ちょうど10年前の『印刷白書 '95→'96』を開いてみると「1995年の印刷産業は、一部に景気回復の兆しが見えたものの、4年連続のマイナス成長に終わった。加工高は何とか維持したが固定費の削減ができず収益性は悪化」、しかし「印刷産業の現在の状況は平成不況のみからくるものではない」とし、その要因を「基本的には印刷市場と印刷産業の成熟化があり、その上に技術変化にともなう市場の変化、融業化の流れといった動きが重なって起きたものである」と記してある。
さらに「1995年の環境変化の最も大きな動きは、コンピュータ利用の広がりと通信の発達によって、『情報伝達』をめぐるあらゆる環境が加速度的に動き始めたことである。基本はコンピュータが『計算機』から『コミュニケーションの道具』に変貌したことである」としている。
それから10年を経て、10年前に記した環境変化の流れがだれの目にも明らかとなった一方、印刷産業の構造に前向きな変化が起き始めている。
2005年の印刷業界を取り巻く環境の動きとして注目すべきことは、インターネットと携帯電話といった情報通信のインフラ普及が、幅広い範囲にさまざまな新たな動きを起こしつつあることである。デジタルやITに関わる企業が経済、産業の前面に出始め、携帯電話を中心に新たなメディアビジネスの動きが加速してきた。インターネットは当初予測を2年前倒しで普及し日常生活にすっかり定着した。
インターネットの普及によって通販市場は大きく押し上げられ、インターネット広告は数年で雑誌広告市場を追い抜く勢いで伸び、身近なところではインクジェット対応のはがきが年賀はがきの過半数を超え、インターネットでデータを受信しアルバム製本するサービスが好調といった状況が見られた。デジタルネットワーク社会の到来を実感せざるを得なかった2005年である。
一方印刷産業の2005年は、詳細は本文で述べるが「微妙な景気」と言え、推計される売上高前年比は2.6%増であり、2004年の伸び0.3%増を大きく上回っているものの、市場から退出していった企業のマイナスを加味した印刷業界全体の出荷額は8年連続のマイナス成長となる可能性が高い。
その中で一番大きな動向は、「印刷業界の景気を経済一般から乖離させていた要因の影響力」が少しずつ小さくなってきているところにある。
印刷産業全体の出荷額をマイナスに押しやっていたプリプレス工程の売り上げの減少幅は、仕事量全体に対するシェアが低くなるので、印刷工程の売り上げ増を打ち消すほどのものにはならなくなりつつある。
価格低下をもたらしてきた供給力過剰も設備のもち方に変化が見られ始めたようだ。自社の中核となる機能に焦点を合わせた設備を行い、それ以外の仕事は外注に出すことを基本にするという傾向である。
あわせて人件費削減の方向の中で、個々の機械の効率ではなく全体としての効率を重視する考え方で、事業所数の減少とともに供給力過剰を調整する方向への動きと見ることができる。
このような中で、情報を扱う技術がデジタル化して、それまで固定化していた情報に関わるビジネスの世界に新たな市場、事業機会が生まれる可能性が見えてきたわけである。
印刷産業全体が、従来の事業領域だけのビジネスを考えるならば、今後の景気とは関わりなく、産業全体は縮小均衡で推移し、少数の企業が市場と利益のシェアを独占して大多数の企業はギリギリで生き延びるしかないというシナリオは確実に現実のものになる。
「最適経営を目指したい」という基本は、どの企業にとっても共有する考えだろう。しかし現状は縮小均衡を選択する以外「現状維持したままでの最適化」を許さない。では、どこに向けて舵を取り、そこへ向けた最適化をどのように考えればよいのか、決断の時は迫っている。
『印刷白書2006』産業白書プロローグより
[データ概要]
タイトル:印刷白書2006
監修・著:社団法人日本印刷技術協会
判型:A4判
頁数:144ページ
発行:社団法人日本印刷技術協会
※JAGAT会員企業の代表者の方には1冊無償配布。
なお、頒価にてお分けします。
JAGAT会員=20,000円 一般=30,000円
2006/06/16 00:00:00