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パッケージソフトのカスタマイズを考える

印刷業界では、「MISのパッケージソフトはカスタマイズしないと使えない」といわれる。しかし、ここで「カスタマイズ」として言われる内容はさまざまである。1500万円のパッケージソフトをカスタマイズしたら結局3倍以上の費用が掛かってしまったというような話も聞くが、それはカスタマイズではなく、例えばパッケージに含まれていなかった管理業務機能を果たすソフトを数本追加したと言うべきものである。実態は「カスタマイズ」ではなく「ソフトの追加」である。
今後、印刷企業におけるMISの重要性はますます増し継続的な投資も必要になるから、パッケージソフトを有効に利用出来ればそれにこしたことはない。したがって、上記のような実態の中で、「印刷業界では、カスタマイズしないとパッケージソフトは使えない」ということが常識のようになってしまうことは問題である。

パッケージソフトは、さまざまな部品を作りその部品の組み合わせとして作られる。 部品とは大まかにいって以下の4つである。
1.入力画面
2.出力画面、帳票
3.テーブル(データベース)
4.仕事の進め方、業務の分担に沿ったデータの流れ
カスタマイズというとき、上記1〜4のどの部品の変更なのか、また、各部品の中のどのような内容変更なのかによって、変更の難易度、手間・費用の掛かり方は大きく異なる。

上記4部品の関係について見ると、必要な入力(1)の内容項目は、要求される出力情報(2)によって規定され、1、2によって3の内容項目は決まる。しかし、仕事の進め方や業務分担が異なるとデータの流れが異なってくると同時に、1〜3の個別内容(例えばひとつの入力画面、出力画面に表示される内容)にさまざまなバリエーションが生まれることになる。 逆に言えば、もし印刷企業の経営管理に必要な情報、つまり上記1の内容項目として最大公約数的内容があるならば、1、3の内容は、少なくとも「項目リスト」としての最大公約数が設定できるということになる。これが,「部品」単位レベルで見たときの「共通」と「カスタマイズ」に関して言い得るひとつのことであろう。

パッケージソフトのカスタマイズと言われる変更内容には以下のようなものがある。
A. 部品の内容変更
a.内容項目の名称変更
b.内容項目の削除
c.内容項目の意味的変更
d.内容項目の追加
e.内容項目の括り方の変更
f.上記eの画面(出力帳票)レイアウトの変更
B 部品の組み合わせを変更する
C 部品を追加する

上記のAに関して、a〜dは、業界共通の内容(ただし、後述のように「品目」を単位とする)があればよほど特殊な仕事を行っている企業以外でのカスタマイズの必要はないはずである。カスタマイズ自体の手間、費用もそれほど掛かるものではないが、手間、時間を掛けずに済めばそれに越したことはない。
上記の「C.部品を追加する」ようなことが必要になるのは、先に触れたように「カスタマイズ」ではなく「ソフトの追加」というべきものである。カスタマイズの内容として多いのは、上記の A.dであろうが、それはこの部分と関連していることが多いのではないだろうか?
言葉どおりの「カスタマイズ」として大きな変更を伴うのが、仕事の進め方、業務の分担に沿ったデータの流れに関する部分(上記4)で、これは部品としてのテーブルの持ち方(上記3)に関連してくる。また、変更すべき内容として、上記A.e, A.f. Bに関わってくるものである。

上記の変更eは、変更fと関連するもので、例えばひとつの入力画面、出力画面に表示される内容を変更するといった場合で費用もかなり掛かる部分である。
従来、経営管理にコンピュータシステムを導入するときのひとつのポイントとして、できるだけ違和感を持たせないようにするということがあった。パソコンを使うことが一般的ではなかった時代のことで、キーボードに向かことすら避けたいと感じている人に使ってもらうため、という理由である。したがって出来るだけ従来やってきたことを変えないようにするという意図が強く働いたシステム作りになっていた。そのために、従来の伝票の内容やそのレイアウトも出来るだけ変えないといった配慮をしていた。
しかし、1人1台のパソコンが当たり前になった時代だから、今後のシステム導入においてはそのような点の配慮よりも、新しいシステムを導入、運用することを機会に、従来の仕事の進め方、やり方、役割分担を大幅に見直していくことの方が重要であろう。各ベンダーが提供するパッケージソフトは、さまざまな顧客の要望をより幅広く満たすように作られているのだから、パッケージソフトが前提とするフローの視点から、自社のフローを検証してみるという考え方があってもいいのではないだろうか?

テーブルの持ち方は、技術あるいはテクニックに関わる部分である。
いま、ITの技術はXMLをベースにしたものに変わりつつある。従来のデータベースは、いわゆるリレーショナルデータベースという構造を持つデータベースであった。これに対して、XMLは非定型な情報を取り扱うのに適する技術である。また、画面表示においてはXMLとWeb技術を使えば必要に応じた変更が容易にできる。
テーブルの変更に関わる部分は、XML技術によって非常に柔軟な対応が可能になる。新しい技術の採用で各社の仕事の進め方、役割分担の相違から必要とされるカスタマイズはよりやりやすくなる。ただし、XMLの場合には、システムを作る側から見るとプログラム作成時の負担やプログラムを作った人間以外にはわかりにくいといった問題もある。
したがって、より定型的な色彩が強い仕事にはリレーショナルデータベースが使われ、多様パターンが存在しうる製品分野でのシステムには非定型のデータベースを使うような使い分けになる。
いずれにしても、テーブルを変更するようなカスタマイズは費用が掛かる。

以上は、「仕事の進め方」、「業務の分担」の違いからくるカスタマイズは不可避であるという前提での話だが、それはやはり前提としなければならないのだろうか?
ここで議論しているのはMISだから、「仕事の進め方」、「業部の分担」云々といっても、対象はあくまでも「情報の流れ」であり、「いつ」、「どこで」情報が発生し、それが加工されて、「いつ」、「どこ」に「どのような内容」で提供されるかが対象である。
印刷物を生産するために必要な情報の流れに関して、仕事の進行のある節目の時点(校正出戻りを含む作業工程の区切り毎)、つまり「いつ」という部分と必要な「情報の中身」(上記 のA.a〜A.d)、つまり「どのような内容」かに企業間の差はないはずである。この部分に差が出るのは企業間ではなく品目が違う場合である。したがって、印刷業におけるパッケージソフトは「品目別」が単位になるべきであるということになる。

企業間で出てくる差は、業務分担の違いによる「誰」あるいは「部門」、つまり「どこで」という部分である。しかし、人間の理解としては営業部の何某外、工務の何某ということが必要であっても、コンピュータの側からすると「1人の入力者」あるいは「ひとつの入力端末」ということだから、業務の分担が企業によって異なるからといって、テーブルの持ち方や入出力画面の構成内容や部品の組み合わせを変更する必然性はないのではないか? あるとすると「承認」に絡むことからなのだろうか?
現実にそのような変更が要求されるひとつの要因は、例えば「営業の何某」が入力する「情報の中身」が、作業進行に関するデータだけではなく、原価に関するデータもあり、後から「営業部門」あるいは「何某」と言う単位で集計をするという事情からくるものである。 そうだとすると、新しい技術を持ち出さなくとも、何らかのやりようはないものなのか?

いずれにしても、「ソフトの変更」の内容は様々な内容・レベルがある。JAGATとしては、いわゆる「カスタマイズ」の実態を調査して本ページで紹介するとともに、印刷業界における最大公約数的なMISを考えることの参考にしていきたいと考えている。

2003/12/17 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会