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コミュニケーションスキルが成否を決める

凸版印刷株式会社 情報コミュニケーション事業本部 トッパンアイデアセンター 東京クリエイティブ本部 企画制作第一部 課長 富岡英太 氏に聞く


新しいビジネスを軌道に乗せる原動力は何と言ってもヒトだ。クロスメディアビジネスでは、特にプロデューサーやディレクターの役割が非常に重要になる。

マルチメディアからEビジネス、クロスメディアまで、次々と新しいビジネスを立ち上げてきた凸版印刷は、どのような人材戦略で取り組んできたのだろうか。クロスメディアビジネスの最前線で活躍する富岡氏は、コミュニケーションスキルと経験を積むことの重要性を力説する。

人材育成の近道はない

--クロスメディアビジネスでは、どのような人材が求められるのだろうか。JAGATではクロスメディアのディレクター領域を図1のようにまとめている。各事業統括プロデューサーの下に、「マネジメント領域」のプロジェクトマネージャーやWebプロデューサー、テクニカルプロデューサーがいて、さらに「ディレクション領域」のプランナー、アートディレクター、制作ディレクターが、「現場」のデザイナーやクリエイター、オペレーターに指示を出す。従来型の印刷ビジネスに比べて、プロデューサーやディレクターの役割が重要になってくる。


図1:クロスメディアのディレクター領域

富岡 通常のIT系企業では、アカウンターとプロデューサーとディレクターが完全に分業されている場合が多く、ディレクターの中でもシステム系とデザイン系に分かれていることもある。役割工程(作業領域)が細分化されている分、一つの案件に関わる人数=工数も多くなるため当然費用面にも反映されてくる。

--「現場」からディレクター、マネージャーへと、キャリアパスのとおりに人材は育っていくのだろうか。

富岡 主業務担当がデザイナーでありながら、得意先との直接交渉の機会が多かったり、外部のプログラマーと調整したりと、そういう立場に追い込まれ、分からないなりに対応をしてきた人間が、結果として育っていった。計画的な育成プログラムは明確に定義としては存在しておらず、スキルアップやキャリアアップはあくまでOJT、個人の技量に掛かっているのが現状だ。

人材の採用に関しては、ディレクションワークに必要なスキルをプライオリティ順にまとめている。メンバーに関しては、現在のスキルポジションを「ひと通りできる」から「創意工夫してできる」、さらに「人に指導できる」レベルまで、確認できるチェックシートがある。キャリアアップの方向性によって、クロスメディアエキスパート資格の取得や、外部セミナーへの参加、専門のスクールに通うことを勧めるケースもある。

DTPの場合はオペレーションのノウハウを教えることができるが、Webの場合は受注実績がないなど、未知の案件が多いので、自分で調べるように指示するか、調べ方を教えることしかできない。新しい案件に対して、「調べてみます」と言うか「分かりません」と言うかが後にその人の「差」となる。当然「調べてみます」と言う人間はディレクション領域から上流に進む可能性があり、「分かりません」と言う人間は制作現場やディレクションされる立場にとどまることになる。個々の案件で得られた知識を水平展開することは可能だが、実際に担当しないと経験値としては残りにくい。

--現場での経験を積んで、ディレクターからマネージャーへとキャリアアップするのか。

富岡 凸版印刷の現在の組織では「制作」はほぼ外注対応している。案件に応じて、ディレクターやマネージャーが協力会社の選定、割り振りをしている。また、プロデュース機能とディレクション機能が合体している。顧客の要望を受けて、それに応じたプロジェクトを立ち上げて、アカウントからマネジメント、技術的なディレクションまで広域にわたりほぼ一人の人間が対応する。

--凸版印刷の場合、プロデューサーとディレクターを兼ねられて一人前なのか。

富岡 プロデューサーとディレクターの兼務というより、さらにクロスメディアプロデューサーは加えて紙系のディレクションも同時にこなせるということが求められる理想像=ワンストッププロデューサーである。実態としては、システム寄りのプロデューサーもいれば、企画、マーケティング系が得意、あるいはデザインが得意なプロデューサーもいるが、ほぼ全員が両方の役割を果たしている。得意先業界によって求められるプロデューサーのタイプも異なってくる。

