グーテンベルクの印刷術は人類の歴史上,最大の発明であるとさえいわれている。これをもとにした平圧印刷機の時代は19世紀まで続いた。
19世紀になって蒸気機関で駆動する円圧印刷機が生まれ,飛躍的に生産性は伸びた。その後,ストップシリンダ印刷機や2回転印刷機が開発され,19世紀の終わりに,やっと平版輪転印刷機が生まれている。
現在の高速印刷機と,20世紀初頭の印刷機との大きな差を考えると,まさに,印刷機械は20世紀に飛躍的に発展したといえる。
グーテンベルクから19世紀の終わりまでの5世紀の間の進歩に比べ,何倍もの進歩が20世紀には達成されている。
また,20世紀は凸版印刷が衰退し,オフセット印刷が発展した世紀と位置づけることもできる。18世紀末にセネフェルダーが発明した石版に端を発した平版オフセット印刷の技術は,20世紀になって花開き,20世紀はオフセットの世紀となった。
さらに,グラビア印刷機やフレキソ印刷機,スクリーン印刷機など,さまざまな印刷機が発達し,世紀の終わりにかけてデジタル印刷機が生まれた。
さて,20世紀を印刷機械という観点から振り返ってみたい。20世紀は印刷機械が,絶えず高速化,高品質化,自動化へ向けて急速な進歩を遂げた時代であり,特に世紀後半の進歩は革命的であった。
DRUPA95では,KBA社は菊全高速枚葉2色機RAPIDA72Kを使って,1時間2万枚という驚異的なスピードで印刷実演を行っている。1枚ごとに紙を爪でつかんで,受け渡しながら印刷するという枚葉印刷機の構造上の制約から,このあたりが枚葉機の速度の限界のようで,速度に関してはそれ以降,目立った進展はみられない。また,枚葉機にそれ以上の高速性能を求めるニーズもなく,20世紀で枚葉機の高速化は完成されたといえよう。
(中略)
印刷機械の改革と進歩は,20世紀の間,絶えず行われてきたが,20世紀が終わりに近づくにつれて,変化のピッチが早まっている。90年代の10年間の変化は,20世紀のそれまでの90年間の変化に匹敵するのではないか。
今年のdrupa2000では,インディゴ社のベニーランダ会長がインディゴ製デジタル印刷機を前にして,「デジタル印刷機は今や,小型オフセット印刷機に匹敵するまでの生産性と品質をもつようになった。5年前のDRUPAで,だれがここまでの発展を予想しただろうか。将来,トナーを使ったデジタル印刷機は,紙にインキを乗せる従来の印刷機に取って代わるだろう」と自信をもって語っている。
20世紀はこれまでの活版印刷が衰退し,オフセット印刷が全盛となった世紀であったといえよう。
最近の印刷機械の急速な変化とデジタル化の流れを考えると,10年単位では,今のインキを紙に乗せる印刷機がなくなることは考えらえないだろう。しかし,1世紀という単位でみると,15世紀から続いた紙にインキを乗せる印刷の時代は20世紀をピークとして衰退を続け,21世紀が終わってみると,デジタル印刷の世紀だったと位置づけられるかもしれない。1世紀はあまりにも長く,筆者も読者もこれを確かめることができないのは残念である。
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2000/12/07 00:00:00