■製本加工設備動向
〔1〕自動プリセット化
製本機械は、その基本的な構造に大きな変化はみられない。しかし、機械のプリセットの仕方、自動調整等をどこまでできるかという方向で開発が進められ、今では自動プリセットを導入した機械が多くでている。この点、断裁機は早くからデジタル化が進んでいた。その他、折機・バインダー・上製本のライン・三方断裁機等もタッチパネルで各寸法がすべて出てくるようになった。
例えば各画面に、カバーフィーダーのガイドの幅やローラーの位置、仮付けのプレスの位置、糊の部分のローラーの高さやドクターの隙間、デリバリの搬送ガイドなども数字を入力することによって微調整ができ、基本情報を入れることによって基本設定が完了する。今までの機械では、オペレータが機械に設定されているガイドのスケールをはかって現物合わせ等をしていた。
当然このデータを保存しておくことによって再版時に同じ仕様のものが入った時には同じ番号や品目を呼び出すことにより基本設定が簡単にセッティングできるメリットがあり、こういう機械は国産のメーカーも海外のメーカーも開発が進んでいる。しかし、このような自動制御をするとき、サーボモータ等の軸がむき出しになっている場合があり、紙粉や裁クズ、ゴミ等が機械に付着してくる。もともと製本機は電送系が少なかったが、電送系で精密に制御する部品が増えたため、それに見合ったメンテナンスもしっかりしないと使いこなせなくなる。
〔2〕CCDカメラ検査装置
乱丁・落丁防止は製本加工の品質管理においても重要なポイントになる。最近はいろいろな分野で画像処理の技術が進んでいるが、製本加工の分野でもCCDカメラを使った画像処理による検査技術が進んでいる。
従来の濃度センサー式は文字の有無や絵柄インキの濃度をセンサーで撮影し検知していた。そのためインキの濃度にバラツキがあると誤作動を起し又は断裁等の紙加工精度が悪く刷り本に癖がついてズレてしまうために違うポイントを撮ってトラブルに繋がることがあった。
最近のCCDカメラ方式はインキの濃度ではなく印刷面の絵柄の中の細かい一文字一文字を撮れる。一枚一枚の刷り本が通過しところで絵柄を撮影するがこのときに若干ズレが発生するが、全体の画像の中の枠を決めてポジションのズレをある程度認知できるようになっており、この枠の範囲内で追従して検知できるということで検知精度が上がってきた。また、最近はカメラの価格が下がったので丁合い機や貼り込み機でもカメラも含めた検査装置を導入するという動きが進んでいる。
■製本におけるICタグの動向
最近、ICタグを内蔵した各種カード類が出てきているが、これを本の中に組み込むことにより物流面の管理や万引き防止に期待がもたれている。現状としては経済産業省の外郭団体が中心になって業界標準の作成に取り組んでいる。ICタグのメリットは書き換えができかつ情報量が多いことだ。その本の製造履歴を確認できれば流通業者、書店、消費者にとって利益につながる。
しかし、印刷会社から出荷した後取り次ぎを経由して書店に入っても、そのデータをどこで書き込むのかという問題がまだクリヤーされていない。現在テストされているのは、書籍を購入するときに書店が抜き取る「売り上げカード」の代わりに挿入することをイメージしたシステムである。しかし、万引き防止の面からみると単純に挿入しているだけだと抜き取って持ち出されると意味がない。
したがって、一般の方には簡単に取り外せないように綴じ込むにはどうしたらいいか、またICタグ自体の単価がまだ十数円かかるためこれをどのように吸収するかが今後の課題だ。
■PUR製本の特長と今後の課題
PURとはポリウレタンリアクティブ(Poly Uretane Reactive)の略でポリウレタン系の接着剤である。ポリウレタン自体は他用途で一般的だが、製本用接着剤としては最近になってからひろがりつつあるホットメルト型接着剤だ。従来からの接着剤は、EVA系(Ethylene Vinyl Acetate)のホットメルトで30年ぐらい使われている。
PURの特長は、第一にEVA系より接着強度が強いことがある。このことにより塗布量を少なくでき、糊の皮膜も薄くなるので開きやすさにも繋がる。第二に耐熱性がある。EVA系の耐熱温度(接着力を保持できなくなる限界点)が約45℃前後である。したがって、外気の気温が夏場にはEVA系の接着剤の限界点に近い40℃近くなる。これに対してPURは120℃近い温度まで耐性がある。
第三にPURはリサイクル性がありエコマークを取得できる。しかし、通常のEVA系ではエコマークは取得できないが、リサイクルに適したホットメルトで難細裂化ホットメルトという改良型だと取得できる。
第四にPURは耐インキ溶剤性をもつ。インキ溶剤と糊のマッチングが悪く接着力を失い本がバラバラになるトラブルがある。この点、PURは化学反応を起こして皮膜が強固になり薬剤に対する強さがある。
PURを使用するには専用機が必要だ。コストも通常の接着剤よりも2〜3倍の単価がかかるといわれている。ただ、塗布量を減らすことによって対コストの格差を狭めていこうという考え方もある。また、EVA系のホットメルトは冷えて固まると出来上がりだが、PURは接着力を発揮するまで約1日かかり、これも納期に入れて製造しなければならない。
■複雑化する製本仕様
CDやDVDのパッケージが挿入されている本は一般的になっており、製本機にもいろいろな綴じ込み挿入装置が追加、改良されてきた。最近ではサンプル類のパッケージを綴じ込んだもの、ブックインブックといって通常の無線綴じの中に後で切り離せるような中綴じの小冊子を綴じ込んだもの、合本といって無線綴じの本複数冊をまとめてくるみ、取り外すと2冊以上の本になるというものが出ている。
これらの本は、直方体の平らな本にならないことが多く、無線綴じの断裁で変形した本になる場合がある。また、丁合いでフィードできず、特殊な挿入装置を使用するか手作業となる。これらの特殊な挿入物は、企画段階から最終工程で製造可能なのか、これに伴うコスト、納期に対応できるのかを検討することが必要だ。
■法令に伴う問題
法律問題としては、数年前にPL法が施行され、ステッチの形状を内側に食い込ませる等製造上いろいろな工夫もなされてきた。青少年条例の強化にともない成人図書に関する規制が義務づけられ、未成年者に閲覧できない為の包装や帯封等が求められ、一般的には小口部分にシールを貼る等の対応をとっている。
医療品には厚生労働省で決められたいろいろな規定の表示があるが、サンプル自体に表示されてもそれを梱包する雑誌に綴じこむパッケージに明確な表示がないと薬事法違反になる場合がある。
セレクティブバインディングで個人宛の加工を施したものを綴じ込んだ本を同時に発送することが出てきる。しかし、今年施行された個人情報保護法によって、そこで使うデータ管理や余丁、残丁、不良品等の管理についても制約が出ている。
この対策として製本会社と印刷会社又は顧客等で数量の授受を表示した伝票を強化し、廃棄するときも廃棄業者に証明書を取らせることにより情報の流失防止に取り組んでいる企業もある。
「2005-2006機材インデックス」より(伊藤禎昭)
2005/10/04 00:00:00