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21世紀の出版は見えたか?

DTPをベースとした出版印刷の最大のコンベンションであるSEYBOLD SFが、8月30日から9月3日までサンフランシスコで開かれた。今回のメインテーマは「21世紀の出版」とあるが、実際は3月のBOSTON会議と同等のセッションが並んでおり、21世紀の出版に焦点があたっていたようには思えなかった。幾分ブツブツ言いたいこともあるが、それは後回しにして、浮かび上がってきた今日的な課題を中心にまとめてみたい。

とはいいつつ、この間のSEYBOLD側の変化を先に説明すると、長年PublishというDTP月刊誌をやってきたGene GableがVicePresidentとして居座って、よりユーザ会議的な雰囲気になっている。これはJohnathan Seyboldが居た時の技術開発側にインパクトを与える要素は非常に少なくなってきている。セッションも「ウチはこうやっています」的なものが主体である。

ただ昨年くらいからWEB以外の分野でモデレータの中心になったThad Mcllroyは熱心で分かりやすい人で、会議の構成上もまとめ役を果たしていることは評価できる。いわゆる「いい人」タイプであるが、visionaryというには小物で、新しい視点の切り口がないからテーマが前回と同じようになってしまうのだろう。

では新しい切り口でキーノートを中心にまとめてみると、だいたい3つの大きいテーマがあったように思う。残念ながらクロージングには出ていないので、主催者側の見解と異なるかもしれないが、21世紀という視点でみると、1)本の電子化、2)XMLが目前、3)印刷のeBusiness化である。

本の電子化

まずMicrosoftのDick Bassが8月30日のキーノートでeBookとその将来展望を話した。PC上で動くMicrosoftReaderというベータの発表に合わせたものだが、人類と文字の歴史から始まって、印刷の歴史、過去の電子本の取り組みの話があり、近くは紙の百科事典の落ち込みと対照にCD-ROM百科事典の伸びを示し、2008年には紙の本よりもeBookのタイトルの方が多くなるだろう....という調子でさらに図に乗って本の電子化を話した。

電子本の普及に関する話である後半は馬鹿げたもので、過去20年間に電子本が話題になるたびに繰り返された底の浅い「矮小なプレゼン」であったが、100%のダボラではなく今日のPC技術が文字を読む装置として熟しつつあるという「大きな問題」を示していた。Microsoftが関わるのは文字をディスプレイにきれいに表示するClearTypeという技術と、人が本を読むときに、辞書を引いたり、付箋をつけたり、アンダライン引いたりなど作業をするのを、OSの延長的な考えでソフト/コンテンツに関わらずできるようにする点であろう。

これだけだと紙と比較するところまで行くものではなく壮大な馬鹿話のようであるが、9月1日にAdobeのCharles GechkeがPDFをベースに電子本の取引の仕組みに言及したWebBuyの話や、同日にVoygerの経験を経たRobert Stainが著者側からストレスなく電子本のオーサリングができ、読者側も本を使いやすくする電子的な仕組みの話があり、また9月2日にはFatbrainという会社が著者のself-publishingを可能にする無人EC的書籍流通機構の紹介をするなど、電子本には多くの取り組みが見られ、一挙に現実味が増した。

著作物の権利保護という点でも、Microsoft、Adobe、Xeroxなどが提案をしているし、本を読む専用のnotePCのようなものも、SoftBook他2種ほど出ている。これらはどれも、それだけでは成り立ちそうもないという点では電子本の急速な展開はなさそうだが、電子本を巡ってこれほど多面的にいろいろなことが検討されるようになったのは始めてであり、各社のベクトルが合えばWEBとは機能の異なった新しい電子本という分野が一挙に活性化するかもしれない。

詳細は別記事にするが、今回ビジネスモデルができたと考えるのは早計で、議論のきっかけができたくらいに思わなければならない。話すべきことは非常に多くある。

XMLが目前

AdobeのInDesignが発売になったものの、意外にページレイアウトの話は盛り上がらず、まるで過去の技術であるかのように冷静である。それはクライアントの要求がそういうところにあるのではなく、WEB対応を迫られているという現実からきているのだろう。具体的にはXMLとAssetManagementが頻繁に出てくるテーマとなっている。

