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わが社はISO9000を通して何を目指したか

株式会社 アイワード 総務・共育部 国安 保
(品質システム管理責任者)

品質ISOシステムは、経営計画を実現するために役割を果たさなければなりません。特に、お客様の期待に応えることとコスト管理を両立させる機能が求められていることを銘記し、システムの向上を追求していきたいものです。
札幌市中央区に本社を持つ(株)アイワード様のISO9000取得体験談をお届けいたします。

はじめに
 当社は、札幌市中央区に本社がある従業員数235名の印刷企業です。本社には営業・システム・総務・管理・プリプレスの各部門、隣接する石狩市に業務・刷版・枚葉印刷・オフ輪印刷・製本の部門を持つ石狩工場、東京都文京区に首都圏の営業を担当する東京支店があります。企画・情報処理・印刷を事業の中核に活動しています。

今回、品質マネジメントシステムISO9001(1994年版)の登録を2001年5月11日付で取得しました(登録証番号JQA−QM6545)。ISO取得にいたる経緯と目指したことを述べさせていただきます。拙文が少しでもお役に立てば幸いです。

1.ISO取得の動機
 1999年12月29日、恒例の全社員会議において社長から2000年度の経営計画として以下の方針が示されました。
(1)経営環境はますます厳しくなり、お客様は安い価格で望むものを作ってくれる会社しか選ばない。この期待に応える力をつけなければならない。
(2)このため、全社がお客様の視点で考える立場を貫くよう、体質を改善し社内改造を実現する。その重点は「1.個人から仕組みへ 2.経験から科学へ 3.結果から事前へ」である。
特に、(2)の具体化として「全部署の作業マニュアルを1月〜3月の期間で作成すること」が指示され、私を含め3名が専任の事務局としてこの任にあたることとなりました。
 従来、どちらかというと個人の経験に頼って仕事を進めていることが多く、部分的なマニュアルはあっても、全部署・全工程を対象としたマニュアルは、その必要性は認識されながらも、なかなか作成されずにいました。速く、大きく変化している時代に適応するために、自社の活動を「マニュアル」の形で客観的に見つめ直して、お客様の期待により高いレベルで応えられるよう再構築するという狙いです。

 この時点では、ISOの取得はまだ具体的な目標ではありませんでした。まず、現行の作業を文書にして客観的にしようという目標設定です。3カ月という限られた期間でしたが、全社がマニュアル作成に取り組み、3月末には全部署分合計約1100ページのボリュームに実を結びました(後日、品質システムの標準書としてはこのうちの一部を改訂して発効しました。ここでまとめたものは、教育用の資料として活用しています)。
一方、マニュアル作成の進行と前後して、全国的にISOの認証取得がさかんになってきており、北海道内の印刷業界でも大手が取得を進めているとの情報を得ていました。このため、作業マニュアルの作成は、ISOの取得に結びつけた方が今後の自社の発展にもメリットとなるとの判断から、プロジェクトは事務局体制ともども、ISO9001認証取得プロジェクトに発展しました。2000年4月7日、新入社員を迎えた全社員会議の場では、マニュアル作成の報告と同時に「認証取得キックオフ」が行われました。お客様の視点に立つ営業活動、ノーミス・高品質・高生産を徹底するという経営目標も再度確認されました。

2.品質システムへの道のり
 ISO推進プロジェクトチームは、担当統括役員と各工程の部門長および事務局で構成されました。
 キックオフ後、プロジェクトチームの論議は「これを契機に、現行の社内システムを見直す」方向で進みました。お客様の視点に立つ営業活動、ノーミス・高品質・高生産の徹底、時間外労働の削減が当年度の経営目標の重点でしたので、ISO取得はこれらと密接に結びついたものにしたいと考えたからです。

 各自、日常の業務で問題点を意識しているメンバーなので、目指すところは理解しているのですが、具体的なプランとなると結論を出すのには予想以上に時間がかかりました。振り返ってみると、見直しの議論に時間をかけ過ぎて実践段階の期間が短くなってしまったという反省がありますが、現状の問題点に対する理解を深め、共有するという点で有用でした。
以下、品質システム構築にあたり話し合いを重ねたテーマをいくつか紹介します。

●設計の定義
 営業部門では企画・デザイン、出版の支援、各営業ステップでの提案など、川上にアプローチした活動が少なからずあるので、認証取得を考えたときから規格は「9001」と疑問なく考えていました。しかし、プロジェクトチームで規格の認識を深め、実際の当社の業務を振り返る中で、「設計の定義」が大きな議題となりました。

