印刷とデザインの2021年を振り返る

掲載日:2022年2月10日

コロナ禍が続く2021年、印刷とデザインをめぐるトピックを紹介する。

アワードにおける印刷関連の受賞

印刷会社の製造技術とデザインの掛け合わせで独自の事業が生まれ、各種のアワードでその価値を認められた事例が生まれている。

2020年度東京ビジネスデザインアワード(主催:東京都/企画・運営:公益財団法人日本デザイン振興会、以下TBDA)の最優秀賞は、千葉印刷とSANAGI design studioの井下恭介氏、増谷誠志郎氏とのマッチングによる「さかなかるた」であった。特殊トナーが搭載できるオンデマンド出力機Iridesse Production Pressのの認知度向上と用途開発を狙う。
同じくTBDAに参加した日本ラベルは、SANAGI design studioとのマッチングで、ブラックライトを当てて楽しめる化石発見シールを提案し、優秀賞を受賞した。

第30回 日本文具大賞2021では、山口証券印刷が、きっぷ型メッセージカード「いろ色きもちきっぷ」でデザイン部門グランプリを受賞した。同社が展開する、きっぷをモチーフにしたデザインステーショナリーブランド「Kumpel」から発売された商品である。

参考:印刷会社の経営資源とデザイン人材でブランドを作る 

2021年度グッドデザイン賞では、大栗紙工がノートブック [まほらノート]でグッドデザイン・ベスト100を受賞した。発達障害当事者の声に答えて開発した、誰にとっても使いやすいノートである。受賞提案1608件から厳選されたベスト100の中に、印刷関連企業が名を連ねることは、嬉しい限りだ。「まほら」は第30回 日本文具大賞2021でも、デザイン部門 優秀賞を受賞している。

同じく、研恒社によるファイルノート [スライドノート]がグッドデザイン賞を受賞した。「2019年度東京ビジネスデザインアワード」でのテーマ賞受賞を機に、ビジネスデザイン会社kenmaと共に開発した金属クリップのスライド式リングレスノート。「SlideNote」とカスタマイズ用紙のECサイト「Paper & Print」を合わせた総合ブランド「PageBase」を展開している。

参考:2021年のグッドデザインと印刷

印刷会社のビジネス展開

自社の技術を生かした製品開発、イベントを通じたプロモーション、産学官連携などの取り組みを進める事例も見られる。

研文社はwithコロナの時代に対応し、健康管理に役立つ「すこやかノート」 を企画・制作し、1万部印刷。同時に「すこやかノート」の寄贈を通じて世界の子供たちにワクチンを届ける活動「すこやかプロジェクト」を進めている。

欧文印刷は、スマートフォンで録音と再生ができる音声メッセージシステム「Voice-it」を開発するとともに、このシステムを応用した「Voice-it QRコード音声シール」を発売した。Amazonに出品しており、手軽な音声コミュニケーションツールとして、手紙やメッセージカードなどへの利用を見込む。

東洋美術印刷は、リンテックサインシステムとコラボレーションし、東京・飯田橋の本社1階にアートギャラリー「ii-Crossing(イイクロッシング)」をオープンした。両社の提携関係を発展させ、印刷とインテリアという異なる分野の融合を図る。

K&C GROUP(久栄社・セントラルプロフィックス)は、3Dトリックアートプリントをはじめとする特殊印刷によって企業のプロモーションを支援している。既存顧客との連携強化と新たな顧客獲得を目指し、2021年11月1日~14日に「トリックアート展」~印刷はたのしい~を開催した。

大日本印刷(DNP)は、オープンイノベーション拠点であるDNPプラザを活用し、大学や企業との共同研究を進めている。2021年6月21日~9月16日に武蔵野美術大学との共催による「見えてないデザイン展」を開催。また、9月22日から繊維加工メーカーの小松マテーレとDNPがパナソニックのマッチングによって協業したプロジェクト展示「気配のつくりかた」を開催している。試作展示は2月17日まで、最終展示は2月22日〜3月25日まで。

DNPグループのメディア制作会社、DNPメディア・アートは、新たな視覚表現を探究する「表現工房」を立ち上げ、DNPプラザを活用して、写真を中心とした作品の制作を中心に活動を開始した。企画展「表現工房vol.1 プロローグ企画『5人のマイスター』」を2022年3月7日まで開催中である。

凸版印刷は、障がい者の自立支援と企業の人財開発を組み合わせた「可能性アートプロジェクト」を2018年から推進している。同社の新入社員研修プログラムにビジネスモデルを提案するワークを組み込むなど、本プロジェクトを通じて次世代リーダーの育成を図っている。2021年10月5日〜12月19日に、トッパン小石川本社ビル1Fエントランスで「可能性アートプロジェクト展 2021」を開催した。

印刷の可能性を示す展覧会

2020年12月4日〜2021年3月19日に開催されたギンザ・グラフィック・ギャラリー(ggg)の企画展「石岡瑛子 グラフィックデザインはサバイブできるか」は、世界的に知られるデザイナー 石岡瑛子氏のデビューから1980年代までの広告、映画や演劇のポスター、グラフィック・アートなどの仕事に焦点を当てた。
広告・デザイン業界や社会の常識に異議を唱え、新しい価値観を提示してきた石岡氏の軌跡は、印刷・デザイン関係者をはじめ、現代を生きる多くの人々の心を掴んだ。
石岡氏が指定を書き込んだ色校正紙も展示されており、そこに示された印刷品質へのこだわりや現場への要求の厳しさは、デザイナーと印刷技術者との関係を考えさせるものであった。

印刷博物館P&Pギャラリーは、クリエイターとプリンティングディレクターがタッグを組んで行う印刷表現の実験企画「グラフィックトライアル」を2006年から継続してきたが、15回目となる「グラフィックトライアル2020 ‒BATON‒」は新型コロナウイルス感染症の影響で2020年から2021年に延期し、2021年4月24日~8月1日に開催された。
入館事前予約制ではあったが、展覧会ウェブサイトで、360°バーチャルギャラリーや、ブックデザイナー・祖父江慎氏による音声ガイドを公開し、来場できない人々にも、印刷の魅力と可能性を伝えるものとなった。


新型コロナは収束の兆しを見せない。その中でも企業のあゆみを止めないために、デザインの力で、新しい時代に沿った事業を構想してほしい。

(JAGAT 研究調査部 石島 暁子)