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韓国の印刷物のための輸出戦略(その1)

■ASIA FORUM
第6回シンガポールFAGAT(2002年)
韓国講演レポート

April 15, 2003

Gabriel K.H.Lee氏(韓国印刷輸出業者協会・会長/Hanku Asia Co. Ltd.,社長)

(1)印刷物輸出の背景
(2)印刷業界として輸出には何が必要でしょうか
(3)韓国での印刷の輸出はどのように行われているか

FAGATに参加の多くの方は、直接印刷会社を経営されているか関連の仕事をされていると思われましが、印刷物の輸出についてはなじみがないのではないかと思います。それはなぜかといいますと、印刷物あるいは印刷材料関係の取引は国内で行われているケースが多かったからです。しかしよく観てみましと、かなり国と国との間で商取引がなされています。印刷物の輸出は場合によっては、オフシーズンの時の生産能力過剰を緩和するためのものとして行われます。
ただ輸出が発生するということは、国家間でバランスを取るという作用があります。輸入するという場合は国内に印刷の設備が十分でないか、需要をカバーしきれない時に輸入するわけです。それに対して、十分な印刷の生産の能力があって高品質、低価格の競争力ある会社は輸出できます。国によっては輸出入のバランスをうまく取っている国もありますが、バランスの取れていない国も結構あります。人件費が非常に高く、印刷設備の高い国におきましては、比較的低価格の印刷物を輸入するというのが一般的です。その一方で国内に十分な技術や印刷設備がない時は、高品質の印刷物を輸入しています。輸出入はきわめて経済の自然な現象で、グローバルな市場では当たり前のことで国内マーケットに対して脅威といって恐れる必要はありません。さらに最近ではITが急速に発展しまして、国際的な貿易障壁もWTO等で除かれ、自由化が進んでいます。従来の意味での「国」という概念も薄れてきます。したがってこれからは国内のマーケットにだけ目を向けていては時代遅れになります。

韓国の印刷物の輸出入の現状と輸出の戦略について

さて今日は、韓国の印刷物の輸出入の現状と輸出の戦略についてお話をさせていただきます。最後に私の方からFAGATの皆さんに提案をさせていただきます。
韓国の印刷業界が直面している問題は二つあります。一つは構造的な国内の印刷産業の問題点です。季節変動が大きく年間をとうして需要が安定していない。もうひとつはサイバー社会、つまりインターネットなどのIT技術の進展による影響です。

(1)印刷物輸出の背景

まず、国内に目を向けると印刷業は注文ベースの装置産業といえます。印刷業は主導権を握れない弱い立場にあります。生産設備等にかなり投資を行っても最終的には得意先の注文や意見に左右されてしまう受身の体質があります。その結果不必要に季節変動があるため、国内での競争が過熱して、値下げ競争という現象が起きてしまいます。たとえば韓国ではここ十年価格はほとんど変わっていません。これは各社が生き残るため激烈な価格競争をした結果です。もひとつは外部的なデジタル技術、コンピュータ技術の浸透による影響です。印刷業界といえば紙とインクと設備を基本としておりました。サイバー社会の台頭からこのような枠組みが崩れてきました。過去数世紀にわたって紙とインクの技術によって情報を記録保存し、伝える手段を確固たる地位を築いてきました。コンピュータ技術の発展から印刷の存在が脅かされています。たとえば、手のひらにのるCD-ROMに数十冊の本がすべて保存することができてしまう。ただし、従来の印刷業の世界と新しいサイバー社会の業界はお互い協力しあっております。以前は、郵送費とか郵便料金を節約するためにインターネットを使ってその方法を提案している企業がありましたが、そういった企業は、従来型の紙によって情報を提供するように変わってきています。例を挙げますとブリタニカ百科事典がありますが、98、99、2000年の3年間はCDまたはインターネットのみで百科事典の情報が提供されていましたが、2001年の10月から印刷された辞典も復活しております。印刷物の輸出といいますのは国内の過当競争だけから行われるものではありません。季節変動が大きいため国外に輸出してバランスを取っています。

(2)印刷業界として輸出には何が必要でしょうか

もちろん国によって違いましが、私は韓国の印刷業者はもっと印刷物を輸出すべきだと考えています。FAGATのネットワークももっと活用すべきですと思います。
1980年代に輸出が開始されました。ただし、当時は印刷のあらゆる分野で問題が多発しておりました。紙やインクが国際水準からあまりにかけ離れ低い水準であった。海外の得意先と商談に漕ぎ着けることさえ出来ない状況でした。紙に汚れやほこりがついていたり、インクの色について、各国の色の標準と海外のものが合わないといった問題がありました。1980年年代に輸出にチャレンジしたことはあまりにも無謀であった。しかしながら現在では、紙もインクも品質は各段に向上しており、国際水準に追いついております。