 ほぼすべての製品が受注生産であるため、考え方によっては全製品が設計の対象ともなりえます。すべてではなくても、営業サイドから提案やデザイン提示をするものは設計にあたるのではないか、等々。ここには、近年原稿はある意味「不確定化」しており、顧客から信頼を得ている営業マンであるほど、相談を受け提案しながら仕事を進めている傾向が強く、それらが【型にとらわれずに】できるからこそ受注に結びつくという実態があります。

 ISOの「設計」で要求されている「計画→審査→検証→妥当性確認」及び「変更連絡」に関わる記録を残すことは、製品の適用範囲を広くすると運用が非常に難しくなると予想されました。
 長い議論と、コンサルタントとの相談の上「原稿作成を委託された場合、営業部が主導して行う原稿作成のプロセスを設計に適用させる」という方針が決まりました。原稿作成から受託した場合、製品に対する注意や配慮はよりシビアですし、計画性もより求められるといったことから、「設計」に対する要求事項を積極的に取り込めると判断したのです。
方針は決まったものの、実際に運用を開始すると、慣れないせいもあってなかなかルールにのっとった運用ができませんでした。きちんと記録が残らないのです。事務局で営業部をリードして、該当する製品の設計記録を(後付であっても)整備してもらう、ということも行い経験を増やしました。

●作業指示書の「改訂」案
 当社では5種類の「作業指示書」を製品の仕様に応じて使い分けています。これは、営業部門で受注時に起票され、以後最終納品まで全工程で製品とともに進んでいきます。共通した製品作成仕様書が全工程を貫通して動いているというのは、非常にシンプルでわかりやすいというのが利点です。ただ、現行では営業からプリプレス部門の本社と、刷版・印刷・製本部門がある石狩工場とでは、作業指示書の中で利用する項目が違います。ISOプロジェクト発足前から、プリプレス用とプレス以降の工程で別仕様の作業指示書を持った方が良いのではないかという意見があり、この問題はプロジェクトチームの中でも引き続き議論となりました。

 他社では、印刷の台ごとに指示書がついているということも珍しくなく、実際にサンプルを入手して検討も行いました。  作業指示書に関わって並行して話し合っていたのは、各工程の責任の問題でした。これは「組織の責任及び権限の明確化」という要求事項と、当社の現実を照らし合わせて、責任を持って次工程に仕事を引き渡し、誰が行ったことなのかを、よりわかりやすく示せるような仕組みを作りたいという動機によるものです。

 結論をいうと、
(1)作業指示書は現行どおり。補完伝票も作成しない
(2)「工程進行記録表」を新たに作成し、ここに各工程の担当者が押印することで、計画された工程が完了した証とする。
となりました。

 作業指示書に関しては、確かに工程ごとに専用の指示書があったほうがチェックポイントも集中して表現でき、使い勝手が良いと考えられます。ただ、これを実行に移すとなれば『どの部門の責任で重要な工程に関わる指示書を発行するのか』という運用上の問題が現れます。工程情報を完全にデジタル化すれば、これも可能かもしれませんが、現行では困難というのが話し合いの帰結でした。

また、この論議の背景には「作業指示書の内容がわかりづらい・不明確」、「必要な情報が工程間で連絡不十分」といった当時の問題点を改善したいという動機がありました。しかし、これらも話し合いを進めるにしたがって、「問題点の多くは作業指示書に基づく作業進行という【原則】からはずれることで生じている」という認識に帰着し、現行の作業指示書の積極性を品質システムでより生かそうという結論に至りました。
工程進行記録表は、各部門・工程での役割遵守を【押印】によって意識するという効果を果たしています。もちろん実際はこれだけで済んでいるわけではありません。プリプレス部門と営業部門・管理部門は、原稿や校正ゲラという【顧客要求事項のかたまり】をいつも扱っていますから、これらに対する重要度は品質システムの構築によって、より一層増します。校正ゲラに担当営業やお客様が内容確認の上で押印・サインをする「校正札」は従来から付いていましたが、品質システムの運用にあたって、この「校正札押印の原則」はより強調されました。

3.ISOの効果
 登録証は取得しましたが、品質システムを力にしてその成果を出していくのはこれからが本番と自覚しています。まだ緒についたばかりの当社の品質システムではありますが、ISOへの取り組みを契機に、少しずつではありますが、その効果が現れてきています。
 当社では全従業員が日報を書き、そこから共有すべき情報が選ばれ社内報に掲載されます。社内報は毎週2〜3回発行されます。最近掲載された内容からISOに関係するものをいくつか紹介します。

