本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。

RGBデータのハンドリング

印刷業界における,RGBデータの取り扱いはどこまで進んでいるのか。クライアントの意識はどのように変わってきたのか。
見直しシリーズ「RGBを制するものはデジタル時代を制す?」から,前号の「RGBデータの活用法」では,主にRGBデータのカラーマネジメントを扱ったが,今回は(株)恒陽社の石塚晃氏の話から,データのハンドリングについて紹介する。

誤解されるRGBデータ
RGBデータというと唯一無二のものというイメージがあるが,実際にはRGBのカラースペースによって同じRGBの値でも色は異なる。製版で画像処理をする場合,CMYKについては紙質やインクの材質の違いによる色再現の違いを考慮していたのだが,RGBデータについては,ひとくくりにしてハンドリングしているのではないか。ところが最近,デジタルカメラのデータ入稿などで,RGBデータといえども決して一定の条件で表現できるわけではなく,RGBデータについても,撮影条件やプロファイルなどを考慮してハンドリングをしないと,まともな色を品質保証できないということがわかってきた。このことは,クライアントにもだいぶ理解されるようになってきている。

クライアントの変化
大企業ではDTP内制化を行っているところがある。うまくできればしめたものである。今まで年間何千万円という印刷代を払っていたのが1000万円でもコストダウンできれば御の字である。そんな話とDTPの話がかぶさって,デジタルアセット管理という話が出てきている。
画像データベースを自社内にもっていて,そのデータの切り抜きと色修正のみを恒陽社に発注してくるクライアントがある。デジタルカメラで撮影した画像データを受け取って,クリッピングパスをつけてEPSにして先方に返しているのだが,その画像データに関しては印刷でも社内でも使うということである。現在はデータをCMYKに変換して納品しているが,今後はRGBのままでプロファイルをつけて保存しておけば,どんなデバイスからも同じ色で出力できることになると思う。技術的な環境は整ってきているので,そこまで行き着くのはそんな遠い将来ではないだろう。そういう方向に作業方法やクライアントの意識が変わってきている。いつの間にかそれが当たり前になってしまうという状況の中に取り残されないようにしなければならない。

デジタルアセット管理
印刷用のデータに限らず,テキスト,画像,動画などありとあらゆるデータをサーバに入れて管理しようというのが,デジタルアセット管理である。印刷用の実画像データは重いので,例えば,インデックス画像,表示画像,印刷用オリジナル画像というように,ひとつの画像データを用途別に必要なサイズに階層化して管理する。印刷会社でもアセット(資産)という意味合いではCMYKよりRGBデータのほうがはるかに汎用性が高い。
データベース化とデータの再利用は,印刷会社以上にクライアント企業では考えている。従来の印刷用画像はデータ量が大きすぎて管理の範囲外であったが,うまく組み入れるような仕組みを作ろうとしている。単純にデジタルカメラのRGBデータをCMYKに変換するとかという話ではない。クライアントのデータ管理の考え方が変わってきているのである。従って,印刷会社もそこまで理解して,仕組みを考えていかないといけない。

技術環境の変化
一方で,印刷業界の技術動向としては,PostScript3のRIPの導入とPDFの活用が本格的になりつつある。PDFにはCMYKのICCプロファイルを埋め込んだRGBの画像データが埋め込まれる。PostScript3のRIPを使うことによって,RGBデータをRIPの中でCMYKに変換してそのまま出力してしまうという仕組みもできてしまう。そうすると印刷のワークフローが大きく変わる。同じ画像データであれば,RGBのほうが,CMYKよりも1色少ない分画像容量が少なくて済む。また,データフォーマットはWindows環境がからんでくると現在主流のEPSよりもTIFFのほうが都合がいい。今までTIFFはクリッピングパスをサポートしていなかったが,やっとサポートするようになったのでEPSの代わりに使うことができる。つまり,RGBのTIFF画像をレイアウトソフトに貼って,RGBのままPostScript3のRIPに転送して,分版出力するという仕組みが現実のものとなりつつある。ネットワークの負荷を考えても,RGBのコンポジットファイルでの転送は,生産性の向上につながる。そういう意味ではワークフローをそろそろ変えてもいいのではないかと思っている。また,PDF入稿が増えてくると,RGBデータをハンドリングしなければいけない状況になる。
とはいえ,設備の更新には,古い機械の減価償却を考慮しなければならないし,PDFをハンドリングするには,CIDフォントを新たに購入しなければならず,そうそう簡単には切り替えられない。

重要性を増すプリンティングディレクターの存在
一昔前のプリンティングディレクターの役割といえば,入稿した透過原稿の調子によってグループ分けをして,スキャナオペレータに分解指示をすることであったが,今は,クライアントと直接コミュニケーションを取り,クライアントのニーズを技術的にサポートすることが求められている。その際,個別の案件に個々に対応するのではなく,組織的に対応する必要がある。デジタル化によって,よりダイレクトに仕事が進んでいく以上,クライアントに近いところで対応する仕組みを作っていかなければいけない。
古き良き時代の話をすると,1点当たりスキャナで分解すると何千円などという値段がついていたが,今は1点1000円を切るものもある。そのような仕事をいろいろな人間が介在して仕事を回していたら,とてもコストは合わない。RGBデータのハンドリングについても,一件一件手間をかけて処理するのではなく,スムーズに仕事が流れるような仕組み作りに会社をあげて取り組まなければいけない。
アップルのホームページでは,Macintosh版のInternet Explorer4.5を使っての,Webでのカラーマネジメントの例が公開されている。ICCプロファイルが埋め込まれたガンマ値の異なるJPEGの画像が並べてあり,そのままでは色が合わないが,ColorSyncの設定をオンにすると色が合うというものである。Macintoshの標準のガンマ値は1.8で,Windowsは2.2であるが,ColorSyncを使うとクロスプラットフォームでカラーマネジメントできるというデモである。
WindowsはまだColorSyncを標準でサポートしないので,Macintoshのユーザに限られてしまうかもしれないが,少なくともWebサイトの発信側はRGBデータのJPEGファイルにプロファイルを埋め込んで発信することで,送り手と受け手で同じ色で見える。当然,モニタの調整をきちんとやる必要があるが,少なくともテクノロジー的には可能である。
そして,このようなことを印刷会社以上にクライアントがよく知っている。それで一番困っているのは営業である。しかし,プリンティングディレクターが個別の案件をサポートしていると,本来の仕事ができなくなってしまう。だからこそ組織的に対応する仕組みが必要なのである。(テキスト&グラフィックス研究会)

(JAGATinfo 1999年9月号より)

1999/10/18 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会