10年前香港の印刷会社を訪問した時、彼らが使っている紙はアメリカ、ヨーロッパ、日本制だけでした。現在は韓国からも紙を提供しています。韓国の水準が国際的に追いついたということです。印刷機はその多くが先進国から輸入をしていますが、最新技術を搭載した印刷機がかなり導入されています。しかしながら韓国から印刷物が海外に輸出されていません。なぜでしょうか。印刷物でもそうですが、輸出競争力をもつためには、品質、納期、価格の面で競争力をもたなければなりません。また、輸出先の言語、商習慣、文化を理解しておくことが重要です。印刷の輸出において一番重要なのは正確なコミュニケーションです。FAXやインターネットのようなハードは進歩してきましたが、これらを使いこなすソフト面がまだまた不十分です。すなわち印刷の輸出を強化するにはこのソフト面の強化が必要です。いいかえれば専門家の教育訓練が急務です。まず外国語が使えなければなりませんし、文化・商習慣への理解・知識が必要です。注文に関する具体的な打ち合わせから始まり、印刷、包装、出荷、支払いにいたるまで、得意先に迷惑をかけないで進めなければなりません。このようなコミュニケーションに対しては印刷業界特有の知識が求められます。インターネットやFAXといったハードウエアを使いこなすことはもちろん重要ですが、ソフトに関する知識が大変重要です。
言い換えますと韓国の印刷の輸出の弱い理由は、香港やシンガポールに比べて輸出の専門家の育成が遅れているということです。
他の業界とくらべても印刷業界は低賃金ですし、労働条件も過酷いえますが、印刷業界としては輸出能力のある専門家をそだてなけばなりません。

(3)韓国での印刷の輸出はどのように行われているか

これについてはPEAKという韓国印刷物輸出業協会というのがあります。これは大韓印刷情報産業協同組合聯合会の一部で1989年に設立されました。PEAKという団体は輸出に関する情報、交流に関する活動を推進している。約90社のメンバーで構成されており、輸出に関心のある方であればどなたでも会員になれます。現在の時代はよく広告の時代という表現がなされる場合があります。いかにすぐれた製品があったとしてもその存在が顧客に知らされていなければまったく売れないということになります。中小は大企業ほど宣伝にお金を掛けられませんので、韓国では通商輸出促進エージェンシー(KOTRA)という組織があり、そのような仕事をサポートしています。それとともに韓国の中小企業連合会(SMBA)という政府系の機関ががあります。韓国の印刷企業が海外視察や展示会への出展といったときにその資金を援助します。PEAL、KOTRAあるいはSMBAは海外への印刷の輸出の促進しています。中小企業連合会(SMBA)からは財務的な支援も提供されており、例えばテレコミュニケーションや場所の賃貸料、あるいは翻訳料などの資金援助が提供されている。またKOTRAという団体には、世界中に出先機関があってそれぞれの地域の新聞・雑誌に広告を掲載することができ、直接にお客さまに話し掛けるようにしているわけです。このような機会を通して韓国の印刷の質の高さを訴えることが出来ますし、また海外のお客様と直接交渉できるチャンスが与えられています。大韓印刷情報産業協同組合聯合会では海外からのお客様に出張旅費の一部を支援するといった財務的なサポートを提供しています。海外への派遣団はだいたい1回に3−4カ国を訪問します。その場合KOTRAが使節団を組織したりコーディネートを担当しています。過去4年ほとトレードミッションということで印刷界のメンバーが海外を訪問しております。

このような印刷業の海外視察団は、印刷物あるいは印刷材料の質の高さをPRできる機会を与えられたことによりまして、海外と直接遣り取りができるようになりました。すぐに注文にこぎ着けるケースもあります。KOTRAは海外にいろいろな出先がありますので、特に中小企業に対して支援をしております。具体的には、中小企業の方は、KOTRAの出先機関をあたかも自分のオフィスであるかのごとく使うことができます(部屋、駐在員)。われわれはKOTRAの駐在員とより緊密な連携をとり印刷製品や手順を現地の方に伝える努力が必要です。また輸出をすることは海外にでることだけがやり方ではありません。海外からのお客様を受入れることも重要な側面です。過去を振り替えってみると十分な対応ができす、お客が帰ってしまったケースもよくありました。そのようなことから輸出サポートセンターという新しいビルの中に、印刷情報センターがオープンしました。海外とのお客様とのミーティングの場所が提供されております。この新しいビルはソウルの行政府が資金援助して作られたものです。ビジネスに関する打合せが、きれいな環境でかつ印刷物、印刷材の展示室がある場所で行えることはビジネスチャンスが一挙に広がります。このような印刷情報センターが、韓国国内だけでなく、ロンドン、フランクフルトまたシカゴなどにオープンされるのはずいぶん先のことだと思いますが、その方向に向けて韓国の印刷業界もグローバル化に向けて努力をしているとこです。

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2003/04/08 00:00:00