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欧米の広告費 〜TV、ネットとDMの動向(2)〜

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次に、紙について考えてみたい。デジタル技術の進展により紙は無くなるという議論があったが実際はどうであろうか?

人口減により今後は国内の紙の消費量は減少する方向にあるが、今後は総量ではなく、国民一人当たりの数字で推移を見てゆく事が重要になる。この視点で国内の一人当たりの紙消費量(生産量−在庫−輸出+輸入の総和/人口)を調べると、1990年初頭までは順調に増加し、これ以降では増加傾向が鈍化している事が分かる。

過去、新しいメディアが出現しても紙消費量の伸びはあまり影響を受けず、同じ傾向で伸びてきた。しかし90年初頭から増加速度が鈍化している事は要注意であろう。鈍化の理由は幾つか考えられるが、結果として減少していない。学会や技術戦略マップ等で、電子ペーパやフレキシブルディスプレイの新しい表示手段が普及は2010年〜2015年前後に登場すると予想されているが紙の持つ優れた機能を凌駕できない限り、今後も紙は減少しないであろう。同じ様にインターネットで郵便がなくなる、という議論も一時よく言われた。実際はどうであろうか?USPSの2004年〜2006年の全通数変化を見てみる限り、郵便が無くなるという悲観的予想と異なり、実績は楽観的予想にほぼ近い通数推移で全体として増加傾向となっている(但し通常の普通郵便であるFirst Class Mail は減少)。いずれにせよ、インターネットの進展という大きなインパクトがあっても郵便通数は伸びている、というのが米国の状況である。

さて本論のDMにもどるが、実績として欧米ともCAGRで5-6%と高い伸びになっている。この伸びの背景としては、消費者がe-mailや電話を受信するよりもDMを受領する方を比較的好ましく考えているという調査報告がある。またDMAでは他の要因として、費用対効果、DBの活用によるレスポンス率の改善や他のメディアとの組み合わせ活用等が進んでいる事等も指摘している。いずれにせよ伸びの背景として、広告メールや関連するフルフィルメントが今後とも成長の鍵を握っているといえよう。従って、当然ながら、現在のサブプライム等を契機とした景気後退の影響は今後確実に数字として出てくるであろう。

次に郵便の規制緩和の影響について、先行する欧州市場を例に見てみたい。欧州ではドイツポストやロイヤルメールが著名であるが通数で見た場合、2006年のNo1市場はフランスで380億通。ドイツがこれに次ぎ363億通、英国は3番目、4位はオランダである。欧州全体では1960億通が流通した(米国では2130億通)が、この内、NPO(National Postal Operators 各国の郵便事業会社)分の合計が1280億通あり、全体の65.3%を占めている。残りの34.7%は自由化で新たに新規参入した会社の事業分である。欧州で最も自由化が進んでいるのはスペインであり、新規参入会社が全体通数の54.7%を担っている。逆に新規参入者のシェアが最も低いのはスウェーデンであり、19.7%であった。通数だけ見ると規制緩和の効果が高いようにみえるが、全体としてこれら新規参入企業は「既存のNPOの事業領域」には侵食できていないのが実態である。ドイツの例であるが、宛名有メールについては新規参入会社合計でもシェアは1%に満たない。新規参入会社が活動しているのは主として宛名の無いメール(un-addressed mail)の領域であり、もともとこの分野に限定た参入が認められた事から、この分野で大きなシェアを有している。この宛名無しメールが全体の通数に大きく寄与している。ちなみに宛名有りメールのCAGRは+3.1%、宛名無しメールのCAGRは+2.7%である。NPOがまだ宛名有りメール市場の大部分を占有しているが、新規参入企業各社は、この分野に対しインフラを整備しながらこの市場侵食を目指しているのが現状といえる。なお、これら新規企業は今後数年5%以上の成長が予想されている。

日本においては郵便信書の扱い、住所変更サービス、個人情報保護等、欧米と比較して各種の相違点があり、海外の成功例をそのまま導入する事は困難である。しかしダイレクト化の動きは既に開始されている。広告費推移に現れているようマス広告の影響力の低下、これに対応した代理店組織体制の再編等、動きが活発である。今後留意すべき点として、DMに関する前記DMAの指摘、広告メールやフルフィルメントの成長等が広告キャンペーンの費用・効果等、全体の管理や具体的な制作内容(レイアウト、コピー)等に与える影響であろう。

以上

(2008年4月 文責 松縄正彦)


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