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クライアントの本質を掴むことがチャンスに

2007年3月18日に実施された第3期クロスメディアエキスパート試験結果について認証委員会で講評いただいた中から、論述試験の取り組みに関する内容を要約した。


※クロスメディアエキスパート試験とは、顧客のニーズに対応して多様なメディア(クロスメディア)を提案できる人材を認定する試験である。第3期の論述試験では、架空のアパレル企業が抱える問題に対して、受験者は印刷会社の担当者の立場で改善案を含んだクロスメディア提案をするというかたちで出題された。

■コミュニケーション能力を高めよう

今、情報伝達手段はいろいろなものがあり、どのように活用するかについていろいろ問題を抱えているからこそ、クライアントは話し相手を求めている。だからそこにビジネスとして入っていくチャンスがあるのだが、あまり知識がないで飛び込んで話しても、クライアントに話がついていけない。立場によっても切り口は違うし、いろいろな業種業態によっても話が異なる。 そういうところに、今までの、原稿が出たら持って帰るというだけの印刷会社の営業が行っても、その会社が今何をしようとしているかという話には全然つながらない。 これからのビジネスのキーは、お客さんのいろいろな立場の人ときちんとコミュニケーションすることで、そのために必要な最低限の知識として学科試験が考えられている。

論述試験における提案作成は、第3期はアパレルのブランド作り、ブランド構築というテーマであったので、少し馴染みがない人もいたのかもしれない。しかし1回目、2回目と比べると、解答の仕方は手慣れてきた。学科試験の問題がコミュニケーションのために最低限必要な知識であるとすると、論述はコミュニケーションそのものの能力が問われているが、一般的にコミュニケーション能力は低い。

今回、論述だけの合格率はかなり上がって、このくらいは合格するだろうという想定内にほぼ近づいてきた。しかし学科は非常に高得点なのに、論述で全く書けていない人たちがいる。比較的若い人が多いが、コミュニケーション能力そのものの教え方の難しさ、経験の積み方の難しさを表わしている。

■与件から本質を掴む

ターゲット企業のことが書かれた与件を読み込む能力というのはヒアリングと一緒なので、相手はどんな問題を抱えて何が課題なのかを抽出できること、つまり社長の気持ちを読み取るつもりで与件を読んでもらえれば、たくさんヒントがあって、やりたいことが書かれていることに気づく。そこがまだ読み取りが弱かったり、勘違いしたり、読み飛ばしたりというところが部分的にある。

この論述課題は自主提案という形で、お客さんの問題を先取りする形で提案するという方向を考えているが、提案というと、何か奇抜なことを考えたほうがいいと思う人も見受けられる。与件には何をしたいかがほぼ書いてあるので、突拍子もないことを考えなくても、アパレル業界をあまり知らなくても、整理すれば提案は書けるはずという設定になっている。そういうところをいかにして素早く読み取るかというのが重要だ。

これは単にペーパーテストのためというのではなく、日常の営業活動や提案活動に役立つという想定になっている。 とにかく提案というのはコミュニケーションである。お客さんが何で悩んでいるのか聞き出すのもコミュニケーションだし、自分が「こういう理由で提案できる、任せてほしい」と言うのもコミュニケーションである。そのコミュニケーションの基本としての、例えば5W1Hのバランスをとった押さえ方が不足していて自分が言いたいことだけを一方的に書く傾向がいまだに強い。

例えば「携帯と印刷物を併用しよう」と言っているだけで価値があると思い込んでいる傾向があるが、どのように併用するとどんな意味があるのかということに触れていない。「何をやりましょう」とは書いてあるが、なぜそれをするといいのか、競合と比べてここがいいとか、追いつくとか、もっと差別化できるとか、なぜそうなのかという、「なぜ」という問いかけがない。

「きっとこういうときはWebと何かをやればいい」という方法論だけが表に出てきて、「私は今回チラシと携帯の連携サイトを提案します」と書いて終わっている。そうすることによって、従業員の接客マナーやお客さんのリピートがどうなるか考えていなくて、通り一遍、マーケティングの本のようなことだけが書いてある。

このお客さんが今こういう状況にあって悩んでいるから、だからどのようにというHowの部分と、なぜそうするのかというWhyの部分がきっちり書けている答案は少ない。 採点上も、考え方の一貫性に配点を置いているが、要領良く書く記述能力が足りないという感じを受ける。そういうところは日常的にもう少し訓練が必要だろう。

解答用紙のページ数を埋めるために、とにかく字数を増やそうとして与件を書き写してしまったり、重複することを延々と書いている人もいた。 手法ばかり書くよりも冷静にロジカルシンキングして、問題に対してあるべき姿をまずイメージしないと解決に向かわないが、ここはどうも意外と抜けていたり、ぼんやりしてしまっている。

あるべき姿を社長に「こういうのが理想だ」と訴えかけられないと、どうオペレーションの話、手法の話をしても、多分相手に伝わらない。 恐らく、やろうと提案していることは全く同じなのに、1人は合格して1人は落ちているということもある。

提案内容として、「この人がこれをやりたい背景として、こういう理由があるという説明があるから、お客さんが納得して合格した」というケースと、「何をやりたいと言っていることはわかるが、なぜそうするといいのかが全然わからないから買ってくれない」というのは、実際のビジネスの世界でいくらでもあるはずである。

全く同じ値段で同じ性能のものをどちらかしか買えないとしたら、お客さんは必ず何か理由があって片方に決めている。そこが提案そのものの大きなコミュニケーションのポイントになってくるはずである。 お客さんに、買いたいと思わせるようなものでなければいけない。御用聞き型では全然提案にならない。

■論理的に考え、組み立てる力

ロジカルシンキングについては、原因と結果という物事の成り立ちをまず掴むことが重要である。 論述試験の採点者は、提案を受けた側の意志決定者になったつもりで答案を見ているが、「何を提案したいかはわかるが、なぜその提案を採用すると我々がいいのかは全然わからない」という答案が多い。 提案書に効果をすっきり書けないならば、もっと提案は絞り込まなければいけない面がある。試験は2時間しかないのだから、そこで考えられる範囲にもっと絞るべきである。

問題とあるべき姿と課題という流れの中で、整理が付いていないと、どんどんアイデアばかりできて拡散していき、つじつまが合わないまま書いていくことが多々あるのではないか。 実際問題としても、営業の人と現場のディレクター2人がやってきて、2人足して一人前のような話をすることが多い。「もう少し全体をきちんと聞いてくれる人はいないのか」というのが現実ではないか。

得意先のビジネスの本質を見つけ出せば、提案の軸がぶれるわけはない。そこを見抜かなければいけない。 与件には、何かしら本質的なことはキーワードとして埋め込んであるのが普通である。そうすると、プライオリティがおのずとつくので、絞り込みも、間違いなく相手の心を打つ絞り込みになるだろう。

逆に、個人的にモチベーションが高くて勉強している人、こういう提案をお客さんにしていくということに意欲の強い人にとっては、むしろ今までなら勝てなかった相手に勝てるチャンスかもしれないし、今までなら聞いてもらえなかった提案をお客さんに届けられる、そういう時代になってきているということだと思う。


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(2007年6月)

2007/06/13 00:00:00


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