdobeは自分で産み出した技術だけで進んでいたのではないことがわかる。しかし指向ははっきりしていた。Quarkも指向ははっきりしている。自分の指向する方向に自分の得意な技を使うというのが、もっとも速くものごとを進める条件であり、指向のはっきりしない追従者を振り切ることができるのではないだろうか。

その1 DTPの発展を振り返る DTP前史 1980〜1984
その2 無視された夢想家  DTPの出現 1985年
その3 DTPの衝撃と定義 1986-1987
その4 形勢はDTPの逆転勝利へ 1988年
その5 アドビの最初のつまずき : 1989年
その6 アマ用DTPは消滅し、DTPはプロの世界へ : 1990年
その7 DTPは工場からオフィスへ : 1991年
その8 シーボルトが総括したDTPの完成 : 1992年
その9 カラーDTP時代の幕開け : 1993年
その10 3年遅れの日本のDTP : 1984-94
その11 …そしてAdobeが残った : 1994年
その12 DTPを乗り越えるデジタルメディア : 1995年

2000/07/22 00:00:00


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