東京都内の中小企業とクリエイターとの協業による新事業創出を目的とする東京ビジネスデザインアワード(TBDA)は、回を重ねるごとに事業化実績を重ねて注目度を増し、参加者の意識改革も進んでいる。
TBDAのこれまでの実績と、8回目を迎えた2019年度の審査結果を紹介する。
事業全体をデザインするアワード
東京都が主催し、公益財団法人日本デザイン振興会が企画・運営するTBDAは、都内のものづくり中小企業から技術・素材などをコンペティションのテーマとして募集・選定した後、テーマに対する提案を全国のデザイナーから募集し審査する。優れた提案にはテーマ賞を授与するとともに、事業化へのサポートを行う。さらにテーマ賞から最優秀賞、優秀賞を選出する。
商品の意匠にとどまらず製造計画、販売計画を含めた事業全体のデザインを審査することが特徴である。アワードを通じて、ビジネスデザインの概念を広めていくことを目標にしている。
そのために、企業とクリエイターに対して、さまざまなサポートを行っている。
例えばクリエイターに対する提案応募説明会では、テーマ企業によるプレゼンテーションが実施される。クリエイターにとっては企業の理念や素材・技術を理解する機会であり、企業にとっては、プレゼンテーション能力を磨く機会となる。
テーマ賞が確定してからは、契約や知的財産権などに関するレクチャーや、内閣府発行の「経営デザインシート」を用いたワークショップを行い、企業とクリエイターの関係を深めながら、経営的視点から提案内容の完成度を高めるよう促す。
こうして臨む提案最終審査は年々、提案の新規性や実現性などのレベルが上がり、最優秀賞、優秀賞の審査は難航している。
事業化事例も増え、ウェアラブルメモ「wemo」や、塗って剥がせる水性絵の具「マスキングカラー」などのヒット商品が生まれている。
実績の積み重ねにより、アワードの注目度が増し、2020年2月5日に行われた2019年度提案最終審査の会場は、企業・クリエイターの関係者に加え地方自治体関係者など、多くの参加者であふれ、急遽サテライト会場を設けたほどであった。
参加企業の層も広がっている。製造業にとどまらず、サービス業や不動産業などさまざまな業種が応募する傾向にあり、テーマの多様さにつながっている。
新規性のある提案が生まれた2019年度
2019年度の最優秀賞と優秀賞を中心に、提案内容と審査のポイントを紹介する。
〈最優秀賞〉新規培養技術による「酒づくりイノベーション」
[株式会社セルファイバ/清水 覚、清水 大輔]
セルファイバは、東京大学発のスタートアップ企業だ。バイオ・ナノテクノロジーによる社会の課題解決を目指す。
髪の毛ほどのゲルチューブに細胞や微生物を封入して繊維状の部品を作る「細胞ファイバ」技術を開発し、医療や創薬分野での実用化に取り組んできた。
今回は生活者への普及を狙い、TBDAに応募した。
プランナーの清水覚氏とデザイナーの清水大輔氏は、「細胞ファイバ」を「発酵」と結び付け、食分野への応用を提案した。酵母入りの「細胞ファイバ」を飲み物に入れることで手軽に発酵飲料を作ることができる仕組みだ。
審査では、「未だかつてない研究技術にさらに奇想天外なアイデアをぶつけてきた、そのチャレンジ精神」が評価された。
〈優秀賞〉「段ボール加工技術」から生み出す明かりの防災プロダクト
[有限会社坪川製箱所/柳沢 祐治]
坪川製箱所は段ボール素材の用途開発に取り組み、社会貢献の道を探求している。東日本大震災と熊本地震の被災者からヒアリングして生まれた「段ボール箱まくら」、幼稚園や保育園、家族向けイベントなどに活用できる「段ボールハウス」を提案してきた。
今回はよりデザイン性の高い製品の開発に期待し、TBDAに応募した。
デザイナーの柳沢氏は、2019年の台風で自身が被災した経験から、坪川製箱所の企業理念に共感し、非常用段ボールランタンを提案した。懐中電灯を差し込むだけという手軽さと持ち運びやすさ、明かりの柔らかさが特徴だ。
審査では、「被災時の不便さや心理状態をデザインの力で和らげるアイデア」が評価された。
〈優秀賞〉ものづくりをアップデートする新サービスの提案
[株式会社アーク情報システム/清水 覚]
アーク情報システムはIT技術を利用したシステムやソフトウエアの企画開発を手掛けている。
受託に依存した業務形態からの脱却を図り、オリジナルの「イベントサポートシステム」を開発中である。従来は紙媒体や静的な電子媒体で提供されてきたイベントのプログラムをクラウドアプリにすることで、リアルタイムに活動状況が把握できる仕組みである。
清水氏は「システム」というTBDAの中では新鮮なテーマに挑戦し、広告・TV・イベントなどの制作現場でのコミュニケーションを円滑にするアプリを提案した。撮影の香盤表制作、チャット機能、カレンダー同期機能、アーカイブ機能を持つ。
審査委員から、アプリの製品化の難しさについて指摘もあったが、スマホユーザーに向けた市場など、新たなニーズの発掘への期待を込めての受賞となった。
多彩なテーマ賞
そのほか、多様な分野からテーマ賞が選ばれている。
事業化事例の継続発展を
今後は、TBDAから生まれた事業が市場に残っていけるかどうかも問われてくるだろう。
TBDA事務局はアワード受賞から1年間の支援や事業化事例のPRを行っている。しかし企業自身が主体的に意欲を持ち続けなければ事業の発展はない。
アワードの経験を血肉にし、継続性のある骨太の事業を構築してほしい。
東京ビジネスデザインアワード Webサイト →
(「JAGAT info」2020年3月号より)
(JAGAT 研究調査部 石島 暁子)