▼システム部 K部長(2001年5月23日)
「ISOの宣伝物を持ってA社を訪問。最近は病院でもISO9000を取るところもあり、興味を持って話を聞いてくださった。東京でも印刷業者がISOを取ったという話はそれほど聞かないとのこと。大日本印刷や凸版印刷は取っていると思うが、宣伝はしていないようだった。」

→営業上の効果の例です。お客様の中にはすでに認証を得ている企業、ISOに興味を示されている企業が少なくなく、新たな信頼関係を結ぶチャンスとなっています。反面「ISOを取得したと聞いたのに、最近の製品は・・・」とお叱りを受けることもありますが、これも社内で品質に対する自覚を求めるという点では、有効に生かせます。

▼プリプレス部 集版グループ Y部長(2001年6月13日)
「ISO設備管理点検記録より、2カ月毎、3カ月毎の点検日が近づいてきています。今日はプリンターの注油を終わらせました。今月中点検を予定している、コンセンサスが残っています。空き時間をみて実行していきたい。」

→設備点検の定期化・記録は、ISOプロジェクトで形になったもののひとつです。定期点検には予防効果もありますので、積極的に活用したいと考えています。

▼枚葉印刷部 K部長(2001年6月13日)
「ミスの再発防止について、特別に有効な手立てがわいてくるようにはならないが、ISO認証後は以前に比べ、少しは根本原因に迫るような姿勢が全社に起きつつあると思う。
 報告書の提出、問題解決の方策が要求され、『どうするか』と考える時、自然と目がいくのはやはり現場であり、一人ひとりの動きだ。今では全部の刷り出しに私とM次長が立会いOKを出すが、それは否応なくそのオペレーターの仕事振りそのものを見ることになる。刷り出しから刷了までの一連のチェック、刷了してからのチェックによって、きちっと製本渡しができるように決着をつけられるようにオペレーターの力をつけないとならない。」

→不適合品の発生に対して、従来以上に「原因の追求」と「対策」を求める姿勢が現れているという例です。ここで指摘されているように、やはり問題解決のカギは現場にあります。品質システムを実のあるものとするには、各部門長が自部門のあるべき姿を描いて、そこから現実を見直すことが必要と考えます。

4.今後の品質システムの活用
●自社基準の充実
 プロジェクトの過程や審査を通じて痛感したのは、基準・標準の材料不足でした。標準書は一定の形にはなったものの、現段階ではまだ作業手順の記述が中心で、「この状態が当社の品質保証の上で標準である」という内容はこれから充実させていく方針です。作業手順を客観化できたことは重要な成果ですが、これは設備の更新や作業フローの変更によって動くものなので、それよりも寿命の長い「基準」の設定に重点を移したいと考えています。

 ISOには「不適合(品)」という用語があります。要求事項を満たしていないとの主旨で、非常に重要な概念ですが、これは逆に考えてみると「適合(品)」とは何なのかという問いかけでもあります。受注生産主体の印刷業では「顧客要求事項」は最も重要な基準ですが、「自社が要求する基準は?」と考えると、当社の場合この掘り下げが今後の課題となっています。

例えば、資材の管理方法、工程間の取り決め、スケジュールの管理と連絡方法、データの保管ルール、製品の良否のガイドライン、工程内点検の方法やポイント等々深めたいことは数多くあります。これらがより客観的に表現され、材料を増やすことができれば、将来「これがアイワードのスタンダードです」とお客様に提示することも可能ではないかと思うのです。そして、このような自社基準の充実が、不適合(品)に対する敏感さと相乗して、品質改善に結びついていくと考えています。

●経営計画との結合
 当初からISOプロジェクトは、経営目標に組み込まれて進行していました。今年策定した当社の「21世紀第1次5カ年計画」では経営の安定化が重点となっており、「1.顧客重視 2.利益重視=従業員一人当たりの売上額アップとコストの引き下げ 3.デジタルワークフローの重視」を戦略と位置付けています。

 品質システムは、こうした経営計画を実現するために役割を果たさなければなりません。特に、お客様の期待に応えることとコスト管理を両立させる機能が求められていることをはずさず、システムの向上を追求して行こうと意を強くしています。

2001/08/30 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会