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印刷業の生産性指標(KPI =Key Performance Indicator) (要登録)

JDFワークフローを睨んで、業界として統一すべき経営管理指標の提言第1弾として、印刷工程における業績評価指標の案を提示する。

■JDFワークフローにおける統一指標の必要性
 JDFワークフローでは、詳細な実績データをリアルタイムで把握できるようになる。そのことによって、作業の対スケジュール進捗情報を正確に把握でき、より的確な判断が可能になり工程管理の精度を上げることができる。また、正確な時間記録、生産実績を得ることができるようになり、その分析をもとに的確な改善策を打ち出すことが出来るようになるはずである。
 いずれも従来はなかなかできなかったことでその効果は多いに期待できるが、後者に関しては一つの懸念がある。それは、例えば印刷機械の場合、異なるメーカの生産設備間で採取するデータ自体が違ってしまうことである。具体的には、稼動率の評価に必要な本刷り作業の起点、終点をどのように定義するか、あるいは不稼動分析をするときにどのような内容でデータを取るかが違ってしまえば、機械間の比較分析ができなくなるからである。
 経営指標、管理指標については、財務指標の場合のように自社の状況を把握するだけではなく、他社との比較が可能となってその利用価値や有用性が高まる。そこでの比較が出来る前提は、定義される指標が業界内で統一されていることである。JDFワークフローは現在作りつつある段階だから、最大公約数的なことについては今のうちに利用者側と提供側、提供側同士が協議して統一しておくべきだ、というのがJAGATの考えである。

■総合的管理指標の考え方
 そのような意味で、本ページでは、印刷企業における経営層、営業、生産現場にどのような管理指標が使われるのかについて過去に一度紹介したが、それを土台に業界における最大公約数としての統一案を提言していきたいと考えている。は、その第一弾として印刷部門における物的生産性についてまとめたものである。
 印刷工程における物的生産性は、「実働時間当たりの色通し数」に集約されると考えられる(のカテゴリーID29)。これは、全社的な観点から見た総合的な生産性指標である。印刷現場がコントロールできる責任範囲内で生産性を見るならば、別の指標を使うことになるだろう。例えば、「A能」(のID25)は、主体作業時間当たりの印刷枚数(印刷された印刷用紙の枚数で色数=実版数の要素を省いたもの)であり、極めて印刷現場の責任範囲が大きい指標である。一方、印刷現場以外としては、営業あるいは工程管理責任によるところが大きい「シリンダー充満度」という指標がある。のID22)。
 実働時間当たりの色通し数は、これら両面を網羅した企業としての総合的な視点と考えられるが、いずれにしても、「改善」を目的とした実績把握を目的とするならば、その実績を左右する要因を、各責任範囲に分解して見ることができなければならない。

■総合稼働率の提言
「実働時間当たり色通し数」に影響する要因を考えてみると、「機械の不稼動時間」(間接時間)、「準備時間」、「印刷スピード」、「シリンダー充満度(多色機の場合)」などがある。したがって、上記の4つの要素それぞれに対応する「機械時間率」、「運転時間率」、「印刷回転効率」、「シリンダー充満度」という指標を掛け合わせた指標として「総合稼動率」を提言する。この指標は、「実働時間当たり色通し数」と等価となる。(マクロ視点で見た指標が、「実働時間当たり色通し数」であり、改善を目的にミクロ視点で見た指標が、「総合稼働率」と考えられる)  
総合稼働率 =運転時間率×機械時間率×印刷回転効率×シリンダー充満度
で表わされる。
 機械時間率は、工程管理や設備管理などの「生産管理」の良否が反映する。運転時間率は、「オペレータの技術」と「製品仕様」によって変化する。印刷回転効率は、「設備管理」と「オペレータの技術」が関わる要因であり、シリンダー充満度は、「受注内容と設備の整合性」および「工程管理」の精度が関わる指標である。
 上記の4つの指標を出すために必要な実績データは、時間に関しては「実働時間」、「間接時間」、「準備時間」の3種、および「仕事件数」、「印刷枚数」(印刷した紙の枚数)、そして機械の基本仕様、性能として「印刷機胴数」と「印刷機標準性能」という6つのデータがあればよい。さらに、「実働時間当たり色通し数」を得るためには、上記に加えて「通し数」と「実版数」のデータがあれば良い。
 ここで問題となるのは、「時間」に関する定義と内容である。「間接作業時間」には、工程管理に関わる要因として各種の待ち時間、設備管理に関わる要因として機械故障・修理時間が含まれるが、この間接作業時間の内容、つまり不稼動要因の内容が印刷業界として統一すべきことのひとつである。準備作業時間については、機械のプリセット自動化が当たり前のようになってくると、その内容を細かく分けて実績を収集・分析することの重要性は薄れてくるだろうから、その「始まり」と「終わり」を統一したものにしておけば良いだろう。オフ輪の場合には、この時間がヤレ通し枚数に関わる大きな要素となる。

■その他の指標
 には、「総合稼動率」とそれに関わる4つの指標以外の指標も入れておいた。各社では、それぞれにいろいろな指標を使って改善の材料にしていると思われるが、JAGATが統一を考える指標はあくまでも最大公約数としてのもので、それ以外の指標は意味がないとか不要だということではない。また、主要ポイントを明確にするために、前年度比、経年変化といった時系列での比較や目標値との比較項目を入れていないが、これらの比較データは当然必要であろう。
 最初に述べたように、JDFワークフローは着実に具体的なものが作られつつある。したがって、業界として統一すべきものについては早急に議論して意見をまとめなければならない。意見の集約は、JDFフォーラムジャパン、MIS懇談会、経営管理システム情報交換会の中で行っていきたいと考えているが、本ページの読者の方々からも多数の意見をお寄せいただきたい。

2005/07/27 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会