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「なぜ?」が解決策を生む

2007年8月12日に実施された第4期試験結果について認証委員会の講評より、試験の取り組みに関する内容を要約した。

※クロスメディアエキスパート試験とは、顧客のニーズに対応して多様なメディア(クロスメディア)を提案できる人材を認定する試験である。第4期の論述試験では、架空の和装関連企業が抱える問題に対して、受験者はメディア制作会社の担当者の立場で改善案を含んだクロスメディア提案をするというかたちで出題された。

印刷モデルを根底から覆すビジネスの登場

印刷は、非常に高い印刷機を買って、膨大な減価償却費を払いながら、また、ものすごいコストを払いながら、導入費用をペイして、そこから先は全部利益になるという装置産業の事業構造になっているが、今はものすごく高い印刷機よりも、下手をすると1桁値段の安いデジタルの機械が出てきて、印刷会社がコストを下げつつ、もっといいもの、もっときれいなものをもっと早くと目指してきたのとは全く別の視点で、「こういうものはこのくらいでいい」と思っているユーザが間違いなく存在している。

クロスメディアを突き詰めていった結果、Webとケータイだけでは足りないので、紙メディアもやらなければいけない。彼らは印刷の先入観がないので、最初からパーソナライズされたDMを刷ろうと考える。

そうすると、たとえロットは小さいけれども利益率が高くて差別化ができるようなビジネスは、印刷会社の今までの考え方の延長線上ではなく、天から降ってくるように突然現れた会社が顧客を持っていってしまう可能性がある。

例えば、宛名印刷をする値段とカラー印刷をする値段が今は変わらない。印刷というのは複製技術なので、同じものをあまねく知らしめるための手段としては非常にいい技術だが、One to Oneをやろうというと、そもそもの考え方が違う。

使っている要素技術は同じでも、100人に100種類違うものを刷るというのは、もはや複製して普及させるという、いちばん最初にあった印刷のモデルと違うので、ビジネスモデルが根底から違ってくるということである。

そして根底から違ってしまったビジネスモデルを最初からやっているのは、携帯にメールマガジンを配信している人たちであり、パーソナライズしたWebを提供している人たちであり、彼らにとってそれは最初から当たり前の考え方である。

これからは「この時計を誰に売るか」

マーケティングというのは結局、「この時計を売るにはどうしたらいいか」という話がメインであって、この時計の取扱説明書を作る話ではない。そこに大変なギャップがある。「この時計を売るためにはどうしたらいいのか」というところから考えるのが、これからの流れである。

印刷会社も今までは刷るだけだったから、「この時計を誰に売るか」などということは、多分今まで考えたことがないだろう。「この紙が誰に渡るか」など考えていない。しかし今後は、「この時計を誰に売るか」ということを考えていかないと、どのメディアを選ぶかも全然決まってこない。

例えば40代後半のおじさんがケータイで何を見るかというのはコンテンツ次第であって、ケータイだから見るとか見ないという話ではない。どのくらい簡単なものだったら見るかとか、どのくらい短かったら見るかとか、それはツールだけ、デバイスだけではなく、コンテンツにも依存する。

何を売るのか、誰に売るのか、どのように売るのか、なぜそのツールだとそこにリーチできるのかというような論理展開が、ここまで論述試験のレベルが上がってくると必要である。

例えば「オーダーメイド品を販売するサイトを作ったらどうか。パターンの決まったものもやるが、オーダー品も受けることにして希少性を出したほうがいいと思う。Webサイトではそれができるが、そういう生産体制は組めるのか」という質問が1回クライアントにできれば、そういう提案ができる。

しかし、相手側にそれができるかどうかわからない段階でそれをやってしまうと、売る単価も違うし利益率も違う。与件の範囲内であればいいが、経営リソースとか、いろいろな状況を逸脱してしまうと、相手側は納得できない。切り口の問題をとってみても、その企業にとってわかりやすいロジックに合っていればいい。

例えばものを売りたいときに、いろいろなことでその企業に合っていれば、わかりやすい提案になるが、もし合っていないロジックを持ってきてしまうと、相手の社長は「何の話をしているのか」という風になってしまう。

自分の上司が提案書を採点しているのではなく、あくまでも提案書を見たお客さんがどう思うかという視点で採点者は点数を付けていることを、もっと強く意識したほうがいい。

「なぜ?」が解決策を生む

合格者へのインタビューをしていると、クロスメディアに関する経験がなくても、社内で何らかのプロジェクトをやっていた人が多い。印刷会社の中でも、そういう人なら勉強してもらえば充分合格の可能性がある。

クライアントの言いなりに見積書を持っていく営業ではなく、「なぜそれが必要なのか、それを何に使うのか」と聞けるか聞けないかで、営業のレベルは段違いではないか。場合によっては、「それをやるためにパソコンを10台買うのであれば、パソコンを1台買って、無線LANで今までのパソコンに無線LANのカードを入れたほうが安い」とか、「ノートパソコンをやめて、みんなの携帯にメール転送するシステムを1つ作ればそれで済む」とか、「その分だけWebのほうを充実させてはどうか」とか、いろいろなやり方、提案の仕方がある。

そういう意味では、「なぜ」というふうに思う人は、どんどん解決策を生み出してくると思う。

クライアントと一緒に悩んで解決する

受験者へは試験のフィードバックが届くと思うが、「自分は論述が合格だ。合格だから、それで提案ができる」のではなく、そこから先のことを考えてもらいたい。「そこがスタートラインだ」くらいの意識でいてもらいたい。

あとはどのくらい、クライアントときちんとコミュニケーションしていけるかである。提案書だけで商品を買ってくれるお客さんはいない。

5年前、10年前であれば、「こんなパンフレットが作れる。ちょっと変わったものをこれでやるといいのではないか」と言うと、発注してくれるお客さんはいたと思う。しかし、今はどんな考え抜いた提案書を持っていっても、それだけで「よし、買った」と言ってくれる人はいない。

今まではどちらかというと受けて終わりだったのが、この答案を書けるようになった人たちは、やっとクライアントの立場に立って一緒に物事を考えて解決できるようになっていくというレベルになったと思う。

さらに先を見通さないと問題解決はできない

例えば、あるクライアントから印刷の仕事が突然来なくなったとしたら、その奥には顧客のビジネス基盤に何か大きな変化があるのでないかと考えるべきである。

クライアントが抱えている顧客を見ていかないと、それは絶対に解決できない。そこまで完全にターゲットにしていかないと、自分たちの仕事にもならないし、いろいろな付加価値は生まれない。

例えばケータイの利用明細は、これからは、もう紙で送らなくてもいいということになるだろう。それで減る印刷物は大変な量である。何千万人分の利用履歴データの印刷が、この世の中から消えてなくなることを考えると、ものすごいインパクトがある。

そういうことを考えると、基本的なベースとして、紙がなくなるとか、なくならないとか、言っている場合ではない。そのような変化にどう対応するのかということである。エンドユーザまでを見て、考えていかないと、本当の問題解決はできない。


関連情報:
・顧客はあなたの提案に納得しているか(第4期試験講評・前編)

(2007年10月)

2007/10/21 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会