顧客との総合窓口は営業担当になるが、紙とWebとで専門特化はしていないので、営業にもある程度のWebリテラシーが必要になっている。

ここ数年、紙とWebの連携強化を図るべく部門を統合しているが、紙のプロデューサーがそのままWebのプロデューサーを兼任できるほどシフトは容易には進んではいない。少なくとも4〜5年の経験が必要で、その間にも技術が変化していく。ローテーションによる人的交流対応を掛けたりもしているが、まだはっきりと効果が出ているとは言えない。

コミュニケーションスキルが最も重要

--クロスメディアビジネスに求められるスキルは?

富岡 チームに求められるスキルの軸となるのが「コミュニケーションスキル」であると言える。さらに、ITリテラシーとコンプライアンスの順守が最低限のハードルになる。派遣社員採用などの面接のチェックポイントとしては、「プロデューススキル」においては、営業または得意先との折衝能力を見る。与件を整理して課題と解決方法をまとめられるか、あるいは経験しているか。企業によっては見積もりの考え方が違うので、アカウントをどう考えてきたか、前職での工数試算方法などを質問する。営業との調整能力は営業に対して報告・連絡・相談ができるかどうか。リスク管理や情報収集力も必要である。

次に「ディレクションスキル」は制作会社に対するコミュニケーションスキルになる。工数の読みとスケジュール管理がきちんとできるか。前歴や実績、本人の作品や仕事の成果などを見る。印刷業界の場合、業務が同時並列的に動くので、複数の業務を並行して処理する必要がある。求められる能力は、プロジェクトマネジメントと似ている。

Webの基本的スキルとしては、Web全般の基本概念が理解されていれば、あまり重きは置いていない。提案書の作成や得意先との指示のやり取りには、PowerPointやExcel、PDFなどのスキルが重要となる。コンテンツデザインやコーディング処理はオペレーターとして雇う場合には必要であろう。オペレーターの場合はグラフィック系ソフトとしてPhotoshopとIllustrator、Dreamweaverあたりは必須となる。

--成功するディレクター、プロデューサーはどういうタイプか。

富岡 ITサバイバルの中でもまれ、生き残ってきた人間は顧客から求められた課題に対してズレが少ない。印刷では顧客の要望が現場に伝わっていくうちに伝言ゲームになってしまう場合があるが、そういう情報のゆがみが少なく精度が高い。

--コミュニケーションスキルがあれば、いろいろな案件を経験する中で育つということか。

富岡 プライオリティが高いのはコミュニケーションスキルで、技術は後から付いてくる。

--印刷会社が新たなビジネスにどう踏み出すか。最初の1歩が難しい。

富岡 ワンストッププロデューサーとしての「クロスメディアプロデューサー」に必要な資質は、コミュニケーション能力、マネジメント能力、分析能力、企画力、情報設計力、基礎知識、そしてWebトレンドへの対応力になる。

しかし、このような人材が既に用意されているわけでない。人材・能力などの受注体制が整ったから仕事があるわけでもない。日常の仕事の中から領域を広げるチャンスを積み重ねる。一方、経営者としては、新たなビジネスモデルへの方向性を明確に示すことで、次の展開が可能になる。内製化によって対応するなら、人材の育成、確保、教育に加えて、各種インフラを整備する。協業によって対応するのなら、どのような技術と組んでいくのか、あるいは必要な分野ごとにアライアンスの部分を広げていくのかを見極めることだ。

印刷会社としては、全部を内製化するよりも、どこかの要素に重点を置いて、弱い部分はパートナーを組むという方向性で、クロスメディアプロデューサーを育成したほうが日々の技術変化にも対応しやすいだろう。

JAGAT info』9月号 特集「人材力が新ビジネスを開く」より一部抜粋

2007/10/08 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会