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「究極の印刷機」実現を目指すAMPAC

第27回JAGATトピック技術セミナー案内

年末恒例の「トピック技術セミナー」を、来る12月14日(木)に開催する。今年の特別講演は「印刷工程のためのデータベース構造モデル」である。
非常に重要な意味を持ち、世界レベルではかなり注目されながら、日本の印刷業界では必ずしも良く理解されていない「AMPAC」(Architecture Model and PArameter Coding for graphic arts)の概要とその製版印刷システムへの適用について解説する。

「だんだん賢くなる印刷機」は夢物語か?

印刷機械を買った時点では、インキのコントロールだけはプリプレスのデジタルデータを使って自動調整できるが、湿し水ローラやスプレーパウダーの散布量調整などは、リモコンであれ何であれ作業者が行なわなくてはならない。しかし、本稼動に入って以降印刷機が日を追って賢くなり、3ヶ月後には湿し水の調整、半年後にはスプレーパウダー量調整が自動的に行なわれるといった「だんだん賢くなる印刷機」出現は夢物語だろうか?

また、印刷物の製品仕様、使用する用紙、インキ銘柄、使用印刷機など、いわゆる作業指示書の内容が確定され、CTP用のデジタルデータが用意されれば、印刷機械の全ての調整部分が自動調整され、ボタンひとつで印刷機械が本刷りを開始する「完全自動印刷機」も夢物語であろうか?

実は、このような夢物語を現実にすることを目指した構想がAMPACである。印刷機完全自動化のために必要な制御要素と各要素間の関係に関するデータ、知識を体系的に蓄積するとともに、蓄えた知識を目的に応じて自由に取り出して使える仕組みを持つデータベースである。AMPACは、既に「印刷工程管理のためのデータベース構造モデルおよび制御パラメータの符号化」(JISX9206-1)としてJIS化された。

JIS化に至る作業の中で整理された知識を使って、印刷条件が変わったとき、その変更によって機械のどの部分の設定を変更すべきかといったことをオペレータに指示する程度のことはできる段階(もちろん全てではないが)にきている。そして、来年夏ごろまでに、その適用範囲、精度をかなり高いものにまで持っていこうという作業が現在進められている。

完全自動化を諦めるのは性急!

従来から、印刷物の評価が感覚的なものである上に、使う材料が不安定であること、印刷結果に及ぼす要素が非常に多く、しかもそれぞれの要素間の関係が捉えきれないほど複雑だから印刷機の無人化は不可能、というのが定説になっている。
しかし、AMPACは、「必要なデータを総合的、統合的に集めてAIの手法(ファジー理論とIT技術の利用)を応用すれば、必ず印刷機の完全自動化に近づいていける。少なくとも自動化が可能な範囲と出来ない範囲がわかるはずでありそのような試みが不充分な状況の中で、印刷機の完全自動化は不可能と断じるのは性急である」(JAGAT発行「21世紀委員会報告書 「印刷産業の生産戦略」(2000年へのシナリオ2、1990年6月発行)参照」)という立場から取り組まれたものである。

定説「印刷機の無人化は不可能」の理由

印刷作業は熟練作業であるといわれてきた。印刷機のオペレータがスプレーパウダー量を調整するときには、紙の坪量、絵柄の面積・配置、後工程におけるコーティングの有無、板取り枚数、その他関連する要素を思い浮かべ、それぞれの要素の状態(たとえば、紙の坪量は130g/u、絵柄はベタがなく全面にプロセスカラーの網点部分があるなど)を見て、スプレーパウダー量を調整する。
ここでは、印刷機オペレータの2つの知恵が使われている。ひとつは,スプレーパスダー量という機械の条件設定に必要な要素(紙の坪量など)を漏れなく選ぶことである。ふたつ目は、選んだ各要素の状態とスプレーパウダー量の設定値との間の定量的関係についての知恵である。

これらの知恵の多くは、日常の作業の中で経験的に取得されるので、全ての印刷機のオペレータが全く同じ知恵を持つことはない。それは、経験の積み重ねによる知識、知恵は個別に見れば完全ではないということである。しかし、実用上の問題がなければそれで十分という意味で、その知識、知恵は印刷機無人化にとっても有用なものである。問題は、それらが個人の経験として蓄えられていくだけで、体系的に、しかも業界全体として使える形で蓄えられなかったことである。

一方、上記のような知識、知恵について、GATFやFOGRAといった印刷関係の研究機関をはじめ、メーカー、印刷会社の技術部など、多くの場所で研究がなされ膨大なデータが出されてきた。しかし、それらが印刷機自動化に寄与するところは少なかった。それぞれで扱われた要素がごく限られた範囲のものであったことと、従来の研究手法が、200程度もあると考えられる多数の要素を解析的に分析するものであり、200連の非線形連立方程式を解くような手法だったからである。

つまり、印刷機の自動化に必要な情報は、印刷現場、研究機関、メーカー等、さまざまなところに部分的、断片的に分散した状態では存在していたが、それらが体系的に整理され逐次積み上げられ、より精度の高い、総合的な知恵として進化することは無かったのである。それは、努力の不足というより、そのようなことを可能にする環境、仕組みがなかったからである。

CIP3、JDFからも注目されるAMPAC

AMPACは、ISOへの提案を機にCIP3やJDFなど、標準フォーマット化を目指すいろいろなグループからも注目され始め、それらの動きと合わせて報じられことが多い。したがって、それらの一種として理解されている向きもあるようだが、AMPACの目的は、それらとは大きく異なるものである。

他の標準フォーマット化の目的が、通信ネットワークを通して「データを転送することなど」であるのに対し、AMPACでは、印刷機のオペレーションに使われる知識・知恵を総合的、体系的に蓄積していけば、印刷機を完全自動化、無人化できる可能性は否定できない、という認識からスタートした「知識・知恵の蓄積、利用環境としてのデータベース作り」が目的である。そして、その目的がより普遍的なものであるが故に、各種の標準をその一部として含むような意味合いの広さがあって、各標準化グループから注目されるのである。

ユニークで有用なAMPAC

以上、AMPACについてその主旨のみを紹介、その仕組みの説明は省略した。「だんだん賢くなる印刷機」「完全自動の印刷機」の実現は「やはり絵空事」と感じている読者が多いだろう。もちろん、完全自動化は可能性であってその実現が保証されていると考えているわけではない。

しかし、もし、AMPACをあるメーカーが単独で発案して特許として押さえたとしたら、そのメーカーはとてつもなく大きなビジネスチャンスを手にできるといったほどの重要性を持っていること、また、少なくとも、知恵の蓄積とその利用は、印刷作業の標準化や技術のレベルアップに多大の貢献をすることは間違いない。全ての知識が集まらなくても、それなりの有用性を発揮するというのも、AMPACの優れた仕組みである。

ただし、AMPACが持つ機能は蓄積すべき知識の箱や仕掛けであって、初期の目的に近い成果を得ていくために必要な箱の中身は、多くの業界人の努力と協力、そして時間が必要なことはいうまでもない。だからこそ、今回のトピック技術セミナーにご参加いただき、AMPACが大きな期待を掛けるに足るだけのものであることをご理解いただきたいと思う。

(出典:社団法人日本印刷技術協会 機関誌「JAGAT info 2000年11月号」)

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第27回JAGATトピック技術セミナー案内

特別講演予稿 その1[印刷工程のためのデータベース構造モデル]

特別講演予稿 その2[印刷・製版ワークフローからみるAMPACの利用]

特別講演予稿 その3[AMPACの印刷機械への利用]

2000/11/14 00:00:00


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