業務〜会社〜顧客の関係力を強化するWeb上での「情報・知識共有」の仕組み作りとその必要性を探った「ドキュメントからナレッジシステムへ」(PAGE2004クロスメディアトラック【C4】)では、
オーケイウェブ 代表取締役社長 兼元謙任氏
日本航空 旅客事業マーケティング企画室 小野陽弘氏
野村総合研究所 システムコンサルティング事業本部 上席研究員 山崎秀夫氏
をスピーカーにお招きして、パネルディスカッションを行なった。
生産〜流通の既存の仕組みと、市場・顧客の欲求がマッチングしなくなり、顧客の立場に立った生産〜流通の仕組みを構築し直す時期に差し掛かっている。そこにはクロスメディアの仕組みが求められる、――という前提がまずあった。
その前提の元、そもそもこのセッションを企画した問題意識として、リストラによる経営のスリム化により、業務に人的にも時間的にも余裕がなくなってきている。しかし一方でITによる技術革新は進み、ビジネスプロセス、ビジネスモデルが変革している中、「整理されない疑問」が社内、顧客の間に渦巻いているのではないか。疑問がその場その場で解消できないとき、そのちょっとした疑問にすぎないものが、結果としてビジネスチャンスを逃し、ビジネスを潰してしまうことも多々あるのではないか、という仮説があった。
この問題を、自らその必要に迫られて作り上げたOKWebの仕組みを、仮に一つの解決策として、その意義と課題と、そこから広がる可能性について検討することにした。
■オーケイウェブ 代表取締役社長 兼元謙任氏
会員登録をした会員で、解決したい疑問が生じた時、それを「Q」としてサイトに書き込む。それを見た会員で、その答えを知っている人が回答を、「A」として書き込む。この「Q」「A」は誰でも閲覧でき、補足的Aやより正確なAなどがどんどん書き込まれていく。Qを立てた会員は、それらのAを読み、どの回答が自分の問題解決に役立ったかを評価し、また、他のAへも御礼を記入する。そうして会員相互がQ&Aを出し合っていく――「困ったことに、すぐ回答が寄せられる」リアルタイム・コミュニケーション型の、日本最大のFAQポータルである「OKWeb」。
これは、もともとビジネスとしてやっていこうという形で始まったのではなく、制作現場で技術情報、Q&Aをやり取りする必要性から作り上げたもの。「OKWeb」を3年やり、登録者数30万人、質問・回答の総数250万件に至った。
この仕組みのポイントは、会員同士が「教えて-答える」のQAをやり取りするだけでなく、Aをもらった人がT、即ち「thanks(御礼)」をその画面に記すことにより、その「A」の価値がはっきりすると同時に、答える人への動機付けになり、それが繰り返されることで、プロフェッショナルに近づいていく、という流れにある。
またAには、Qに対する具体的解決策として、経験知のみならず、背景情報、関連情報、比較情報、付加情報などなどが、エモーションを伴って伝達されるのである。
この「Q-A-T」のモデル化がOKWebのコンセプトで、2003年11月のユーザー1000名強によるアンケートでは、回答者として参加している比率が44%を占め、問題解決度では、ほぼ解決、解決の糸口を見出せたを併せて97%に達している。
現在、主要ポータルサイトへOEM提供も行なっている。
そして、ここまでやってきたノウハウを具体化するために、「Q&AからFAQを抽出するマネージメント」の手法を確立した。これは米国最大のヘルプデスク認定協会HDIとの提携によるもの。このFAQ Management、Community Managementをベースに、現在国内大手100社以上が導入している。
FAQでは問合せが減少し、コミュニティでは、人材育成、社内共通業務に関するコスト削減、業務変革に結びついている。明らかに、顧客と企業の関係の効率化に役立っている。
このOKWebの仕組み解説を受け、JALのeビジネス戦略の中での導入事例を検証した。
■日本航空 旅客事業マーケティング企画室 小野陽弘氏
JALの顧客ビジネスは、もちろん航空機で顧客を目的地に運ぶのがメインのビジネスだが、その前の予約、申込、発券までの対応も大きい要素。
現在、国内線の全個人旅客数の約40%、国際線の日本販売の全個人旅客数の約10%が「e予約」により搭乗している。
そのJALのeビジネスの大きなキーワードは「セルフサービス」である。そのためには、FAQの整備・充実が大きな比重を占める。
OKWeb導入以前にも、他社のものを入れていた。しかし、なぜOKWebにしたのか、その大きな理由は、運用(作成-承認-公開)のワークフローが非常に機能的。カスタマイズの柔軟性があり、顧客の隠れたニーズを把握できる統計情報が整備されている点、などがあった。導入により、確実に問い合わせ数が減少した。
しかし課題もある。社内で共有しているナレッジを、そのままダイレクトに顧客とは共有できない、という点。また、顧客がより直感的にセルフで問題解決できるような、より直感的なナビゲーションの仕組みを考えていかなければならない。
実はJALサイトの活用法マニュアルをインプレス「出来るシリーズ」編集部に委託して、これまで100万部ほど作っている。eビジネスの中でも、このように、紙の活用法は必ずあると考えている。
そして全体の総括として、産業界全体の中でこれらQ&A型のコミュニティがビジネスプロセスの変革をもたらすその理由について検討した。
■野村総合研究所 システムコンサルティング事業本部 上席研究員 山崎秀夫氏
従来型の日本的経営が終焉を迎え、その結果、これまで居酒屋などで行なわれていたノウハウ、ナレッジの共有ができなくなった現実がある。
直行直帰型のワークスタイル、裁量労働制の定着などにより、業務の中で、人間関係の希薄化が進行している。
それは接触飢餓を生み、新しい社員間コミュニケーションが求められているのである。
これはネット上の販売などでも、「セルフサービス」化により、ヒューマンタッチな触れ合いが不足してきているなか、同時に、ヒューマンタッチなコミュニケーションを可能にする動きがネット上でも出てきた。
・顧客との実際の相談を背景に作成した「FAQ」
・ネット居酒屋とも言える「相談の知識コミュニティ」
・日記や報告を公開する投稿型知識コミュニティである「ブログ」
などである。
商品企画→シェアードサービス→営業、とつながるビジネスプロセスのそれぞれの中で、ビジネスユニット、プロジェクトチームが知識コミュニティを形成する。これは一種のギルドで、このコミュニティで検討されたベスト・プラクティス(最良の実行方法)を業務プロセスに適応する、という形で業務に組み込んでいくことができる。
そしてそこではネット居酒屋として、水平な人間関係による「コミュニティ」「ナレッジの共有」が成り立つのである。
■最後に
そして、3者それぞれ、情報をより的確に理解してもらう手法として「紙(ドキュメント)の活用」は、今後間違いなく継続していく。また、ナレッジコミュニティから生まれたコンテンツを出版するなどの、新しい可能性も出てくるということで一致した。
2004/02/26 00:00:00