印刷とデザインの2022年を振り返る

掲載日:2023年1月23日

2022年の印刷とデザインをめぐるトピックスから、デジタル印刷技術の応用、社会課題解決への取り組みなどを紹介する。

デジタル印刷技術の用途開発が進む

千葉印刷がSANAGI design studioの井下恭介氏・増谷誠志郎氏とともにオンデマンド印刷機Iridesseを活用して開発した「さかなかるた」が、2022年度グッドデザイン賞のグッドフォーカス賞[技術・伝承デザイン]を受賞した。魚の表皮の模様や色のみで魚の名前を当てる「かるた」であり、取り札には魚の表皮の絵柄、読み札にはその名前と特徴が印刷されている。今回の受賞で、デジタル印刷技術の可能性が消費者の多くに周知され、用途開発がさらに進むことを期待する。

白山印刷は、Scodix社主催の「Scodix Design Awards 2021」において、オリジナルクリアブックマーク「HAXAN Clear Bookmark」が商業印刷部門1位、アートディレクター・デザイナーの内田喜基氏とコラボレーションした「Kanamono Art Deep sea」がテクノロジー部門1位など、3部門で計4作品の受賞を果たしている。
白山印刷のリリース

デジタル印刷機の進化と呼応するように、ファインペーパーの分野でもデジタル印刷対応製品が生まれている。
竹尾は、8月22日〜10月21日まで見本帖本店 2階で「VENT NOUVEAU DIGITAL」展 を開催した。デジタル印刷に対応したラフ・グロス紙「ヴァンヌーボDigital」を使用したアート作品を展示し、オフセット印刷に匹敵する品質とデジタル印刷ならではの魅力を紹介した。
展示会のアートディレクションは村上雅士氏が手掛けた。展示会の告知DMは、可変ソリューションソフト「HP Mosaic」で一点一点異なる絵柄を生成し、HP Indigo 7Kで4色インキと、シルバー2度刷り、蛍光グリーンの特色インキで印刷した。

パッケージの進化

パッケージ分野では近年、環境負荷軽減、利便性の向上などを目指した技術開発が進み、特に、素材の使用量を抑えることや、プラスチックの代替え製品などが生まれている。

アサヒビールの「アサヒスーパードライ エコパック」は、ビール6缶パックの包装材を、缶の上部だけを固定する形にすることで、省資源化を図ったパッケージである。缶蓋に爪を突き立てる構造で従来以上の缶保持力も実現した。
日本印刷産業連合会主催「第61回ジャパンパッケージングコンペティション」、日本包装技術協会主催「2022日本パッケージングコンテスト(第44回)」、日本パッケージデザイン協会主催「日本パッケージデザイン大賞2023」、2022年度グッドデザイン賞など、複数のアワードで評価されている。

パルシステム生活協同組合連合会の「地球の未来にまじめなボディソープ」は2022年度グッドデザイン賞のグッドデザイン・ベスト100を受賞。
持続可能性を追求した商品設計とリサイクルの仕組みが評価された。
このプロジェクトが生まれたきっかけは、凸版印刷がパルシステムに、耐水性のある紙パック「キューブパック」を提案したことだという。持続可能性に資するパッケージが、それにふさわしい商品の開発につながったという点が興味深い。今後生活用品の分野でパッケージの紙化が進む可能性を示唆している。

福永紙工がデザインチームNEWと共に開発した紙箱のカスタマイズサービス「UNBOX(アンボックス)」が2022年度グッドデザイン賞を受賞した。主に小売店用に、業態に応じた最適な構造の箱を設計した。箱の構造体をテンプレート化してウェブサイトに公開、メーカーやデザイナーなどの顧客が製品案件に合せてカスタマイズして福永紙工に製造を発注する。パッケージ分野で小ロット多品種と企業のブランディングを実現しており、さまざまな分野への展開が期待できる。

社会課題を解決するデザインの探究

大日本印刷(DNP)のLifeデザイン事業部はデザイナーと協業し、プラスチックパッケージのリサイクル促進を目的としたRecycling Meets Design® Projectを、2020年から進めている。その成果発表するイベント「Recycling Meets Design®展 『デザインの力』で再生プラスチックを活かしたい」が2022年の7月27日~10月1日にオープンイノベーション施設の DNPプラザで開催された。プロジェクトでは本展を機に新たな共創パートナーを獲得し、再生材の可能性を具現化するための素材研究、デザインの実現性の探求などをさらに進めていくという。

広告の世界でも、社会課題を反映したコンテンツが生まれている。アドミュージアム東京で2022年6月4日~8月27日に「ほほ笑みをとりもどす世界の広告―GOOD Ideas for GOOD III―」展が開催された。社会課題の解決にユーモアで挑む国内外の広告を紹介する企画である。ユーモア精神は万国共通であることが展示内容から感じ取れる。海外企業の大胆な施策には目を見張るものがあるが、日本企業の広告に見る機知も印象に残った。

デザイナーによる社会への問いかけ

大貫卓也氏による平和希求キャンペーンポスターおよび関連制作物「HIROSHIMA APPEALS 2021」が第24回亀倉雄策賞と2022年ADCグランプリを受賞した。本作はAR(拡張現実)技術による動画と連動したポスターである。モバイル端末でAR専用アプリ「aug!」を起動して、ポスターにかざすと動画が再生される。
「ヒロシマ・アピールズ」はヒロシマ平和創造基金、広島国際文化財団、JAGDA広島地区が、JAGDAを代表するデザイナーに依頼して平和希求をテーマとするポスターを作成する企画である。2021年に同企画のデザイナーに指名された大貫氏は、現代の人々が原爆の脅威を想像できる表現として、AR連動ポスターを構想したという。

ギンザ・グラフィック・ギャラリーでは、2022年5月16日~6月30日に、グラフィックデザイナーの佐藤卓氏が率いるデザイン事務所 TSDOの仕事と、佐藤氏の創作活動を紹介する「佐藤卓 TSDO展〈 in LIFE 〉」が開催された。身の回りにある、人の手が入ったものにデザインと関わりのないものはないとの観点に立つ佐藤氏の仕事は、気を衒ったものではないが、商品がよりよく機能するための仕組みが考えられたものであり、デザインに関わる人々にとって、学びの多いものであった。


技術とデザインの融合、社会課題に果たすデザインの役割、これらは今後も重要なテーマになっていくだろう。2023年も印刷とデザインの動向を追っていきたい。

(JAGAT 研究調査部 石島 暁子)

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