インターネットやWebが急速に普及し,XMLもさまざまな分野で導入が進んでいる。印刷業界では,SGMLの後継といった電子ドキュメントの新フォーマットとして扱われる場合もあるが,実際にはきわめて広い分野で利用されている。すなわち,電子取引や電子行政など,Webをベースにした新たな取引形態や情報交換の際もXMLによって実現するといった,ドキュメントの側面に留まらないものも考えられる。本稿では,印刷会社から見たXMLを取り巻く動向について整理し,今後印刷会社が取り組むべきXMLパブリッシングについて考察する。
インターネット・XMLの広がりと,印刷物への影響
特許庁が出版している特許公報は,電子出願・電子閲覧という時代の流れで,徐々に印刷物を減らしている。特許庁では,2004年にはすべての特許情報をXML化するとしている。ドキュメントのXML化によって,電子出願・電子閲覧が可能になり,結果的に印刷物が減っていく,というのが現時点での事実である。印刷の世界がWebやインターネットによって大変な影響を受けている。
全般に,マニュアル・金融・カタログなどは更新が頻繁で,リアルタイム性が必要であり,紙に出すよりWebから直接データベースを参照したほうが効率が良いと言える。
新聞・雑誌・書籍は,影響は受けるがそれほど極端ではなく,徐々に印刷物は減っていくと考えられる。新聞は当面は紙とWebが使い分けられるだろう。Webは即時性が必要なニュースを見たい時や,移動中にPDAなどで見たい時に使われる。しかし,既存の新聞も気軽に持ち運びできるという長所が評価されて残るとも考えられる。
書籍は気軽に持ち運びできる長所があり,一方,電子書籍は検索性が高いので,それぞれ環境と状況に応じて使い分けられると考えられる。
標準化の必要性と動向
XMLは非常に多岐な分野で標準化が進められており,標準化によって実用化の度合いが左右されることになる。その理由は,独自フォーマットで作成されたコンテンツでは,そのコンテンツを配信された相手や利用者にとって,個別のコンテンツごとに特別なアプリケーションを準備しなければならない。また,電子化されたコンテンツの記載内容が標準化されていなければ,収集した情報を比較,検討することができないといったことによる。
例えば,企業は損益計算書や貸借対照表などを含む有価証券報告書を,毎年金融庁に提出することを義務づけられている。従来は紙の報告書を提出していたが,2004年にはすべて電子化することになっている。この電子化情報が標準フォーマットに則っていなければ,受け取る金融庁も困るし,その情報を閲覧する機関投資家や個人株主も困る。そこで,金融庁は,98年ごろから標準を決める検討を行い,とりあえずHTMLでの標準が決められた。これは,いずれ世界的規模でのディスクロージャーの動きから,XML規格に基づく米国のビジネスレポート規格XBRLと関係してくることになるだろう。
通信社・新聞社では,XMLに基づくニュース配信標準として,日本新聞協会がNewsMLの採用を決めている。NewsMLは元々が国際新聞電気通信評議会 (IPTC)によって制定された配信フォーマットの標準で,大手新聞社も,共同通信社もNewsMLに則ってコンテンツを扱うことが決定している。新聞社には,APやUPなどの海外通信社から,海外ニュースや写真の配信を受けている。海外通信社がNewsMLの規格で配信してくることになったため,共同通信もNewsMLに則って各新聞社に配信することになった。従って,配信を受ける大手をはじめ地方の新聞社もNewsML対応を迫られている。このように,各業界での標準化が,XMLの実用化を進展させる要因となっている。
印刷業界でのXMLパブリッシングへの取り組み
印刷業界でXMLパブリッシングに取り組む方向をいくつか紹介する。以前から,組版レイアウトシステムのベンダーでは,XMLデータベースから高品位な組版を行うソリューションを開発し,提供している。
ページコンプのXML自動組版サーバは,XML文書データを受け取って自動組版を行い,結果をPDFデータやPostScriptデータとして出力する。入出力にはホットフォルダとなっている。例えば,クライアントからの制作要求に対し,Webサーバを介して自動組版を実行し,出力結果をPDF,またはPostScriptなどのデータで返すシステムを構築できる。また,XMLデータベースとの連携により,クライアントの制作要求から特定のXML文書を検索して取り出し,XSLTスタイルシートを介して印刷以外の多メディアへ展開することも可能である。このシステムを利用して,基幹システムから取り出した商品データをXML形式で管理し,XSLTのスタイルシートによって自動組版し,PDF形式による電子カタログを自動生成したり,電子マニュアルを生成が可能である。必要に応じて,例えばオンデマンド印刷機と連携して印刷物を発行することも可能である。
シンプルプロダクツのXML Automagicでは,ドキュメントを自動組版するために,詳細な組版体裁や処理ルール等をダイアログで対話的に指定して,自動組テンプレートを作成することができる。自動組版の機能には,複数のXMLデータの串刺し検索自動組版,同じ内容のデータはコラムをまとめて処理するなどの自動表組,インデックスの自動抽出,ツメ・脚注の自動発生も可能となっている。
モリサワでは,同社の組版ソフトMC-B2を活用し,XMLデータから組版を行うソリューションを提案している。自動組版を行う際にネックとなっているインデックスや柱の部分,辞書やカラオケの早見表などもある。本文に相当する部分はXMLとしてデータベースに登録し,インデックスやツメにあたるデータを,XMLから抽出し,組版を行うことができる。
