ホスピタリティという言葉が一般化し随分と経つが、この用語はホテル、旅館、飲食業界を中心とした対人接客型産業の中で用いられていることがまだ多い。
ホスピタリティの語源はホスピス、即ち末期医療施設での患者への対応、というところから来ているが、これを日本語に置き換えると「もてなし」となる。
もてなしとは「持て成し」。それは「もって(その人と)成す」で、その人のアイデンティティに対応すること、即ちその人のアイデンティティを満たしてあげること、を指す。
主が客を迎えるにあたって、その客の人格に合わせた迎え入れ方をすると同時に、客はその主のルールに合わせるよう努めることで、「快適に過ごす時間」が約束されるのである。
そのためには、迎える側が誰を顧客に迎え入れるかに関して明確な理念、哲学を持っていなくてはならない。単純にかつ短期的に利潤を高めるためだけの方策として、既存のやり方の上に「もてなし」を簡単にはリつけるようなことはできないのである。
このホスピタリティの考え方は、これまでメディアビジネスの中ではほとんど語られてこなかった。これまでのメディアはそのほとんどが「顧客の顔が見えない」マスメディアで、「個人」ではなく「大衆」に向けて一方的に情報が送られていたからである。
ところがIT−インターネットにより「顧客の顔の見える」ワン・トゥ・ワン・メディアが数多く登場してきた。このメディアは対人接客型でもあり、当然「もてなし」が用いられる場なのである。
しかし、これらワン・トゥ・ワン・メディアの多くは、顧客の「顔」をはっきりと見るための顧客情報を吸い取るさまざまな仕組みを用意してはいるものの、自分の「顔」をはっきりとは見せていない。(今でこそ数は減ったが、数年前には運営者の実態すら表示していない「匿名」のWebサービスさえ多々あった)。
そこにはホスピタリティ意識が見当たらず、単に営業収益拡大の為のマーケティング用語として、ただCS、CRMなどなどの言葉が表層的に用いられているに過ぎないのである。
これらをロングレンジで、本当の意味で顧客満足を高めながら効果的に運用していくためにも、その底に「理念の中に落とし込まれたホスピタリティ意識」がなければなせることではない。ホスピタリティが企業理念とつながり、すべてが矛盾なく明快な形でみせられるようになって、はじめて企業のブランド、顧客信用度が形成されていくのである。
そのためには会社の隅々にまで理念が浸透しなければならない。
そして、外部と接する機会のない企業はない。すべての企業にホスピタリティ意識は大なり小なり必要なのである。
「この指とまれ!」というWebサービスがある。これは利用者に無料で開放している同窓会メディアで現在登録会員が約250万人いる。
主な収益をこのサイトの設計、運用ノウハウを元にしたシステム開発に求め、早稲田大学の校友会サイトの開発などを手がけるベンチャー企業・株式会社ゆびとまが運営している。
使い方、FAQ、セキュリティポリシーをはじめサイトの至る所に書かれた「言葉」は、平易な表現で、このサイト、サービスの姿勢を見事に表現し、訪れたユーザーは、このサイトの内容を積極的に理解したくなる。そして「このサービスを積極的にしかも安心して楽しみたい良いお客」にしてしまう。
例えばこういう一文が掲載されている。
「お集まりいただいた方々どうしが、お互いの旧交を温め、ともに語らい、懐かしみ、ともに有意義な人生を歩んでいくために少しでもお役に立ちたいとの願いを込めて、このウェブサイトを開設運用しています。
そのために、多少面倒な手続きとルールを守っていただく必要がありますが、それはみな、社会一般のそれとなんら変わることはありません。
ご利用に当たりましては、当サイトの使用方法等を必ず参照していただき、十二分に理解し、納得したうえでご利用ください。
あなたにも、同窓の皆様との心温まる交流がありますように」
対人接客と同じ質感のあたたかみと配慮がみなぎっているのであり、ユーザーは「共にこの場を創る」ことに喜びを見出すことになる。それはホスピタリティの考え方が、このサイトに植え込まれているからできたことである。
ユーザビリティに富んだ「サイトデザイン」、手動とオートを使い分けたインタラクティブな仕組み、そしてワン・トゥ・ワン・マーケティングの導入……。それらの前提にこのことを含みこんでおきたい。
Webサイトはフェイス・トゥ・フェイスの世界ではない。読むことだけを目的とした紙の世界でもない。そういう環境で理念、哲学をユーザーと共有することは並大抵のことではない。それに成功した代表例であると同時に、最初期の事例がこの「ゆびとま」なのである。
ここは、オープンから既に7年が経った今でも、いわゆる「荒らし」の被害にあったことがないという。これは現在のWebの社会環境から言えば奇跡に近いだろう。
また、ボランティアとして運営に参加しているユーザーが1200人以上いるという。
それを納得させるだけのものが、ここにある。
そして、ホスピタリティ意識を「理念に含みこみ」顧客の側に立ち、顧客と共にメディアを創ることをモデルの中に自然に織り込んだ成功事例が、まだいくつかある。
◆JAGATでは、来る7月16日(水)、シンポジウム「顧客の顔が見えるメディア――顧客との関係で進化をはじめたメディアとビジネス」を開催します。
(注)会場が変更になりましたのでご注意ください。
⇒会場:社団法人日本印刷技術協会(東京都杉並区和田1-29-11 TEL03-3384-3111)
会場地図はこちら
「顧客の側に立ち」「顧客と共に創る」ことをモデルの中に自然に織り込んだ4つの事業、
●iMiネット(マーケティング・メディア)
●OKWeb(QAメディア)
●みんなの書店(参加型書店)
●ぱど(地域密着型フリーペーパー)
その代表者の方々による講演と、最後のパネルディスカッションではワン・トゥ・ワン・マーケティングの第一人者である和田昌樹氏をモデレータにお迎えして、顧客の関係で進化をはじめたメディアの方向性を考えていきます。
皆様のお越しをお待ちしています。
2003/06/26 00:00:00