企業の顔といえるWebサイトを構築・運営するためのサイト戦略と体系化されたプロジェクト管理の重要性を、企業サイトとして高い評価を得ている富士通の事例を交えて紹介する。
サイト戦略とアクセシビリティ対応
2000年頃から富士通はサイト戦略を大きく変えた。まず、富士通株式会社のWebサイトではなく、富士通のブランドとして運営している。顧客から見れば、エアコン、カーナビなどのグループ会社の製品も全部富士通である。顧客が期待するものを見せるサイトということである。
ブランドは品質が重要である。したがって、品質の定義を行った。一貫性、使いやすさ、安心の3つである。一貫性とはグローバルデザイン、ドメインもすべて合わせている。使いやすさの点では、ユーザビリティ、アクセシビリティに取り組んでいる。安心とは、セキュリティである。対外評価も「日経パソコン」の企業サイトユーザビリティランキングで3年連続首位に、2003年はWebサイトでグッドデザイン賞を受賞した。
2002年に「富士通Webアクセシビリティ指針」を公開した。アクセシビリティのチェックツールも無償で公開している。アクセシビリティに取り組むことで、ビジネスとブランド、大きく2つのメリットがある。社会に価値を提供してブランドを高めると、指名買いしてくれる。
プロセスを変える
Webサイトを主導するのは難しい。そのためにプロセスを変える、仕事のやり方を変える、プロジェクトの質を変える、の3つが重要である。
現状分析、課題発見のため、顧客は何に不満があるか、声から拾っていく。プロセスを変えるというのは、思い込みとか経験知ではなく、客観的な基準を使ってプロセスを組み立てていくことだ。この場合は顧客の声だ。満足度アンケートのようなものを定量的に取っていき、定点観測する。改善により徐々に満足度が上がっている。
基準を決めて仕事のやり方を変える。サイト運用では、ITILを使う。ITサービスの手順、管理を体系的に標準化し、プロセスなども決めている。英語が共通言語と思うのは間違いで、人により全然解釈が違ったりする。プロセスの固有名詞で会話すれば、まずズレない。グローバルな規定でやれば、工程、成果物もわかる。
PMBOK
プロジェクトの質を変えるため、PMBOKのテクニックを使う。
プロジェクトマネジメントとは、プロジェクトの所定の要求事項を満足させるために、知識/スキル/ツールおよび技法をプロジェクト活動へ適用することである。所定の要求事項とは、要求、仕様に対して、スコープ、コスト、品質、スケジュール、リスクなどをすべて加味して、最適バランスで満たすことである。
PMBOKの体系では、知識エリアは9つある。さらに詳細プロセスとして、5項目の中にインプット、ツール、技法、アウトプットという概念がある。これらは非常にシンプルな考え方で、大変なことではない。
スコープ・マネジメントとリスク・マネジメント
スコープ・マネジメントではスコープ記述書(SOW)を作る。重要なのは制約条件である。スケジュールとか品質などをここに書く。
スコープ検証では、依頼した仕事に対して成果物は何かを定義して検証する。コスト、品質、スケジュールなどを検証する。これらができたら公式な受け入れ、作業OKとみる。あくまで成果物、コスト、品質がわかってから作業に着手する。
リスク・マネジメントは、どんな問題が潜んでいるかを予め考えるプロセスを敢えて作る。1回やったリスクのチェックは、また後で使えるのでずっと蓄積、表示していくべきだ。
リスク・マネジメントでは、いろいろなリスクを考えた上でリスクを識別する。起きるかどうかではなく、起きそうにないことまで全部割り出す。
またチェックするプロセスとして、マイルストーンという考え方がある。これを意識的に設定して、リスクを洗い出すプロセスを作る。
スコープ検証の中でもリスク・マネジメントを入れることができる。実態はただの打ち合わせでも、「スコープ検証」としてマークを入れておくと、必ずチェックされるということがわかる。これもプロジェクト運営のリスクヘッジになっている。「私はここでみんな監査する」ことを意味するからだ。これを見て、スタッフが意識して動いてくれる。
PMBOK導入のメリットは、共通の適用語、体系的なものを使うことで、プロジェクトの効率化が図れる。例えばサイトの手直しのコストを抑制できる。これらが、富士通がグローバルで約15万ページ、35ヵ国のWebサイトをマネジメントできている、その基礎となるプロジェクトマネジメントのやり方である。
(概要はJagat Info 2007年3月号、詳細報告はクロスメディア研究会会報 VEHICLE No.214に掲載予定)
2007/03/17 00:00:00