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オフセット印刷機の進化

12月8日に開催するJAGATトピック技術セミナー2004では,ダイレクトドライブ,スリーブ型の版,バリアブルカット長など,100年続いた機構に対して斬新な機構が取り入れられるようになったオフセット印刷機のトレンドを,大日本印刷株式会社 技術開発センター生産総合研究所 SPI推進第2部 エキスパート 加山周二氏に,「オフセット印刷機の進化」と題してご講演いただきます。
加山氏のご講演要旨を,下記に掲載いたします。


大日本印刷株式会社 技術開発センター生産総合研究所 SPI推進第2部 エキスパート 加山周二氏

はじめに

 印刷業界は小ロット化、短納期化など依然厳しい市場環境にある。また省エネルギー化、印刷ロスの削減による省資源化など環境問題への対応も印刷会社に求められている。
 一方、印刷機の方は90年代に話題を集めた高速印刷機に代わって最近は切替時間やリードタイム短縮など印刷の効率化がセールスポイントである印刷機が主流となっている。これは市場の伸び悩みと小ロット化が進んだ結果、印刷機ユーザのニーズがかつての生産数量増による売上げ増から、ロス削減による製造原価低減へとシフトしていることのあらわれであろう。
 ここでは、これら印刷の効率化を謳った印刷機のトレンドについて述べるものとする。
 

(1) オフ輪機

 オフ輪機の最近の技術トレンドは「切り替え作業の効率化」であろう。これは上述した通り、オフ輪機への要求が以前の生産数量増ではなく、稼働率向上へとシフトした結果と考えられる。この「切り替え作業の効率化」を実現する上で重要な技術の一つとして、セクショナルドライブ(ダイレクトドライブ)があげられる。セクショナルドライブのオフ輪機自体は既にDrupa95で登場していたものであるが、ユーザ側に対して具体的なメリットとなるアプリケーションが提案されるようになり、ここ数年の間で急速に普及し始めている。現状では、セクショナルを標準仕様とする印刷機メーカまで出てきている。図1にセクショナルドライブ機のモータ配置の一例を示す。


セクショナルドライブ機では各版胴を個別に回転させることができるので、各ユニットの版交換を全て同時に行うことができ、版交換時間の短縮が図れる。またインフィードやクーリング、折機も別駆動であるため版交換中に紙通し作業を行うことも可能である。このセクショナルドライブによるメリットは他にも、ギヤ類が削減されることによる動力費低減、騒音低減、メンテナンス作業の簡易化や、ブラン洗時の紙を低速で流すことによるブラン洗損紙の削減もあげられる。これらのメリットから、セクショナルドライブ機にはコストアップ要素はあるものの、ユーザに受け入れられるようになってきたと考えられる。今後、印刷機メーカによるコストダウンがより一層進めば、ユーザにもたらされるメリットは更に大きくなるはずである。
 「切り替え作業の効率化」を支えるもうひとつの大きな技術は、ソフトウエアによる刷り出し損紙削減技術である。これは前品目刷了後にローラ上の余剰インキを刷り減らし、次品目印刷前に必要なインキを予備供給するもので、この点においては各メーカとも共通している。ただし昇速パターンなど細部においては異なっており、最低速で刷り出した後、段階的な昇速を推奨するメーカや、刷り出しからすぐに運転速度まで加速するパターンを推奨するメーカがあり、そのセールスポイントも違っている。段階加速を推奨するメーカによれば、昇速時も良品を維持するので損紙が低減するとのことであり、一気加速を推奨するメーカでは損紙になる昇速時間を最小にすることで損紙が低減するとのことである。ユーザ側では選択にあたって、どのソフトウエアパターンがユーザのニーズと最も合致しているのかを見極めるのがポイントであろう。なおいずれのパターンを選択した場合であっても、これらをうまく使いこなすためには印刷条件や濃度、ドットゲインなどの品質についてこれまで以上に厳しく管理していくことが重要である。
 オフ輪機の最近の話題として他には、バリアブルサイズの輪転機が挙げられる。Drupa2004ではこのタイプの印刷機として3社(ドレント、マンローランド、三菱重工)から発表されていたが、いずれの印刷機もスリーブ型の版を採用し、カットオフ長を変えることで印刷絵柄間隔が自由に変更できるという点で共通している。これら印刷機では印刷絵柄間の隙間を最小にすることで印刷用紙の無駄が最少にできるという点や、印刷機を用紙サイズによらず稼動させることができるので、設備を有効活用できるという点においても大変魅力的であり、今後の動向には特に注目していきたい。

