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浮上するeBooks

商業出版の電子本全体をeBookと呼ぶようになっており、今年末から来年頭に発表が相次ぐようで動きが急になっている。電子本はフロッピーの登場からあった。AppleのPowerBookができた時にVoyagerはHyperCardを使って不思議の国のAliceやJurassicParkをだしている。WEBが使われ出すとProjectGutenbergで古典が電子化された。PalmPilotの普及にはPeanutPressという電子本ソフトが出た。Windows用にはGlassBook(ガラスの本!)というのがあった。これらがeBook前史であろう。

今日はeBookの新時代と呼ぶのにふさわしい環境が整って、新しい段階に入りつつある。まず流通では、Amazon.comがポピュラーになったように、オンラインブックストアというビジネスモデルが定着した。また編集制作面では、パソコンの普及で印刷製本部分を除くと低コストで制作でき、出版機会が増えてコンテンツの多彩化がみられる。WEBで莫大な情報が流れているように、電子オーサリングは定着したといえる。

本を利用する側は、オンデマンドでプリントすることも始まった。これは学校や顧客サービスのカスタマイズ利用などがよく語られるが、オンデマンド利用が進めば紙にプリントするのではなく、オンデマンドの電子データを直接授受するようなことも起こるかもしれない。

またWEBで「サーフィン」というのがはやったように、生活のスタイルとしての「エレクトロニックリーディング」というのができると考える人もいる。電子的なアノテーションや辞書ひき、メモへの転記など、学習法の変化も工夫されている。

近年はeBookの専用機の開発が再び起こっている。NuvoMediaはRocketBookというペーパーバック風の$499の端末を出している。SoftBookPressはハードカバーサイズの端末で$299のものを出す。Everybookはハードカバーサイズ見開きの450dpiカラー液晶で$1600のものを出す。前2者はHTMLデータでWEBのように、EverybookはPDFによって紙に近い表現をする。これらはそれぞれ狙う分野が異なり、コンテンツは従来の出版者に依存する。

出版側に気を使って、それぞれ独特のコピープロテクトや印刷禁止機能をもたせている。しかし出版社側は個別の装置にそれぞれ対応するのは大変なので、Open eBookという装置に依存しないフォーマットの開発を期待している。これは昨年から作業が始まりバージョン1.0が出た。一般的なHTMLやXMLで記述され、仕様はpublic domainにして一切ライセンス料なしとなる。この規格にはマイクロソフトも熱心にかかわっている。

マイクロソフトのeBookの取り組み

マイクロソフトはインターネットで紙の本を買う矛盾に着目したと考えられる。今のPCは本を読むには不向きな表示であるので、ここを何とかすれば何億台ものPCがeBook端末になるMicrosoftReaderはWindows各OS用のソフトで、本や長文をPCで読むためのものとして2000年頭に発売される。

これは昨年発表されたClearTypeを実装した初の商品で、フォントの見た目も、組版も300dpiのプリンタ並(?)になる。ClearTypeはコロンブスの卵のようなもので、RGBのサブピクセルをコントロールして、黒い字を2〜3倍の解像度で表示する。ラテン文字は横に読むので、表示装置がRGBの縦ストライプになっているとリーダビリティが向上するという。縦ストライプ以外の表示制御法も今後対応する予定という。

読むツールとしてのReaderは、コンテンツから離れて、共通の操作性で、マーキング、辞書ひき、複数タイトルをまとめて処理するライブラリ機能がある。コンテンツはOpen eBookのHTML/XMLで記述し、誰でも参入できる。

Microsoftの立場は、コンテンツや用途にとらわれないスタンスで、共通の文字ディスプレイ技術ClearTypeを提供し、人が本を読む時に必要なことをOSの延長的な考えで取り組むことだろう。コピー防止技術はいつも質問がでるが、マイクロソフトの興味は薄いようで、触れてはいるが、技術的な締め付けはない。

またAdobeのPDFとは相当ぶつかるもので、PDFは印刷用で画面用ではないと牽制している。マイクロソフトがPDFのReaderをOSに入れないのはなぜだろうか? MacはOSXでPDF技術を入れる予定であるのとは対照的である。

Adobeはまだ準備が整わず

今回のSeyboldではAdobeのCharles GechkeがPDFをベースに電子本の取引の仕組みWebBuyに言及したが、準備不足で臨んだ感がある。PDFの実績として、紙と同じレベルになるとか、PostScriptモデルのハイレベルのカラーやイラストの再現、小容量ファイル、目次索引という本の構造を再現、クロスプラットフォーム、コピー防止機構、すでに1億のAcrobatReaderがあることなどを訴えていた。

Gechkeのプレゼンでの新しい点は、PDFのeBookをインターネットでダウンロード購入するためのWebBuyであり、PDF作成時にファイルレベルで暗号化し、AcrobatReaderのプラグインで鍵を開けて中身を見ることになる。これを自動化してサーバベースの暗号化など電子本を売る仕組みの提供をパートナーとともに開発しており、PDF Merchantの採用を呼びかけている。Everybookその他と提携している。

PDFに鍵をかけるプラグインはサードパーティから出ていたが、これはAdobe本家が出すものであり、ユニバーサルに使える仕組みとなろう。XeroxにもContentGuardというPARCで開発された技術があり、すでに歌詞を扱うSongfile.comなど大きなクライアントで動いている。AdobeはXeroxとも提携するという。

Xeroxは2003年にオンライン出版は倍増し、出版社の利益の40%はオンラインからになるだろうとして、出版社の要求と大衆の要求に応える、少ない制約の仕組みを作った。ContentGuardPublisherはどんな電子ドキュメントでも暗号化したSPDにして送り出すもので、使う人はクライアントソフトなしで自己解凍する。ContentGuardMarketplaceはECのサーバで、購買時にユーザごとカスタマイズをする。ContentGuardRightServerはユーザ認証や追跡をする。これとPDF Merchantとの関係まだはっきりしない。

AdobeはPDFの実績はあるものの、XMLへの対応を表明していないことはコンテンツをXML化したい出版社などと連携し難くなるのではないかと気掛かりである。

21世紀の出版は見えたか?

1999/09/28 00:00:00


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