本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。

印刷情報産業の未来

■ASIA FORUM
第6回シンガポールFAGAT(2002年)
シンガポール 講演レポート概要

January 10, 2003

Mr. Winson Lan(A&P Co-ordinator Pte Ltd・CEO/PMAS委員会委員)

私の発表は「私たちの業界に未来はあるのか、あるとすれはどういう未来ですか、ということです。
まず最初に、前回のフィリピン・マニラにおいて私どもPMASのTOON SANTEN氏が印刷業の未来のついて述べましたが、ちょっと思い出していただくためにSANTEN氏の意図をまとまてみたいと思います。

●これからの印刷を考える

"ink on paper"は引き続き重要なコミュニケーション手段として生き延びていくであろう。
『使いやすい、廉価です、持運びが良い、世界中で受け入れられている、多様性、耐久性、実用的、環境にやさしい、』などは重要な利点です。たしかに電子メディアの登場は脅威ですが、これをチャンスとみるべきです。しかし印刷といってもデジタル印刷は従来とかなり違っている。10年間で印刷の中でこのデジタル印刷が最も急成長している分野です。その重要な動向がカスタム化、個人化ということです。印刷物に対してカスタマイズができ得意先に個別対応が可能になったことです。つまり個別化されたサービスが可能になったことです。ただそのためには個別の情報を収集・処理できる体制があるかどうかです。このデジタル印刷についてはCRM、つまりカスタマー・リレーションシップ・マネジメントを担当している人には特に重要です。個々の得意先のニーズを把握してカスタム化されたソリューションを提供します。
デジタル印刷は従来の印刷とはかなり異なっているものの、品質・コスト面は従来の印刷のかなり接近しており、それは、ザイコン社、ゼロックス社、キャノン社、ハイデルべルグ社、インディゴ社の各社の努力によって大きく進展しました。

World Wide Webなどを利用した印刷のあり方が差別化、競争力になっている。印刷技術の発達は、従来の印刷の概念を大きく超えて発展しています。すなわちデジタルワークフローという概念が導入され、印刷プロセスの生産性が全体として向上しました。得意先はコスト面をかなり気にするが、デジタルワークフローをうまく利用すればコストが低減されます。材料、人件費の削減も可能です。すなわち印刷プロセス全体を通して、生産性やコストの改善を行うものです。またCMSという概念も大変重要です。CMSツールの発展によって印刷の色調の一貫性、安定性がもたらされた。CMSはデジタル印刷でも従来のオフセット印刷でも大変重要です。ICCによってCMSの普及を推進しています。

以下に大変重要なキーワードをいくつか挙げたいと思います。
まず、JAVA言語です。われわれのビジネスやコミュニケーションに大きな影響を与えた言語です。インターネットでもJAVA言語を使ってのコミュニケーションが可能になります。XML言語も同じぐらい大きな影響を与えました。もうひとつ大きな影響がJDFです。印刷関係のすべての国で採用されている言語で、XMLの一部といえます。それにPDFです。
印刷業界にかぎらずすべての文書管理のフォーマットとして幅広く活用されています。印刷業界にとってこのようなインターネットや言語が発生・普及するのは脅威でもあります。インフォメーション技術(IT)が発展することで印刷のビジネスが一変しました。インターネットや電子メールなどの電子媒体を通して印刷の注文や見積もりが可能になりました。クラインアントが印刷との距離が短くなったといえます。また、仕事の進捗状況がモニターによって24時間チェックすることが可能になりました。しかもWWWによって世界のどこからでも進捗状況がチェックできます。

TOON SANTEN氏は印刷企業の合併や合従連衡はやり過ぎてはいけないと警告を発しています。ドイツのコンサル企業でもどうようのことを言っていると聞いています。ドイツでは意図的に合併を抑えているとも聞きます。これは、かつて巨大な恐竜が滅びたようなやり方をさけなければならない、ということです。吸収合併で企業があまりに大きくなりすぎると恐竜が絶滅したような運命をたどることになります。ただ、恐竜は自然界の法則の中で滅亡したが、印刷企業が滅びるのは時代に適応できなかった皆さんの責任です。

数年前までは、得意先のデータ更新は、印刷企業が行っていたが、つまりPS言語は印刷業者が握っていました。DTPは印刷業の専門的な分野であった、というのが数年前でした。しかしPDFなどが普及するにしたがい、私の秘書でさえPageMakerやPhotoshopを自分のパソコンで扱うことができます。PDFを使うことで、得意先、デザイナー、印刷会社相互のコミュニケーションが可能になっています。

