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デジタルコンテンツIDの考え方

電子出版,映像・音楽,アニメ・ゲームなどのデジタルコンテンツが,オンライン上で単独の商品として流通できる仕組みが,次第に整備されてきた。それと同時に,デジタルコンテンツをめぐる法的環境の整備の重要性も高まってきている。デジタルコンテンツを財として機能させるためには,著作権の技術的保護手段の確立と法制度とのバランスが必要である。
通信&メディア研究会における,コンテンツIDフォーラムの岸上順一氏の講演をもとに,IDとメタデータで著作権を保護しつつコンテンツを識別させる,コンテンツIDの考え方を紹介する。

IDとメタデータでコンテンツを識別する仕組み

デジタルコンテンツは,劣化なく複製が容易で,加工・再加工が可能であるにもかかわらず,コンテンツの不正コピーを監視する方法がない。世界中の全コンテンツの中から必要なものを検索し,正規の手続きを行って購入する方法もない。また,インターネット上のデジタルコンテンツ再利用に関して,その権利関係を調べる手段が少なく,それが本物かどうかを見極める方法もない。

現在,これらの要因がデジタルコンテンツ流通の妨げとなっている。この問題を解決しようと考えられたのが,「コンテンツID」の仕組みである。「コンテンツID」とは,デジタルコンテンツに割り振られたユニークコードを含む,内容・属性を的確に表現するメタデータセットのことである。

コンテンツIDフォーラム

コンテンツIDフォーラム(cIDf)は,東京大学・安田浩教授の提案のもと,1999年8月に設立された,非営利組織である。
コンテンツの唯一性を保証し,その価値の安定性も図りながら,二次著作物の利用も可能なオープン型環境の整備,優良なコンテンツの流通を目指そうと,「コンテンツID」の考え方を提唱している。また,恒久的なコンテンツIDと,コンテンツのメタデータ記述やメタデータの階層的管理方法などの仕様開発を行っている。

会員は日本の企業・団体をはじめ,韓国,米国など海外からも増えている。cIDfへはコンテンツホルダ,技術提供会社,サービス提供会社など,幅広い興味のある組織からの参加があり,日本政府外郭団体支援による実証実験なども幅広く行っている。

今後の活動において,国内外の国際標準化団体との協力関係を築きながら,「コンテンツID」のグローバルスタンダード化実現を目指し,活動している。その他,具体的な活動内容は,公式URL(http://www.cidf.org/)を参照してほしい。

著作権保護をめぐる標準化団体

最近では,著作権を保護する技術的手段も出てきたし,ID,メタデータ(属性情報)を検討している組織も増えてきた。インタ−ネットでは,W3C(World Wide Web Consortium),放送では,TV Anytime,EBU(European Broadcasting Union;欧州放送連盟),SMPTE(Society of Motion Pictures and Television Engineers;映画テレビ技術者協会),ARIB(Association of Radio Industries and Businesses;電波産業会)などの団体が代表的である。ライブラリでは,MPEG-7などがある。MPEG-7は映像・音声を検索する機能を実現し,マルチメディアコンテンツの流通の促進を目的としている。

cIDfは,1999年12月,MPEG(Moving Picture Expert Group;カラー動画画像の圧縮方式の標準化を目的とした団体)へ初参加し,コンテンツIDとメタデータの標準化を訴えた。その後も,MPEG-21への対応をすべく,活動を行っている。

コンテンツIDの構造と付与方法

デジタルデータは,コピーかオリジナルかわからない状態で数字が並んでいる。そのような非常に抽象的なものに,IDという「顔」を付けて管理しようというのが,デジタルコンテンツIDの考え方である。

IDには,コンテンツをユニークに識別するための番号や,コンテンツの内容,著作権などの権利情報,コンテンツ流通に関する情報,ロイヤリティ分配に関する情報など,さまざまな属性情報が組み込まれている。

一つのデジタルコンテンツには,一対一でIDが付与される。RA(レジストレーション・オーソリティ)監督のもと,ID管理センターの番号が割り振られる。このセンターは各コンテンツホルダやコンテンツ発行者自身,または第三者が,それぞれ運営できる。センターの内部で発行する番号を,センター自身の番号と合わせて世界で唯一のID番号が形成される。各コンテンツには,ヘッダや電子透かしなどの技術により,ユニークなコンテンツIDが埋め込まれ,属性情報の一部についても,DCD(流通記述子)として,コンテンツへ埋め込まれる。フルセットのコンテンツ属性情報は,コンテンツIDをキーに各コンテンツID管理センターが運営するデータベース(IPR-DB)で管理する。

それでは,デジタルコンテンツに,どういう単位でIDを付与するか。例えば映画を作るとき,それぞれロケをして,素材(シーン)がたくさんできる。この素材ごとに,それぞれIDを付与する。次の段階では,IDが付いた素材を集め,編集をする。編集してできた作品そのものにも,IDを付与する。IDが振られた作品が,劇場で公開されるのか,ビデオ化されるのか,またインターネットで見れるようにするのか,それぞれの流通経路などを含む形で作品にIDを付与することもある。このように,付与するそれぞれの場合において,IDを考える必要がある。

コンテンツIDの機能

コンテンツIDの主な機能は次のとおりである。
(1)コピーライト機能:コンテンツの権利関係などの属性情報を知ることができる。
(2)コンテンツ属性検索機能:コンテンツを同一基準で検索することができる。
(3)不正利用検出機能:コンテンツIDをキーに,ネットワーク上の不正利用コンテンツを検出できる。
(4)正当性検証機能:該当コンテンツの不正改竄が行われていないか,コンテンツ正当性をチェックすることができる。
この他にも,編集履歴参照機能,バーコード機能などがある。

コンテンツビジネスにおける社会的メリット

コンテンツIDをキーに,人手を介することなく,対象コンテンツの課金やロイヤリティ分配を効率良く行える。また,不正利用監視の効率化,マーケット情報収集の効率化も可能となる。また,多くのコンテンツが再利用可能となる。

今後のコンテンツビジネスにおいては,コンテンツがたとえ限りなく無料になったとしても,コンテンツIDに組みこまれたメタデータの部分で課金することが可能な時代も来るのではないだろうか。(通信&メディア研究会)

■出展:JAGATinfo 2001年9月号より

2001/09/08 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会