横浜市の臨海南部に位置する金沢産業団地で、社屋を美術館に見立て、工場の廃材から創ったアート作品を展示する「会社まるごとギャラリー2018」が2018年9月29日(土)〜10月27日(土)まで開催された。
主催は、金沢産業団地に本社を構える山陽印刷株式会社が中心となって運営するプロジェクト「アーティストネットワーク+コンパス」。本企画は2013年に始め、2018年で6回目を迎えた。
金沢産業団地は日本有数の産業集積拠点として知られているけれども、住宅地や商業施設と隔絶され、地域住民にとっては遠い存在だった。
山陽印刷が1990年にこの地に移転した際、先先代社長の秋山至氏は、社員満足と顧客アピールを実現する空間を実現したいと考え、社屋の要所要所にアート作品を配置するなど、個性豊かでぬくもりある職場環境を整えた。
若年アーティストの発掘・育成を目指す
その後山陽印刷はアートメセナ活動に取り組み、若年アーティストの発掘・育成を目的とするアーティストネットワークを設置した。その功績が認められ1996年には神奈川県より地域共生企業の表彰を受けている。
その流れを発展させ、地域社会とアーティストと自社をつなぐためにアーティストネットワーク+コンパスがスタートした。2012年12月よりアーティストを講師に招いた親子ワークショップを成功させ、公益財団法人横浜市芸術文化振興財団による「ヨコハマアートサイト2013」の認定を受けたことから、2013年に「会社まるごとギャラリー2013 『Open The Door』展」を開催した。もともと社内に展示してあるアート作品のほか、地域のアーティストから作品を提供してもらい、会議室、工場、食堂、社長室などに展示し公開した。社屋全体をギャラリーに変えるという発想が話題となり、地域住民や顧客など多くの人々が来場した。
地域を巻き込み規模を広げる
「会社まるごとギャラリー」はその後も毎年開催され、2015年からは地域の企業や大学とも連携し規模を広げている。「会社まるごとギャラリー2018『1+1=10!?』展」の会場は、山陽印刷のほか株式会社山装(防水資材)、株式会社坪倉興業(鉄鋼製品)、鶴見金網株式会社(金網総合)、有限会社協和タイヤ商会(中古タイヤ販売)、株式会社ヨコハマ機工(工業用ファスナー)の計6社となった。
同展の特徴の一つは、参加企業から提供された部品や廃材を素材にしていることだ。インキ缶、印刷機の洗浄に用いた不織布、セメント、アルミ、スティールメッシュなどが参加アーティストのアイデアで魅力的なアートに生まれ変わる。来場者はものづくり企業の魅力をこれまでと違った視点で捉えられるようになり、参加企業の社員には働く喜びを見出すきっかけとなっている。
期間中にはワークショップを行いアーティストと参加者の交流が図られている。
アートの輪が広がり新しい展開が
「会社まるごとギャラリー」から新たな展開が生まれている。女子美術大学 デザイン・工芸学科プロダクトデザイン専攻 アップサイクルデザインプロジェクト 松本ゼミ学生は同展に協力し、廃材から価値のあるものを生み出す「アップサイクル」の考えに基づいた作品を展示している。
2016年の参加アーティスト・しばたあい氏は2017年8月に京急百貨店でアクセサリー販売を行い、山陽印刷の廃材から作られた商品も含め好評を得た。しばた氏にとっては百貨店での初めての販売、山陽印刷としても印刷物以外で百貨店と取引するという貴重な機会となった。
金沢産業団地では、2016年から産官学共同によるワークショップイベント「Aozora Factory」が開催され、山陽印刷も参加している。
2018年は海の公園なぎさ広場で10月20日(土)に開催した。
Aozora Factory@海の公園なぎさ広場
山陽印刷は有限会社竹内紙器製作所、関東プリンテック株式会社と共同で「青空印刷工場」と題して、カスタムメイドのお菓子パッケージや、凸版印刷でポストカードを作るワークショップを行った。
アーティストネットワーク+コンパスは地域に貢献しながら、山陽印刷の活動範囲を広げている。社員の目を外に開いて創造性を培い、ブランド力を高めているのである。
会社まるごとギャラリー2018 「1+1=10!?」
●会期:2018年9月29日(土)〜10月27日(土)までの指定公開日
●参加企業
山陽印刷株式会社/株式会社山装/株式会社坪倉興業/鶴見金網株式会社/有限会社協和タイヤ商会/株式会社ヨコハマ機工
●参加アーティスト
片岡 操(ガラス工芸)・コントオル(平面・立体・アナログデジタル幅広く)・五十嵐 道子(フラワーデザイン)・川名 マッキー(写真撮影)・小川 敦子(アイシングクッキー)・田中 清隆(光のアート)・秋元 直樹(SAKEアーティスト)
●連携
女子美術大学 デザイン・工芸学科 プロダクトデザイン専攻 アップサイクルデザインプロジェクト松本ゼミ学生(ワークショップ・作品展示・グッズデザインなどの提案依頼)、関東学院大学 人間共生学部 共生デザイン学科
ヨコハマアートサイト2018開催イベント他市内開催のアートとの連携
作品紹介
会社の仕事は、さまざまな人々が協力して成り立っている。皆で力を合わせれば、時には10倍にも良い仕事になっているかもしれない。「1+1=10!?」というテーマには、そんな思いが込められている。企業とアーティスト、またアーティスト同士が一緒にアイデアを出し合って作品を完成させた。
その一部を紹介する。
▼片岡操さんのガラス工芸に五十嵐道子さんがフラワーアレンジ
▼五十嵐道子さん「時のいたずら」。エントランスを飾り、会期中に花の様子や実の色が変化していく様子を楽しめる。
▼コントオルさんを中心としたユニット・紺がらしによる作品「溢れた花は何処へ」。色とりどりのナイロンテグスを編んで五十嵐さんのブリザードフラワーをあしらい、所々にヨコハマ機工の金属部品を取り付けて、重りを兼ねたアクセントに。
▼川名マッキーさんの「Mio caroa rosso〜私の親愛なる赤〜」。山装が製造した、排水口用のダモストレーナを水性ペンキで覆って撮影。
▼田中清隆さんの「YES」。鶴見金網のスティール廃材に、ヨコハマ機工のブラインドリベットを着色して差し込んだ作品。
▼秋元直樹さんの「ユメアトノツワモノ」。会議室の真ん中にデンと控えている。
▼女子美術大学 デザイン・工芸学科 プロダクトデザイン専攻 アップサイクルデザインプロジェクト松本ゼミ学生によるアップサイクルの提案。印刷機の洗浄に使う不織布や色校正紙のカラーバーなどが美しいプロダクトに変身する。
その他会期中、川名マッキーさんと一緒に工場を撮影するワークショップ、小川敦子さんによるアイシングクッキーのワークショップ、関東学院大学 人間共生学部 共生デザイン学科 淡野ゼミの有志による不織布でミサンガを作るワークショップなどが実施された。
アーティストネットワーク+コンパス Webサイト
(JAGAT 研究調査部 石島 暁子)
*初出:「紙とデジタルと私たち」2018年10月19日