Print Ecology(印刷業の生態学)
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それらの思想は為政者の選択の中で、「国の形」として社会制度や社会慣行、国民のモラルを形成していった。ヨーロッパ各国は第三の道を中心に政治体制を作ろうとしているし、アメリカは人にやさしい保守政治を唱えだしたし、中国は解放型社会主義の道を歩き出した。日本の「国の形」が見えないので、国民はみんないらいらしている。「国の形」こそパラダイムなのだ。
私たちの印刷界も、会社経営も、いつまでも迷ってばかりいないで新しい経営モデルを見つけなくてはならない。私は大胆に私見を述べて各位の参考にしてもらおうと思う。勿論、各位の経営モデルは自分で作るものではあるが、私が提案するモデルが各位の導火線になってもらえれば幸である。
1)経営の視点はstake holder(利害関係者)とshare holder(株主)の2焦点
経営者にとって経営活動の監査機能は、昔は実質的には、銀行、税務官庁、労働組合であった。公認会計士や株主は右肩上り経済の時は気にしなくても良かった。利益も出ていたし、株価もそれなりに上がっていたからだ。従って、会社は株主のことより、従業員、銀行、得意先、同業者、仕入先、近隣住民という利害関係者(stake holder)を中心に経営をすれば良かった。
最近では利益が出ない経営になったし、銀行は不良債権で自壊したし、税務官庁も労働組合も監査機能を弱めてしまった。これからは利益のでない経済環境の中で、利益を出す経営を求められるので、会社の監査機能を持つ者は株主、監査法人(Auditor)、公認会計士ということになる。そこで会社経営は株主(share holder)重視ということになる。
その一方、会社は社会的に法人格を持つものとして、公害対策、環境対策、従業員教育、ヒューマンリレーション、介護休暇、各種保険(年金、健保、雇用など)等について新しい視点で果すべき社会機能が求められるようになった。それは従来の利害関係者とは内容の異なる新しい利害関係者である。その意味で、新しい経営視点はshare holder(株主)とstake holder(利害関係者)と二つの焦点を大切にしなくてはならなくなった。
●資本と経営が分離しない経営モデル
旧パラダイムの時代、すなわち工業化社会、企業中心社会の時代には、私たち経営者は資本と経営の分離こそ近代経営だと教えこまれたものだ。私たちは資本がなければ経営できないが、旧パラダイム時代の資本調達は、現在のように直接金融に比重がかっているのではなく、銀行を中心とした金融機関を通した間接金融に比重がかかっていた。だから事業さえ順調なら資本調達は銀行がしてくれるもの、天から降ってくるものと考えることができた。
中小企業の場合は社長が資本家(大株主)と経営者の二つの人格を兼備しているので分離が難しいのだが、当時の社会通念、経営者モラルとしては資本家としての機能は陰にかくしておくことが美徳とされていた。利益が出たら資本家としての経営者に還元するよりも、殆どを内部留保として会社に還元すること、すなわち会社経営者の機能を表面に出すことが大切であった。社長は機能としては二重人格者なのだが、資本家より経営機能を重んずる事、それを資本と経営の分離として教えられた。だから私は中小企業の経営者はキリストか仏陀かと言って、自分の利益、資本家の機能を放棄した姿を揶揄したのである。工業化社会、旧パラダイム社会のような間接金融と右肩上り経済が終えた今日では、資本と経営の分離という社会慣行も終ったと考えなくてはならない。
勿論、上場して株式を公開している大企業にとっては、会社の規模が大きいので、大変な経営努力を必要とする。利害関係者(stake holder)の事を常に考えていなくてはならない。しかし、公開企業である以上、株主(share holder)の利益も重要である。両方をにらんでの二方面経営は、複雑で大不況の今日では、上場大企業にとっても非常に難しくなった。そこで役員機能を二つに分け、株主利益のための法的取締役会と、利害関係者のための執行役員会と二つの役員会を持つ会社が増えてきた。資本と経営を分離しながら、会社全体としては合体させようという試みだ。
中小企業であっても資本家を大切にする慣行、株主を重視する慣行、資本の機能を重んずる経営、この事を忘れてはならない。会社の創業年数が30年、50年と古い会社なら、今日ではいくら土地や株の価格が下がったとはいえ、まだまだ充分な含み資産を持っている。そうした含み資本を再評価し、その新しい資本にふさわしいROE(Return On Equity、株主資本利益率)が確保されなくてはならない。そのROEこそ株主配当の源泉だからである。
そうしたROEを満足させるような経営を行うこと、それが資本と経営の合体であり、share holer(株主)もstake holder(利害関係者)も満足させる経営なのである。この経営思想は何も経営者だけのものではない。会社の中心社員全体の思想に広げなければならない。そして、その経営が成功した時には、その中心社員の人たちには報償の一形態として、ストックオプションが与えられるケースも増えてきた。最近のように株価が低迷している時には、ストックオプションの効果もでないので問題視するようになったが、いづれにしろ何らかの報償で報いようと言う思想は大切なことだ。
2001/07/16 00:00:00