    バイヤーの視点で印刷を考えてみると
  • オンラインでの見積もり
  • デジタル情報、デジタルアセットにいつでもアクセスできる
  • どのベンダーにも簡単に印刷のジョブを割り当てる自由度を希望する
  • デジタル校正にもあまり時間を掛けず正確にやりたい
  • 誰が、いつ、どこで、どれぐらいの量を印刷しているかを目に見える形にして欲しい。(どのバイヤーも大変扱いにくい存在になっている。)
  • どんなジョブでもすべて最新の進捗状況を希望している。50枚であれ、500枚であれ必要な数量を希望の日までに確実に印刷して欲しい、というプリント・オン・デマンドがますます求められています。
  • コスト面も重要。運搬・配送にあまりコストを掛けたくない。
  • 中でも重要なのが中央で管理した全体システムのモニタリング、セルフサービスで操作できるような自動化、コミュニケーションのミスや行き違いをなくする。

オンライン上でこうのようなニーズを実現していくことは大変ではありますが、できないことではありません。

●バイヤーからの新しい要求

現在のバイヤーの調達システムを振り返ってみると、まずバイヤーから印刷の要望、あるいはバイヤーの企業の経営陣から発注の許可がでて、それがいくつかのベンダーに話がいき、見積もりがだされ、各社の比較がなされ、ベンダーが選択されます。ベンダーの選択が行われたところで、注文書が発行されます。
印刷バイヤーは、組版とレイアウトを検討、ベンダーからその組版とレイアウトでよいかどうかを確認します。じつはこの辺に大きな問題があります。校正の確認が完璧にできるかどうか?
オンラインの調達システムでは様相が一変します。バイヤーはまずオンラインにアクセス、いくつかのベンダーを選んで、標準化された見積もりを出します。そうするとベンダーの選択と見積もりの処理が早くできる。ユーザーはオンラインで自動的にやり取りができるので上司からの確認もすばやく、リアルタイムで、いろいろなチェックの確認ができます。例えがE−メールなどでメッセージを送ればすぐ回答が得られる、というようにスピディーになります。内容がOKであればあらかじめ選択されたベンダーに情報が迅速に連絡できる。発注もオンラインで行うことで、すぐに印刷作業に入れることができます。これらは言うは易し行うは難しです。オンラインのシステムを完全に実施するのはかなり大変です。私自身がバイヤーであれば、このオンラインシステムに飛びつくと思います。なぜならこのオンラインのルートをたどれば全体のリードタイムを短縮できるからです。どの企業でも全体のコントロールをしたいと考えます。このオンラインシステムではもちろん中央で監視ができますが、各地域での分散型の購買システムも可能になります。もうひとつ大きな特徴ですが、バイヤーとベンダーのやり取りを閉じたループで可能になります。バイヤーもベンダーも高価なシステムを導入していることが多く、オンラインのためにまた新たな投資をすることではきません。しかし、このオンラインシステムは通常のシステムに乗せることが可能です。

