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Mac OS漢字Talk 7.1とTrueTypeの登場─フォント千夜一夜物語(9)

アップルの新OSである「システム7」と「TrueType」の英文版が1991年5月に出荷さ れ、日本語版も「漢字Talk 7リリース7.1」として日本市場へ出荷することを発表した。 日本語版は1992年12月から、TrueTypeのアウトラインフォントと「漢字Talk7.1」が組 み込まれて出荷された。

TrueTypeとはフォントラスタライザのことをいい、アウトラインフォントをビットマッ プに変換するソフトウェアである。特徴としては画面表示とプリントアウトの両方ができ る機能をもつことである。

当初Macintoshはドットフォントを使っていたため、文字品質には限度がある。画面が 72dpi程度でドットフォントを使っているかぎり、いろいろな書体を任意の大きさに表 示・印刷できるとはいえ、WYSIWYGということにはならない。しかも高度なグラフィック スソフトに対応できなくなる。

そこでアウトラインフォントの必要性が起き、アウトラインフォントの自社開発に踏み 切った。これが「TrueType」である。

今までドットフォントかアウトラインフォントを、プリンタのRIPに搭載しなければ文 字が出力できないと思っていたユーザーは、プリンタフォントがなくても印刷ができるこ とに驚いた。と同時にプリンタに対するフォント負担が軽減されることを喜んだ。

「漢字Talk 7.1」に標準搭載されたTrueTypeフォントは、リョービフォント2書体(本 明朝M/丸ゴシック=シリウスM)、平成フォント2書体(平成明朝体W3/平成ゴシック体W5)、モリサワフォント2書体(リュウミンL-KL/中ゴシックBBB)、OSAKAの計7書体である。

その他に欧文TrueType(Bitstream社提供)の9書体が標準搭載されている。この TrueTypeの登場が、RIPやフォントをもたないプリンタ(ダムプリンタ)を実現させ、プ リンタの低価格化を促進した。それがクイックドロープリンタである。

●OSレベルでサポートのマルチフォント環境
フォントラスタライザの「TrueType」と漢字TrueTypeのアウトラインフォントを Macintosh本体側に組み込んで、画面表示と印刷の両方に使う機能は、OSレベルで漢字マ ルチフォントをサポートするという新しいフォントテクノロジーである。

これらのフォントテクノロジーが、今では当り前になっているパソコンOSの標準機能へ と発展し、その後Windowsの環境もWindows3.0の「WIFEフォント」やWindows3.1の 「TrueTypeフォント」などを生み出した。

RIとBitstreamにとって、アップル社とのライセンス契約は初めての大きなフォントビ ジネスであった。ところがフォント使用許諾条件で、アップル社とRIの間で重要な食い違いが起きた。つまり使用解像度範囲についてである。

RIの提供条件は出力解像度制限を600dpiとするというものであるが、アップル社/ Bitstream社側はRIがフォントに解像度制限を設けるというコンセプトが理解できず、解像度フリーという主張をしてきた。

欧米では市販の欧文のパッケージフォントを見ても、欧米人の考え方はフォントに解像 度制限などを設けるという発想はない。この問題は1書体が256文字世界の文化と、1書 体が数千文字世界の文化の違いであろうと思える。しかしこれは単に文化の違いだけの問 題ではなく、開発コストに関係することでもあるから、当事者にとっては重要な要素であ る。しかし島国根性的発想といわれるところでもあろう。

技術的に見ても、TrueTypeテクノロジーのコンセプトに解像度制限というものは存在し ない。ポストスクリプトフォントのように低解像度版とか、高解像度版に区別することが できないのがTrueTypeでもある。

アップル社とRI社は何回も交渉を重ねた結果、アップル社側が譲歩し600dpiの解像度 で落ち着いたが、後にMac TrueTypeの存在に禍根(かこん)を残すことになった。それは、プリンタの技術進歩の予測を誤ったことにある(つづく)。

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2002/08/10 00:00:00


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