2007年8月12日に実施された第4期試験結果について認証委員会の講評より、試験の取り組みに関する内容を要約した。
まず前回と明らかに違うと感じるのは、論述試験における様式面での記述レベルが上がっている点である。ただ、それがイコールいい提案かどうかというと別の話で、見た目は洗練しているけれども中身が薄い提案も増えてきている。内容のレベルはこれからで、提案の中身やクライアントのニーズに合ったものを考えるという経験を積んで身に付けていくことだと思う。
中身が薄い提案のひとつの典型例として、形は揃っているが与件を書き換えただけというのがある。 例えば、「メールマガジンを作ってコミュニケーションを改善する」と書いてあるだけで、「何を」「誰と」コミュニケーションするのかが書かれていない。ツールとしてメールマガジンがあったとしたら、その先にはターゲットがあるし、目的がある。その目的を果たすために、これを道具に使ってどんなコンテンツを流通するかという視点がなければいけないのに、クロスメディア提案を「メールマガジンを提案する。これでコミュニケーションが向上する」で終わっている。
これでは相手の立場に立った提案ができていない。「うちの会社はメールマガジンを幾つも運営しているので、うちに発注してもらいたい」と言っているだけである。
また、自分の中で、与件を読んだつもりになって、知らないうちに想像してしまっている人もいる。似たような仕事をしたことがあると、そちらに答を持っていきたいために、自分がかつてやった内容がすり替わって入ってしまう。そうすると、それが前提になったものを作るので、提案される側は居心地が悪い。それは現実でもよくある話である。
対して、良くできている提案は、「ユーザとの間にコミュニケーションがないため、ニーズが把握できず独りよがりになっている。メールマガジンで会社が考えていることをどんどん伝えていこう」とか、「代表的なユーザの使い方を紹介して、私もこんなことをやっているという声を集めよう」とか、コンテンツの中身にかなり具体的に踏み込んだ提案になっていて、読み手は納得しやすい。
問題の与件として、「コミュニケーションが悪い、お客さんの気持ちがわからない」と書いてあると、「コミュニケーション不足が問題点だ」という指摘をするのはいい。しかし、それが「解決するためにはメールマガジン」で終わっている。
相手の立場に立って与件を読んでいかなければいけないが、どうしても自分の側で読んでしまうので、相手が何を思うかというのがくみ取れない。「与件=ヒアリング」ということを理解すれば、予見をそのまま書いても何の解決にもならないことがわかる。ヒアリングの結果、問題や課題を出して、そこで解決していくということをもう1回考えれば、良いストーリーが出てくると思う。
その点では、むしろ初期の試験のほうが、「こうやってあなたの熱烈なファンができる」とか、「こういうふうにやればリピーターができる」ということを完全にゴールに置いた優秀な提案があった。最近の答案は、見た目はきれいにまとまっているが、「それで?」と言いたくなる答案が非常に多く、そういう意味では、形から入ってしまっているのではないかと思う。
試験では、形式的ではなくロジカルシンキングの論述に採点の比重があるが、企画提案が流れ作業的になっていると、それはなかなか難しいという気はする。
例えば「RFID」とクライアントが口にしたとき、「相手がそう言ったから」というだけだと、営業は何も考えずにRFIDの専門家に任せて、出てきたものを見積りして、「いくらです」と言うだけになってしまう。
しかし、「RFIDで何をしたいのか、何を、なぜトレースしたいのか」というふうに掘り下げて聞くことができれば、もしかしたらRFIDではなくQRコードでいいかもしれない。 その経路をずっと追いかけたいのか、すべてにセンサーを置くような投資をしてまでそれを使う業務なのか、誰が作ったのかと誰が使っているのかだけわかればいいのかで、おのずと解決策は違う。
技術さえあれば仕事が取れるということは、だんだんなくなっていく。だから技術の専門性よりも、どれだけクライアントのためになるかを考えていく人を作りたい。変化に対応していくには、自らも変わっていかなければいけないし、世の中の変化にも対応しなければいけない。問題に対してどうチャンスを作っていって、自分たちの強みをどう発揮させるかという対応能力を求めている
これは、昔からあった「マルチメディア」「メディアミックス」という言葉と、「クロスメディア」がどう違うのかということと非常に関係している。
メディアミックスとかマルチメディアという言葉は、媒体の種類や組み合わせの話を結果論的に言ったもので、できあがった広告をどれに乗せるかという話だったと思う。しかし、クロスメディアは、どういう組み合わせ方をすればマーケティング効果が最大になるかというのがゴールであり、ここが大きく異なっている。
印刷会社が受注産業としての意識だけでクロスメディアを捉えていると、そもそも話にならない。技術優先で、「うちのほうがきれいに刷れる」とか「安く刷れる」ということだけやっていると、「やってくれと言われたことだけをやっている」という話にしかならない。
今までの単なる受注というのは流しておけば良かったが、これからはクライアント側の経営リソースや体制まで影響してくるので、相手方のもっと深いところまで入っていかないと解決できなくなってしまう。
しかし我々の予想よりも早く、良い提案をする人はそのレベルに到達しつつある。印刷業界の中に居て今まで隠れていた人たちが、このような試験を通じて表に出始めていて、自分たちの取り組みが認知され、期待されているということを理解し始めている。この業界には力のある人たちが潜在的にいたのだというのが、この試験を始めたことによって発見されたことは、非常に意味がある。
また、この試験は顧客をいかにWin-Winな関係で育てていくかという視点であるが、印刷業は他の業界より、顧客と共に発展しようという志向があると思う。
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