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電子出版から,電子書籍へ

1980年代から電子出版が騒がれた。日本では,1990年にソニーから「電子ブック」という8cmのCD-ROMが発売された。その頃は家電メーカーを中心としたハード面の参入が始まったが,その後に立ち上がったパソコンのマルチメディア,またインターネットという言葉にかき消されるように電子出版の旗印はトーンダウンしていった。

近年,再び目にするようになった「電子書籍」の起源は,1993年に米アドビシステムズ社がAdobe Acrobat1.0とともに発表したPDF技術の登場にさかのぼる。これはそれまでの日本語ワープロ以下の表現でしかなかった画面に対して,印刷物の本と同じ見栄えをもたらす技術であった。
PDFは成功した技術とはいえるが,電子出版を支配する技術とはならなかった。欧米では読書専用端末を使った「eBook」の時代があって,それら様々なデバイスでPDFの取組みがなされ,活発化の動きもあったが,結局,具体的なビジネスモデルが示せないまま潰れてしまった。

第一次専用読書端末の時代は,技術の未熟さと規格の統一性も弱く,具体的なビジネスモデルを示せないまま,毎年のようにあれやこれや登場して,「eブック新時代到来」と言われたものの,おおきなうねりは起こせなかったので,電子書籍業界が「狼と少年」の世界だと捉えられても無理はない。

しかしここで,改めて電子書籍を注目するに値するいくつかの出来事がある。
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第1に,日本にお金が流れ込むビジネスを作った携帯電話加入の急速かつ莫大な普及である。2003年世界の携帯電話加入数は,10億6900万人,2004年の予測は約14億人,2007年は20億人である(米In-Stat/MRD調査)。
さらに,2003年のデジタルコンテンツ市場規模は2兆2783億円であり,そのうち携帯電話向け市場は2170億円(前年比23.5%増)である。
代表的なコンテンツとして着メロ,待ち受け画面,天気予報,乗換案内が挙げられるが,特筆すべきはショートストーリーである。新潮社が運営する「新潮ケータイ文庫」は,月額100〜200円で,人気作家の書き下ろしが読める小説配信サービスである。現在2万人の読者を有し,毎月1000人ペースで増加しているという。さらに面白いことに,ユーザのアクセスは真夜中に増加する現象を生じ,「携帯文庫は真夜中に読む」スタイルを確立しつつある(横山三四郎著『ブック革命』より)。
まず文庫本のような分野で,ケータイ読書という用途を得た。

第2に,10月16日に電子書籍ビジネスコンソーシアムが設立されたことにより,メーカー,出版社,印刷,取次,書店,作家それぞれの立場から検討し,コンセンサスが得られる場ができた。これにより読書端末のフォーマット統一,サービス開発の検討が進められていくだろう。

第3に,松下電器産業の「ΣBook」や東芝の「SD-book」のような見開き読書端末の登場は,うまく話題のコンテンツとリンクすれば電子書籍がユーザーに普及するためのブレイクスルーになる可能性がある。

第4に,出版不況によって多くの出版社が新しいビジネスモデルを本気で考える機運ができた。電子デバイスを売る側としても,電子書籍オンラインサイトやコンテンツの充実はデバイスビジネス立ち上げの近道として見ているだろう。

このように実現技術開発に遅れをとっていた用途開発がようやく追いついたことで,これまで,何度も浮上しては消えて行った電子書籍ビジネスは,解がなかったのではなく,産みの苦しみだったと考えられる。
かつては電子デバイスの特徴を引き出そうとして曖昧な電子出版になったのと反対に,紙媒体を模した形でコンセプトを明確にしたのが電子書籍といえるのだろう。確かに周りを見回せば,電子書籍ビジネススタートのための要素,環境は整っており,「電子書籍元年」と言える。

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2003/10/17 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会