文字であれ画像であれ、また映像であれ、コンテンツを加工する道具がデジタルになったからといって、アナログの時代と同じ位置付けで作業をしていても仕事の付加価値は上がらない。むしろDTP化で単価が下がったように、メディアの制作プロセスの合理化がされた分だけ安値競争をする方向に進んでいる。例えばデータベースからの自動組版には発注者側の不満も残ろうが、安くなるなら採用されていく。では何のために自動組版に取り組むべきだろうか?
コンテンツの素材自体はアナログでもデジタルでも価値はかわらないが、デジタルの場合は地図データに座標データを付け、それにGPSがからみ、他のアプリケーションからダイナミックに引っ張ってこれるとなると、いろんな用途が考えられるようになる。つまりデジタルデータになれば、異なるコンピュータシステム間で、またネットワークを介して必要な時にすぐに取り出して使えるようになる。デジタルデータを孤立させるとアナログと同じことだが、デジタルデータは可搬性を持たせることができるので、複合的な一貫処理が可能になる。
この「一貫」がどの範囲なのかによって処理の価値は異なる。やはりエンドユーザになるべく近いところまで一貫化する方が価値が高い。つまり自動組版よりはバリアブルプリントまで一気に行く方がよいし、最終的には利用者の手元で出力するのがいい。つまり素材と成果物をなるべく 直結させる方向にITは使われる。いわゆる「OnDemand何々」が盛んになるはずだ。
素材と成果物の間を「プロセス」と呼ぶならば、プロセスとは、焼料理、煮料理、蒸料理など調理法のようなものである。コンテンツのデジタル化で価値を出すには、従来のように先にプロセスありき(うちは鍋専門とか)で顧客の要望をそこにあわせこもうというだけでは対応できず、処理業者の腕は如何に数多くの柔軟なプロセスを用意しておいて、それらをうまく組み合わせて効率的なコミュニケーションを達成させるかにかかってくる。これを別名クロスメディアという。
今はまだこのような組み合わせ自在なプロセスというのが用意されておらず、試行しながら作り込んでいる段階であるから、デジタルコンテンツを扱っても費用対効果が出難いように思われるが、技術の流れはソフトウェアのモジュール化であり、先によいモジュールを作る競争になっていく。
過去でも日本語ワードプロセッサが専用機からパソコンのアプリとなってソフト・ハードが分離され、かな漢字変換もフォントも別途供給されて組み合わせるとか、文書をpdfやxmlでも吐き出せて、他のアプリと組み合わせられるようになった。他の分野でも同様のことが起こっていて、多くのプロセスがWEB上で連携をとれるようになったからこそeBusinessが進行する。こういった流れを想定したコンテンツ加工ビジネスのビジョンが必要である。
テキスト&グラフィックス研究会会報 Text&Graphics 2005年10月号より
2005/10/30 00:00:00