製造業におけるXMLパブリッシング
クボタシステム開発では,クボタの農機具のサービスマニュアルをWebベースのeマニュアルとして自動生成するシステムを開発し,製造業のマニュアル向けに製品化している。印刷物では頻繁な改訂が困難でeマニュアルによるタイムリーな情報発信が必要となっていた。XMLデータベース化のために,マニュアル構造を標準化している。また,ユーザはテンプレートに従ってデータ入力をするだけである。完成したXMLデータは,HTMLに変換してWebでも見れるし,FrameMaker経由で印刷物を作っている。
クボタ向けのシステムでは,Web版サービスマニュアルとパーツの発注システムという基幹業務システムが連動しているため,大幅な業務改善(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)が実現されている。
製造業では,サービスのクオリティ向上のためにeマニュアル化が重要である。そのためには,従来,印刷会社に依頼していたコンテンツ管理を,XMLを活用して自社内に持つ必要がある。そして,基幹業務と連動することで大幅な業務改善が実現できる。
また,日立ソフトウェアエンジニアリングでは,マニュアル用のドキュメント管理システム,Enterprize Publisherを製品化している。これは,多国語言語のマニュアル制作に向けて,内容を部品に分けてデータベース化し,さらに部品が日本語と多国語で定義されている。それまで各国語版の内容を別々に編集・レイアウトしていたが,大幅な効率化が可能になったとのことである。
新聞業界向けの取組み
イーストでは,NewsMLとインターネットを使った新聞記事の入稿・編集・検索システムであるNewsBOXを構築し,ASPサービスをおこなっている。インターネット対応なので,Webブラウザとインターネット環境があれば,世界中のどこからでも記事入稿・編集ができる。完成した記事は,XMLまたはテキスト形式で取りだし,既存のDTPシステムに渡すことになる。NewsML以外のXMLスキーマへの対応も小規模のカスタマイズで実現できる。このシステムは既に日本食糧新聞社にて稼動している。
この検索エンジンはXML Webサービス(SOAP)にも対応しており,Web上での機能拡張も容易である。
電子カタログ向けの取組み
Web,インターネットの時代になり,メーカーや流通業においても,印刷したカタログに対してより,電子カタログの重要性が意識されている。従って,メーカーや流通業では,印刷物を作ったときの整理された商品情報を,ほかの媒体でも使いたいと考えるようになってきた。
凸版印刷では,メーカー,流通業向けに商品情報データベースシステムGAMEDIOSを販売している。このデータベースから,データを取りだし電子商取引で使う,顧客に情報を発信するためにWebで使う,パッケージにしてCDにして渡す,プリントアウトするという展開を行っている。インターフェイス部分は,XMLとなっており,今後は中身もXMLに変えていく予定とのことである。
クライアントであるメーカーや流通業において,従来,商品情報はメインフレームやオフコンで管理していたので,画像の扱いは不得手であった。また,経理勘定系で在庫や販売情報が入っているだけで,印刷物に必要な画像やテキストといった素材は含まれていなかった。しかし,今は画像系の管理も含めて,商品情報として管理したいと考えている。印刷会社では,カタログ制作に必要な素材としての写真・テキストロゴのデータが必要だった。一方でクライアント側では商品として在庫や販売情報が必要になる。素材として,商品としての,両方の切り口でデータが持てなければならない。電子商取引やeコマースへの動きも進展しており,これらに対応するには,このデータベースの商品情報をXMLで取り出すことが必要になっている。
印刷会社の役割:コンテンツインテグレータ
ここまで見てきたように,さまざまな分野でXMLパブリッシングが必要とされている。情報伝達手段としては,各種メディアが混在する中で,クライアントのコンテンツを,どう維持管理していくかが重要である。
印刷会社は普段からマニュアル,カタログ,チラシ,法規・法令集,辞書・辞典類,書籍,雑誌,自治体広報,自治体の各種申請書や電子帳票化などに関与している。これらに共通するキーワードは,XMLをベースにしたコンテンツ管理である。クライアントのコンテンツを預かり,保管し,いつでも取り出すことができるとともに,多種の用途に使い回しできる状況にしておくことが必要である。XML技術を駆使して,コンテンツを同一のデータベースから使い回すことが,クライアントにとっても印刷会社にとってもコストを下げ,スピードを保つ最大のポイントとなる。
そのためには,XMLパブリッシングとコンテンツ管理の環境整備と人材を整備することが,重要な課題と言えるだろう。
Webとネットワークによって,ビジネスプロセスがどんどん変わっている。製造業ではSCMやCRMなど,データによる情報交換や情報共有によってビジネスプロセスを早め,新しい製品をできるだけ早く安く作りたいという動きがある。このような動きに,即時に対応できる力を持つことが必要である。
印刷会社は,コンテンツインテグレータとして,素材管理,レイアウト管理,履歴管理,ツール管理,インフラ管理などを担うことが重要になる。それができれば,印刷会社の役割はより重要になってくるし,できなければ取り残されていくのではないだろうか。
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2003/08/01 00:00:00