実際の事例を紹介したいと思いますが、これはアメリカ購買マネジメント協会の文書の一部です。ある注文書を発注するのにアメリカで平均150ドル掛かるといわれています。日本やフィリピン、タイではそれほどの料金はかからないと思います。もしこの平均の150ドルを30ドルの低減できればすばらしい。ある会社が年間1万通の注文書を発行するとすればそれだけで、年間120万ドルを節約できます。これは発注書だけでなくすべての帳票類も同じことであり、調達全体の中で大幅なコストダウンが見こめます。このようなオンライン化、電子調達化のための方式がいろいろと発表されています。印刷のバイヤーから見てもこれらは非常に魅力です。ある例を見てみましょう。まず、まずジョブオーダーがベンダーにJDFファイルを送ります。配送に必要なもの、発注に必要な要件などがここに情報としてまとまっている。いままでのようにベンダー、バイヤーの間に中間的なものが省かれ、それによってスピードアップが計れる、というものです。従来はジョブオーダーが紙で行われるため、転記ミス、記入ミスがあったがJDFではその辺が回避しやすくなります。間違いなく仕様を伝えることができます。一回設定したデータは繰り返して書き直す必要はなく、また、これらの情報をバックエンドのデータベースに登録できますので、情報が一本化されることから、注文書とか承認書あるいは配送手配書、報告書等をひとつにまとめることができます。
もうひとつの側面が、ミスコミュニケーションを排除できるということです。オンラインでしかもリアルタイムで情報が見えるので、いろいろな誤解を避けることができます。良く利用されているのが、企業の名刺、便箋、封筒、リーフレット類の情報をデジタル化してデータバンクにまとめることによって、オンラインでアクセスできるということです。このような環境ができると、得意先データと従業員データの両方が登録され常時活用が可能になります。すなわち一つの情報ソースに検索をするので、間違いや誤解を発見することができます。
印刷に関する情報はPDFファイルに変換されてベンダーに送られるため、転記ミスなどのヒューマンエラーを回避することができます。PDFファイルは注文書と一緒にベンダーに送られますが、その中には標準化されたJDFフォーマットの形で印刷仕様に関する詳細な情報も添付されます。JDFファイルによって従来紙で遣り取りしていた無駄を省くことができます。たとえば、どのくらいのページ数か、カラーの種類はどのくらいか、仕上げ加工は、ラミネーションの有無など…これらすべてJDFファイルによってベンダーに一気に送ることができます。
もうひとつの大事な面は、センターによるデジタルアセット管理です。クライアントは一回使用したテンプレートを何回も利用することができます。設置されたテンプレートをソフトウエアからダウンロードしていつでも使うことができるので、毎回使いたびに作り直すことによるミスを回避することができます。しかもコストも低減できます。

このようにデジタル情報をセンターにアーカイブすることでアクセスが常時か可能になり、繰り返して印刷するような作業は非常に簡単になります。必要な情報は、ワンクリックで自分のパソコンにダウンロードでき何回も使いことができます。時間、地域を問わずアクセスできる自由度があります。既存のファイルにもアクセスできますので、ファイルの更新がいつでもどこでも可能です。多くの人が情報の共有化が可能です。
どの企業にも購買の基本方針があると思います。インターネットを活用することで、分散型の調達が可能になります。同時に中央で管理することも可能になります。つまり企業の従業員に個人のIDとかパスワードを設定することでシステムにアクセスできるわけですが、システムに階層を設けて、役員だけの情報、中間管理者がアクセスできるもの、一般人がアクセスできるものなど階層別に分けておけばセキュリティも大丈夫です。
もうひとつは誰が何の情報を使ったか、何をどのぐらいの数量を購入したか、など全体が見えるので、予算配分、使い方の監視、追跡が可能です。
印刷会社、デザイナー、広告でも同じ土俵で同じ情報にアクセスすることができるようになる。

●新しい発注システム〜オンラインシステム

いろいろなことをお話しましたが、オンラインソリューションがわれわれにとって脅威なのかチャンスなのか?どうでしょうか。
5年ほど前の状況と現在とは大きく変わっています。ITの進展です。従来の印刷業界にとって大きな衝撃でした。ここ数年ではオン・デマンドの要求が高くなっています。またインターネットの広がりがあります。このような新しい動きに印刷が対応するには、クライアント側も、印刷側も完全にマインドを刷新する必要があります。つまり考え方を抜本的に変える必要があります。

オンラインによる受発注で、バイヤーの要求について若干の事例を紹介する。オンラインで印刷のプロセスを手配するということですが、このような方法を「多国籍企業」の方が利用するケースが増えています。その理由はそれぞれ企業が印刷必要な情報を分散して、それぞれの地域で印刷を購買できるようにすることで、地域的な自由度を高めています。
例えば、私どものクライアントの多国籍企業ではアジア太平洋企業に直接アプローチして各地域で広告・宣伝をして、本社では全体をモニタリングをしたいという要求があります。オンラインシステムは格好の手段になります。もっと具体的にいうならば、アジア太平洋地域15カ国で15種類の通貨、10種類の言語をカバーできるような調達システムを要求されています。企業はシンガポール以外で活動しているのですが、それぞれの地域の再版業者はそれそれの地域のエリアマネジャーが統括しています。この多国籍企業では、マーケティングサポート基金を設けており、再版業者に対して助成金をだしています。つまり広告宣伝やマーケティング資料を印刷するときに多国籍企業の本社が経済的な支援をするシステムです。それぞれのエリアマネジャーが助成金を与えることができるかどうかチェックして承認します。現在の方式ですと問題があります。助成金申請が各地域の業者から上がってきてから最終的に認可がでるまでに4週間かかっています。その上、エリアマネジャーは何百という企業を相手にして助成金提供できるかどうかを検討いなければなりません。つまり現在の申請の方法では、予算の配分がちゃんと行われているか、などフォローが十分に透明性のある形で実現できていません。つまりマニュアルで処理しているところが多く残っています。またこれらの地域の報告をシンガポールの本社にまとめて送ると、リアルタイムではないのでそれだけで時間のずれが生じてしまいます。もうひとつ大きな問題は多国籍企業から助成金が出ることを聞きつけますとそれを乱用する業者が出てきます。それに対してオンライン方式をとるとどうなるでしょうか。オンラインサーバーを使ってデジタル化したテンプレートで処理します。これをデータベースに保存します。再販業者のデータ、ロゴ、あるいは使っている言語をユーザープリファイルに統合します。従来の方式では煩雑な処理がテンプレートを使うことでオンラインですっきりと簡単に処理できます。