XMLではPDFがどういう対応をするのか注目をしていたが、実際にはQuarkがAvenue.quarkというXML書き出しのXTentionを発表を行い、XML対応ではAdobeよりも一歩先を行く形となった。9月1日のキーノートでQuarkのTimGillが発表したのだが、来春出荷予定で99ドルから199ドルの間に値段になるだろうという安いもので、操作もテキストボックスから非常に単純なdrug&dropでXMLを作るものである。来年の(?)Xpress5.0からは標準でついてくる機能となる。

またQuarkはXMLの活用についてVignettのStoryServerと提携して、ダイナミックWEB(データベースにアクセスしてダイナミックにhtmlを送り出す)サーバでの利用をデモした。別に書き出したXMLを扱うのは何であってもよいのだが、大きい出版社でも使用に耐えるものであることと、すぐ使えそうなことを見せたかったのだろう。

大半の出版制作に使われているQuarkがXML対応することの意味は重大である。ちょうどPDF化がDTP作業をする際のオマケのサービスになったように、XML書き出しも当たり前に行われる日はすぐそこに来ているのではないのだろうか。すでにブラウザの方はIE5.0がタダで手に入るし、コンテンツと読者の側はこれで揃うことになる。

あとはコンテンツをWEBアクセスに応じて送り出す仕組みさえあればよい。これは従来のWEBサーバのような軽いものではダメで、StoryServerあたりなら構築に2〜3000万円ほどかかるだろうといわれている。つまり、PDFやXMLを吐き出すまでならDTPの延長でできるが、コンテンツを自動的にハンドリングする段階になると、とたんにDTPとは比較にならない壁ができることになる。

AssetManagementという点でもXMLは鍵になると思われる。今は非常に多くの雑多なAssetManagementのシステムが出ていて互換性が欠けるが、これは通信でのやり取り及びメタデータの持ち方について標準化の方向にいくであろう。しかもひょとすると非常に急速に。なぜならすでにXMLがあるからである。

SeyboldではAssetManagementについて焦点が絞れていない。今回ではワークフローの話と、WEB対応の話と、校正の話と、アーカイブやXML書き出しの話がAssetManagementの話とは別々に語られているからであるが、これらはすべて一続きの話であり、このトータルなコンセプトを出版側、印刷側、ベンダ側が共有しなければならないのが今日差し迫った問題であると思う。

印刷のeBusiness化

顧客の机の上にはパソコンがあり、また印刷側もパソコンやLANは普及しているものの、両者がつながって連携して効率的に仕事を進められるようになっている例はまだ非常に少ない。PAGE98ではMils DavisにeBusinessへのチャレンジを、PAGE99ではBANTAにその事例を話してもらったが、Seyboldも今回はずいぶんBANTAの出番が多くなってきた。つまりSeyboldはこのテーマにそれほで積極的なわけではなかったが、状況は大きく変わりつつある。

9月2日のキーノートでAndy TributeはMicrosoftのBillGatesが最近出した本を紹介しながら、WEB/インターネットのビジネスでの重要性を説いて、BillGatesから学ぼうと締めくくったが、これは全くトボけた話で、そんな話はすでに毎日のように聞いている。問題はどうやって印刷業界がそこに至るのかというアプローチ方法である。

それはMils DavisのデジタルロードマップのようにすでにStudyも実践も進んでいるのである。その良い例がBANTAなのである。しかしBANTAのようなシステム開発の部隊をかかえたところしか顧客とのeBusinessができないとなると、印刷業界のうちいったい何社が対応できるのかというのが最大の疑問であった。

そこはよくしたもので、ビジネス環境の変化が急であるところに「ビジネスチャンス」を見つける人がいて、オンラインでの受注や制作進行のためのツールを販売するところやサポートサービスをする新興ベンダが次々と現れつつある。またベテラン組もMediaBankなどを商品に持つInsoもeBusinessテクノロジというディビジョンをちゃっかり作っている。

振り返って考えるとDTPはJohnathanSeyboldの「第4の波」宣言とともに進撃してきた。それは大体は当たっていたが、DTPの成熟の前にネットワークという別の要素がかぶさって「成就」はしなかった。もし今JohnathanSeyboldがこの会議にいたならば、きっと「第5の波」を定義して、参加者に指針を与えてくれたかもしれないなと思うと、ちょっぴり残念な気持ちである。

個々のトピックスについては順次記事を掲載していく予定である。またT&G研究会のミーティングとして、9月21日(火)14:00からJAGATで報告会を行う予定である。(小笠原治)

1999/09/07 00:00:00


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