厳しい受注環境が続くなか「原価管理」という言葉を至るところで耳にするようになった。
しかしながら「原価」の意味するところは、使う人や使う場面で異なっていることが多い。そして、それと気付かずに話がかみ合わないことが往々にしてある。JAGATが過去に実施したアンケート調査でも、原価管理に関する設問の仕方がまずく、思うような結果が得られなかったという反省と自戒もある。原価には、それを捉える目的に応じてさまざまな概念があるから、上記のようなことが起こるのもある意味では当然である。
以下に一般的な原価の概念とその意味を簡単に整理しておく。「原価」という言葉を聞いたときに、下記の分類を参考に何を指しているのか意識していただければ幸いである。
目的は、さまざま原価の概念があることを再確認することなので、表現に厳密さを欠く点があるかもしれないがご容赦願いたい。
原価とは「企業が一定の財貨を生産し販売するにあたって消費された経済価値」と定義される。この定義によれば販売費および一般管理費も含まれることになるが、一般には製造原価を指す。
製造原価は、材料費と労務費と製造経費からなる。これらは、個別の製品の材料費や労務費などの直接発生額を計算できる直接費と特定できないものや特定できても金額が小さくて集計に手間のかかる間接費を分ける分け方と、数量や作業時間に関連する変動費と関連しない固定費とに分けるわけ方がある。
製品原価とは、「製品単位」に原価要素(各種費用)を集計して出す原価である。期間原価とは「組織単位」で一定期間に発生した原価要素を集計した原価である。 印刷業一般で強く意識されているのは「製品原価」である。製品1点ごとに売値と製品原価とを対比して利益を把握したいからである。
原価をその性格で分けると実際原価と標準原価とに区別される。実際原価とは、実際に製造するのにかかった材料費、労務費、製造経費をもって計算した原価をいう。標準原価とは科学的分析または統計的な傾向から算出した、あらかじめ基準として設定しておく原価をいう。
標準原価は、実際に発生した原価が妥当だったのか否かを判断する基準として活用したり、事前見積の積算根拠として用いられる。
原価は集計される原価要素の範囲によって、全部原価と部分原価とに区別される。全部原価とは、製造原価要素の全て、またはこれに販売費および一般管理費を加えて集計したものをいう。部分原価とはそのうち一部分のみを集計したものをいう。部分原価は、計算目的によって各種のものを計算することができるが、最も重要な部分原価は、変動直接費および変動間接費のみを集計した直接原価(変動原価)である。
印刷業界で一般的に意識しているのは、それが製品原価であるか期間原価であるか、あるいは実際原価であるか標準原価であるかに関わらず「製造原価」、つまり全部原価である。
製品原価を計算する方法として総合原価計算と個別原価計算がある。総合原価計算は、自動車のような単一製品を繰り返し生産する製造業のような場合に適していて、集計単位の期間内に発生したすべての原価要素を集計し、その期間に完成した製品の数量で割って製品1個あたりの原価を求める。個別原価計算は受注生産型の生産方式に適していて、その製造オーダーごとに原価を集計して求める。
印刷業界の場合、受注1品ごとに仕様が異なるので後者の個別原価計算が使われるのが一般的である。
以上、原価の概念、原価計算方式にはさまざまな種類があるが、印刷業界で「原価」というときには、原価計算の方式は「個別原価計算」が前提とされ、捉える原価要素の範囲は「全部原価」のひとつである「製造原価」であることも前提とされているのが普通である。したがって、「原価」として言われる言葉が意味することは、「個別原価計算方式で算出する全部原価(製造原価)ベースでの『原価』」である。さらに、1点ごとに仕様が異なる製品を受注生産することが大半だから「製品原価」が強く意識される。特に売値との妥当性が問題とされる。
しかし、昨今の急速に変化する技術環境と厳しい市場環境のなかで、「期間原価」についての関心が高まりつつある。月単位で部門単位の実際製造原価と利益状況を把握して、部門単位での生産性向上に資するためである。この点に関しては本ページに2003年1月23日付けで掲載した「代表的利益管理方式それぞれの得失」に紹介しているのでご覧いただきたい。
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2003/04/17 00:00:00