(2) 枚葉機

 表裏同時に印刷する両面枚葉機は、裏面の乾きを待つ必要がなく、生産性も片面機の約2倍という特長から、リードタイムの点において非常に魅力的な印刷機である。ある印刷機メーカによれば、近年出荷された菊全印刷機のうち実に半数以上のものが、両面機であったとの話である。現在、市場にある両面機は3タイプに大別される(図2)。


一つ目は反転機と呼ばれるタイプで片面4色印刷後、中間胴でくわえ替えされ用紙が反転し、反対面4色が印刷される。この反転機は片面・両面兼用機とも呼ばれており、中間胴で紙を反転せず、片面8色機としての使用もできる。次にダブルデッキタイプであるが、こちらは圧胴が次ユニットの圧胴と連接しているのが一般的で、上下1色ずつ交互に印刷が行われる。最後にタンデムタイプであるが、こちらは下面4色印刷後、紙が反転されることなく上面4色が印刷される。これら3タイプにはそれぞれ長短所がある。


例えば反転タイプでは表裏の濃度差が課題であるし、ダブルデッキタイプではファンアウトが出やすいなど、品質の点において両立が難しい。そのためリードタイムにおいて非常に魅力ある両面機ではあるが、どのような仕事をこなすのかを良く吟味し機械を選択する必要がある。
 また最近の展示会では、UV 乾燥機やコータ付きの枚葉機による印刷デモもよく目にするようになってきた。UV印刷では、酸化重合タイプのインキを使用する場合とは違い乾燥待ちの時間がなくなるだけでなく、パウダレスにもなるため、後加工を含めた効率アップが期待される。コータ付きの印刷機も同様で、ニス引きのインライン化により、やはり後加工を含めた効率アップが期待できる。
 なお細かい部分ではあるが、フィーダ部にサクションベルトを採用している枚葉機も目立つようになってきた。これはユーザからすればハケコロの設定など、数値化できないアナログ部分を少しでも減らすための技術として期待される。
 菊半裁など小サイズの印刷機市場においては、顧客のニーズがモノクロからカラーへと移行してきていることから、4色機を選択するユーザが増えてきているようである。

今後印刷機メーカに期待すること

 制御技術の向上などにより、更なる発展を見せている印刷機ではあるが、未だユーザ側の要求との隔たりは大きい感がある。
 現状、印刷機のカタログスペックがいくら優れていても、その性能を維持するためにはユーザ側には非常に大きな負担となるメンテナンスを強いられる。給油/給脂作業はメンテナンスの基本作業であるが一般的な4色印刷機を考えた場合、該当箇所は実に百箇所以上にものぼり、定期的に実施するには多大な労力が必要である。またローラニップの問題も同様で、通常1ユニットあたり十数本以上あり、しかも経時変化が前提であるゴムローラのニップを基準値通りに維持するのは、そう簡単ではない。インキキーの維持管理の問題も同様である。そのためユーザ側からすれば、カタログスペックの向上よりもむしろ、印刷機の維持管理を簡易化するための開発をより一層行ってもらいたいものである。
 また刷り出し損紙削減の課題に関しては、一枚目から良品が印刷できるレベルまで技術を高めてもらいたい。但し刷り出し損紙の削減については、印刷濃度など印刷機ユーザ側での条件管理も不可欠であるため、高性能な印刷機を本当に使いこなすためには、ユーザ側もレベルアップする必要がある。
 技術の流れを振り返ってみると、シャフトレス機やDI機、デジタル印刷機など機構上、大きな変革を遂げた印刷機は既に90年代に登場していた。21世紀に入ってからは、印刷機のトレンドを形成するに至る、インパクトある技術は見当たらない。ただし、効率化はいうに及ばず多種多様な商品に対応できる技術、品質を安定化する技術とまだまだ改善の余地は多数残されているともいえる。一方ユーザ側としても、これらのニーズを印刷機メーカへ正確に伝えるのは当然として、印刷機メーカはもちろんのことインキや用紙などの材料メーカと一体となって、更なる技術開発に努めていく所存である。

■関連情報 : 2004年12月8日(水) JAGAT トピック技術セミナー 2004

2004/11/30 00:00:00


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