(株)フクインでは,InDesignによる中国語辞典の制作に取り組んでいる。テキスト&グラフィックス研究会では,印刷会社から見た制作システムとして,製造部ディレクターの増田隆氏にお話を伺った。
タグ付きテキストによる自動組版
1993年から製品マニュアルのDTP化を始めた。当初,PageMakerをメインで使っていた。欧文からスタートし,中国語のフォントも使った。当時はダイナフォントOCFでフィルム・プレート出力していた。
DTPによるマニュアル制作を進めるなかで,翻訳者,ライター,編集者,図版作成者などパーツを作る人がフクインのサーバに材料を送ってくるようになり,データベース化を始めた。さらにデータベースを活用すべくXML化をやってみようということになった。XMLのスタートは,3B2というイギリスのAdvent社の組版ソフトを使用した。SGML・XMLに幅広く対応しており,3B2で欧文マニュアルのXML化を始めた。
まず,3B2の機能を把握してタグ生成を行った。手組みをして実際にどんなタグが付くか,どこまでコントロールできるか試してみた。3B2は欧文組版ソフトなので,欧文の組版ルールがベースになっている。例えば段の禁則で見出しあるいは本文が1行だけの場合の処理や,複数ある定型コラムのうち1個だけ収まらない場合は順序を替えて流し込む処理など,タグ自体は非常にシンプルになることがわかり,タグの状態を確認しながら組版・レイアウトを行った。
データベースから始まってファイル名の書き出し,タグの書き出しなど,トータルのシステムを構築した。サーバを客先に移管したが,従来通りの流れを今も続けている。160ページくらいのマニュアルの組版なら,5分で終わる。一切手がかからず,すべてXMLからのバッチのタグ生成で組める。これをトンボ付きでPDFで書き出してFACILISで面付けする。
3B2の日本語版は機能的に不備があり,特に縦組の機能が足りないが,われわれにとっては,タグ付きでコントロールするセンスを磨くことが出来た。
「日本映画作品事典」への取組み
InDesignもタグはかなり簡略化できている.それは日本語の組版の機能が充実しているということと,スタイル機能の充実による。QuarkXPressやEDICOLORも豊富なスタイル機能があるが,スタイル設定に詳細に忠実なメニューを織り込んでおくところまでは至っていない.しかしInDesignでは,例えばスタイル名のタグ1つだけで段落の分割禁止処理が行数指定までできる. InDesignで最初に自動組版をおこなったのは「日本映画作品事典」だった。デザインフォーマットは鈴木一誌氏,データベースの設計はライン・ラボ,フクインでInDesign上で組版設計してタグを書き出し,それを何回か繰り返すことでタグをどんどんシンプルにしていくという作業をして,システムを組み上げた。手作業は柱だけで,本文は頭から終わりまで一括流し込みで完成した。
辞事典は版面設計がシビアだが,特に外国語の場合は段間,小口アキやノドアキについて非常にシビアである。編集者やデザイナが作りたいものをどこまで実現するかを考えると,EDICOLORやQuarkXPressでは手に負えなかったかもしれない。
例えばQuarkXPressではルビが入ったところと入らないところの行頭揃えに苦労するが,InDesignはボックスの外にルビが回る。ルビが入っても版面が変わらないので,本来揃えたい行頭揃えは変更せずに済む。
QuarkXPressやEDICOLORでは版面設計した後で追加で体裁の指定が入ったときは最初から考え直さなければならないことが多いが,InDesignの場合は,他のところはそのままキープしながら,いろいろな解決方法を探れる。
「日本映画作品事典」ではOpenTypeでの外字と,InDesignでのタグ処理を極めたつもりである。OpenTypeを使ったのは,異体字の問題もあるし,詰め組みして掲載文字数を多くし,ページを節約することも事典の宿命でもあったからだ。そういう意味では読みやすい詰めができたと思う。
外字は,シェアウエアのOpenType Editで作った。外字を2バイトにしておくのは有用だ。文字組みセット等を含めた約物や記号類のコントロールができる。QuarkXPressでは1バイトで外字を作って前後にスペースを入れて,見た目で調整するが,2バイトにすれば従来の約物と同じ感覚でコントロールでき,組版上の品質統一も保てる。また,OpenTypeにしたことによって,WindowsとMacで同じ外字が使えるようになった。この仕事はMacでスタートして現在もMacでやっているが,Windowsにも同じフォント環境を持ってきて処理しても,うまくいっている。
InDesignのメリットは,分割禁止や文字組などの設定を文字スタイルや,段落スタイルという単位で,タグとして個別に埋め込めるということである。また,OpenTypeや合成フォントなど文字関連機能も充実している。外字でも,日本語組版上の約物として扱うことができるので,それに対して個別にコントロールするタグが一切不要だということである。
出力はPDFでプリントアウトしたものを校正として確認してもらって,最終的にはTrueFlowでプレート出力している。プレート出力の際にも,今回のフォント環境で問題はない。
自動組版の品質をより良いものにするためには,OpenTypeなどのフォント対応と外字のコントロールが必要である。これはフォントの2バイト化によって実現できるし,タグ処理をシンプルにするということもある。
東方書店「中国語辞典」
「中国語辞典」も同じチームで,デザインフォーマットは鈴木一誌氏,データベース設計はラインラボ,フクインはタグ組版設計とCTP印刷を担当している。組版アプリケーションはInDesign2.0,Windows2000とXPを使っている。フォントは日本語はヒラギノ明朝Pro(OpenType),中国語は北大方正の3書体(TrueType),ピンインは東方書店が作ったハウスフォントでボールドとローマンの2書体(OpenType)を使う。
外字フォントは,今回はシェアウエアのTrueType Editで作った。記号13文字でパーレン6セットをすべて2バイトで置き換えている。文字間の調整はInDesignの文字組設定で処理される。
段落スタイルのタグの例では,ピンインの見出しに段落罫線も含めて2行に渡る位置を割り当て,2つの段落で1つの見出しという作り方をした。段落の禁則に引っかからないように段落分割禁止オプションを段落スタイルに設定することで,いわゆる段落の禁則処理ができる。
InDesignは組版エンジンの機能をいろいろ勉強するともっと簡素になっていくと思う。
後からの変更に対して自由度が高く,版面設計の基本が崩れなくて済む例がある。実線の四角の文字ボックスがある。行頭に上下動するラインを引きたいとか,角付きパーレンで囲まれた頭にも重要度マークを入れたいとか,いろいろ仕様が変わったが,段落スタイルで対応できた。
「中国語辞典」の場合,タグで処理できないのはコラム欄である。これは語に関する情報を提供するコラムである。本文と区別するために,鈴木氏のデザインでは行頭に複数行にまたがる罫線を入れている。InDesign上ではリーダーの罫線を作ってアンカーで入れてある。アンカーで入れてそのまま書き出したらタグとして現れるかと思ったが,タグには出てこない。表組としてトライしてみたが,うまくいかなかった。
(テキスト&グラフィックス研究会)
2003/05/04 00:00:00