(1) 印刷産業が向かうべき方向
1990年代に入ってからの10年間、日本の印刷産業において、印刷情報用紙の消費量もインキの消費量も増加した。そして、今後とも、紙も印刷もなくなることはない。
しかし、すでに見てきたように1980年代一杯までの印刷産業に利益をもたらしたプリプレスの加工度の上昇という要因が今真に消滅しつつある。一方、電子メディアで扱われる情報が膨大に膨れ上がりつつあり、その先では日本の人口減少という印刷市場の基盤の縮小が明らかに予測されている。したがって、印刷産業界が新しい事業領域を見出し、それに合ったビジネスモデルを作り上げていかない限り、縮小均衡のなかでしぼんでいくことは明らかである。
少なくとも、日本の印刷産業界においては20世紀の環境はもう戻ってこない。新世紀にふさわしいビジョンを作らなければならないが、では20世紀の印刷と、21世紀の印刷では、何が一緒で何が違うのだろうか?
21世紀の印刷が20世紀と異なる第一点は、日本の社会そのものが物質的には充足し、印刷物においては作りすぎの是正などで減少する分野がある一方で、情報伝達はインターネットへとシフトし、これがものすごい勢いで増え続けていくことである。つまり紙媒体の高度充足の先に、インターネットへと相転移して、さらに進む領域があることが大きく異なる点である。 しかし、例え情報が紙ではなく画面に表示されるようになっても、人間が情報を認知し易くするための技法であるグラフィックアーツの世界は継承されていくことになる。これは21世紀においても変わらない点であり、この点に強みを持つ印刷業は、新しい情報環境の中でも活躍する場が減ることはない。
これからの印刷ビジネスが従来と異なる第二点目は、XMLやオンデマンド印刷など、印刷制作サービスの高度化、また印刷に付帯するサービス化のビジネス開発など、得意先のビジネスのパフォーマンス向上が大きなカギになることである。
また、従来の印刷では間尺に合わなかったことも、デジタル印刷システムの応用でビジネス化が可能になっていくことが21世紀における新たな視点である。
JAGATでは以上の事柄を整理して、今後印刷業界側から切り開いて、価値を産むことが出来る事業は、クロスメディアと、eビジネスと、デジタルプリンティングに集約できると考えた。クロスメディアとは,紙メディアと電子メディアの共存をロスなくできる環境を作っていくことである。eビジネスは,印刷物提供に付随して過去から行っていた派生サービスも含めて,ITを使ってさらにサービス価値の向上を図るものである。デジタルプリンティングは,デジタルデータから即アウトプットができる時代なのだから,データを最大限に活用して,いろいろな場所でいろいろなプリンティングをするように事業を広げていくことである。
印刷の定義は、従来の、原稿、版、色材,被印刷体、そして印刷機という、いわゆる印刷の5大要素といったものではなく、今日から2050年にかけて持続発展が可能な印刷に再定義をしなおさなければならない。
JAGATは、21世紀の印刷とは、デジタルで相転移したクロスメディアと,eビジネスと、デジタルプリンティングという3本柱、それに加えて印刷文化の継承という従来の柱の4本で構成されるものと宣言すべきであると考えている。
(2)JAGATの貢献
JAGATは、1988年に、デジタル技術を使ったプリプレス技術に限定した設備の展示会とコンファレンスからなるPageイベントの第1回を開催した。そしてそれ以来、さまざまな事業活動を通してDTPの普及からCTP化にいたるプリプレス工程のデジタル化に貢献してきた。しかし、これは、印刷業界のデジタル化の第一フェーズに過ぎない。印刷業界のデジタル化の第ニフェーズは、既に述べたクロスメディア,eビジネス、デジタルプリンティングを新たな事業領域として確立、拡大していくことである。新たな3つの柱は、ちょうど1980年代の電子化や1990年代のフルデジタル化に相当する大テーマであるといえる。
したがって、JAGATは、この印刷業界のデジタル化の第二フェーズにおいても、印刷業界がそこに向けて踏み出し、大いなる成果を出していく支援をしていくために、2002年度から「『印刷新世紀宣言』具現化推進プロジェクト」を立ち上げ、すでにその活動を始めている。
図18「印刷新世紀宣言」具現化推進プロジェクト