1980年頃から叫ばれた「情報化」はコンテンツの独立のための戦いにあけくれていた。アナログの時代のコンテンツは紙の文書でもビデオでも媒体・フォーマットの中に埋め込まれたものであった。そこでは同じ情報を量産して配布するという手段は発達したが、中の情報を派生・再加工・2次利用するなどヨコ展開をすることは、最初から作り直しをするようなものであった。
デジタルになると情報のコピーは容易に正確にできるが、デジタルにおいても情報のフォーマットというのは紙サイズ・フォント・レイアウトなどアナログ時代の多くのものを引きずって、コンテンツのヨコ展開は非常に難しかった。読売新聞から日本テレビや読売テレビができたがそれぞれ独立した会社で、同じ取材現場に3社が出向いていくように、フォーマットが異なると「別世界」のメディアのビジネスはタテ割業界であることは各社ごとのhomepageを見ても分かる。
ではデジタルがコンテンツを独立させて、旧来のメディアビジネスの枠組みをブチ壊すのだろうか。TVも新聞もなくならないだろうと考えられているが、ヨーロッパで伝統的な新聞がタブロイドのフリーペーパーに迫られているように、ITがメディアを変えつつあることの先にTVや新聞のビジネスが大打撃を受ける可能性はある。しかしチャンスもある。
AdobeはPDFのように伝統的出版フォーマットを再現するDTPの世界から好かれることをしていて、一方Microsoftはパソコンソフトにおいてもアナログ時代を踏襲するよりもコンテンツの再利用を優先的に考えていたので好かれていなかった。一方でコンテンツ独立の理想郷を垣間見せたのはweb/htmlであって、1990年代にMicrosoftは会社の舵取りを変え、Adobe/PDFとMicrosoftは対極のように思えたが、Adobeがmacromediaを買収して以来状況は変わった。
今起ころうとしていることは表面上はAdobe対Microsoftの対決のように見えるが、どちらがどの分野で優位になるかどうかとは別に、コンテンツと情報受発信の関係がフレキシブルになろうとしていることである。そんなところに電子出版の再チャレンジの可能性も生まれるかもしれない。
(クロスメディア研究会会報227号より)
2008/05/08 00:00:00