校正についても、1回やりますとその結果を何回も利用でき、複数の言語にオンラインで展開する自由度がでてきます。データやロゴについてはパスワードを決めておけば乱用を防止することができます。また、中国からアクセスすれば中国語で、日本からアクセスすれば日本語で情報が検索できます。オンラインで同じ情報に複数の国からアクセスできます。

承認プロセスについても誰が誰に対してどのような階層で承認したかがはっきりわかります。それによって予算の使い道、あるいは配分の様子が目に見えるようになります。それによって間違いのない支払いが行われます。支払いが米ドルであれ地域通貨であれ自由に対応できます。

今申し上げたような複数のプロセスがすべてオンラインで結ばれるのがこの図解の意味です。従来方式であれば4週間といいましたが、オンライン方式では1週間で済んでしまします。

では多国籍企業にたいしてオンラインシステムがもたらすメリットについてかんがえてみましょう。

  • デジタルアセット、デジタル情報がすべてオンラインでアクセスできるようになり、保存がされるので、どこからでも参照することができます。
  • デジタル校正もオンラインでできます。あるいは見積もり、発注もオンラインでできます。
  • 多国籍企業にとって大事なのは、各地域に対して指令をだすことで地域で購買活動ができる。全体のコストが軽減されます。中央で一括して物を作り地方に送りことを考えると大幅に輸送コストを減らすことができます。
  • スピードと安全性とトラッキング(進捗状況)のチェックが非常に簡単になります。
  • 予算の使われ方のフォローができる。
  • セルフサービス方式で、自分で確認、管理ができる。
  • 指令とか承認は中央からでるが、具体的なプロセスの展開は分散型で各地域で行われます。

従来のInk on paperだけの考え方では駄目になります。あたらいい技術や方法を導入することによって、印刷がより身近になり、扱い易くなる。将来の印刷会社は、トータルなソリューションを提供する必要性があり、このトータルソリューションには材料の手配から納品にいたるまですべてをカバーしたソリューションが必要です。すなわち単に印刷した物を提供するだけでなく、トータルな印刷に関するサービスを提供するサービスプロバイダーでなければならない。これらのことをひとつの会社だけで実現することは無理です。
幸い地理的な利点、あるいは輸送システム、あるいはコミュニケーションのインフラが整備されていることで多くの多国籍企業がシンガポールに拠点をおいています。政府からの財務援助もあって、シンガポールは地域のハブとして、あるいは多国籍企業の拠点として活動している。日本、韓国をはじめアジア太平洋のたくさんの多国籍企業がシンガポールを拠点にして活躍しています。
基本的な考え方として、データあるいは印刷に必要な情報を配布して、地域で印刷するというのが新しい配布の関係ですが、従来は一箇所で印刷してそれを配布するというのが当たり前でした。印刷と配布の関係があたらしいオンライン方式では、逆転したことになります。
力を合わせれば、アジア太平洋の印刷業者のネットワークが構築できるはずです。アメリカ、ヨーロッパでは普通英語が使われて、オンライン方式では多言語も対応をできます。ただし最近は英語が普及してインターネットの普及によってより身近になりました。従来のような英語のバリアがなくなりました。サムスン、SONY、HP、マイクロソフトなどの多国籍企業としてシンガポールに拠点を置いて降りますが、これらの企業はすでにオンラインのすでになっています。

FAGATは今申し上げたように、印刷のネットワークを構築するのに非常に重要な集まりです。是非勇気をもって新しいビジョンに挑戦していただきたいと思います。

2003/01/10 00:00:00