大手製造業のEDI化は進み、資材の調達にECを使ってサプライチェーンマネジメントをすることが当たり前になりつつあるが、印刷など中小企業を中心とした製造兼サービス業のECはむしろ絶望的に盛り下がっていった時代があった。印刷のECも、価格のオークションや、売り手・買い手のマッチングで成約高の一部をマージンとしてとるなど、印刷ブローカー的なものは成長してこなかった。
大手企業のECと印刷のECとは根本的にいくつかの点で異なっていることがわかりだした。大企業のように経営の路線とそれにあわせたシミュレーションがしっかりできているところと、流動的な取引環境の中で舵取りをしなければならない中小企業では、取引において同じような要素を検討しなければならないとしても、その優先順位は異なる。
また印刷はモノの売り買いという面よりもサービスの質が問われる要素が強く、たとえ単価を安く設定して仕事を取ったとしても、価格に見合ったサービスで顧客が納得せずに、結局サービスの質は落とせなくなって、2度とその値段では仕事をしたくないことになり、売り手と買い手の関係は切れてしまう。だから印刷のECサイトは大手企業の資材調達のようなオークションやマッチングの機能だけではやっていけないのである。
うまくいかないB2BのECサイトの特徴は、そこに連なる業者が成長していかないものであるし、逆にECサイトがうまくいっている証拠は、加盟業者が単に取扱高を増やしていくだけではなく、より優れたサービスを提供できるように成長しているところに見ることができる。楽天ビジネスの方から聞いたが、B2Bの仕組みに出展する際に、ECを自動販売機のように考えている人はうまくいかないで、やはり見えない相手に対して営業努力をするところが伸びるそうである。だからよい中小企業向けB2BのECサイトとは、参画した会社のプロモーションをいかにサポートできるかにかかっている。そう考えると、加盟料とりっぱなし、マージン取りっぱなしのECから人が去っていくのは当然である。
ECサイトが取引の仲介になるということは、顧客のニーズも、提供されるサービスの評価も、そこに情報が蓄積されることになり、そこから効率的にビジネスをするためのヒントが得られるようになる。だからECサイトというのはビジネスコンサルタントの活躍する場所としてもおもしろい。そこで得られたフレッシュな成功例から、参画している他の会社にアドバイスや提案をしてあげることができる。こういうECモデルは実は以前からあったのであるが、最近やっと日本でも注目されるようになってきた。
コンサルタント型のECは、とりわけ今までB2Bでの扱いが難しかったサービス業のECには向いている。冒頭の印刷の単価以外のサービス要素を、売り買いの両者がオンラインで確認するのはITの仕組みとしては難しいが、ネットワークでリアルタイムのネゴシエーションが自由に行えるようになっているので、何についてどのようにネゴシエーションするかの手続きを明らかにすれば、ある程度できるようになる。一番単純なのはデザインのコンペとか、提案書などである。
これを調達側から見るならば、クリエイティブな仕事も含めて、自分の仕事の困った点のソリューションを見つける場が、こういったコンサルタント型ECサイトであるといえる。実はすでにECで行われているさまざまなビジネスサポートサービスのうちで、印刷の占める比重は結構高く、しかも印刷会社の中には他業種よりもECで伸び率が高いところがあるほどだ。「印刷ECは伸びない」というのは誤解で、それは失敗したECモデルしか見ていないからである。
リアルビジネスであれECであれ、信頼を確立できるところにビジネスが成長するのであって、ECによって面識がなくても信頼を厚くする仕掛けとは何かを問い直さなければならない。その先に印刷ECの本番が始まるだろう。PAGE2004の【D6】印刷ECの本番に備えてセッションでは、 ネットワーク上の取り引きで大躍進した楽天と、そのB2Bである楽天ビジネスにおける出展会社の例、また今ECの課題として、技術やモデルよりも実際に必要とされるB2Bの実行力が何かを問う。
2004/01/19 00:00:00