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印刷CIM実現への疑問に答える

進度と成果の実態

印刷CIMに関する業界一般の第一の関心は、それがもたらす効果の内容と大きさであろう。少なくとも現時点でどこまでのことが出来ていて、どのような成果が上がっているのかの情報が欲しいところだろうが、去る6月21日に大阪で行なわれたJDFフォーラムジャパン主催の「JDFフォーラムジャパン公開無料セミナー」で紹介された導入事例からは、それぞれの導入内容は異なるものの着実に成果が上がっていることが示された。
今回は、たぶん日本の印刷企業の事例としては初めてと思われるが、大阪の株式会社アーツにおける事例が同社社長のインタビューを交えて紹介された。海外の事例も含めて例示された成果は、生産現場の生産性向上によるコストダウン、納期短縮、あるいはヤレ紙の削減等生産現場におけるものだけでなく、顧客との関係強化や品質、サービス向上による売上への貢献あるいは担当者の責任拡充による管理精度向上など、幅広い範囲に及んでいる。このことは、どのような成果が期待出来るのかというときに大変重要なことである。

従来、βテストのニュースはいろいろ伝えられていたが、ここへきてかなりの具体的事例が紹介され始めたのは、印刷CIMとはプロセスの改善を図ることであり、ステップバイステップで進めるべきもので、それなりの時間が掛かるものであることを示しているのだろう。ドイツの中規模印刷会社の例として紹介された「ステップバイステップ」の具体的な姿は、ステップの各段階で成果を出しながら進めていく例として、当然、日本の印刷企業でも参考になるものである。
CIP4の活動も、初期の大枠設定段階から次第に細かな部分の検討が進められ、今年米国で開催されるPRINT05では、「再版」、「校正」、「直し」、「大貼り」も含むJDFVer1.3 のリリースが予定されている。こちらも、ステップバイステップでの進行ではあるが、着実にあるべき姿に向けて進んでいる。

一挙には出来ないCIMのさまざまな入り口

CIMが、従来、印刷業界の中で経験してきた自動化と大きく異なる点は、MISと生産設備との連携による自動化である。連携とは、MIS側から生産設備のコントロールに必要な情報を流すことと、生産設備側から生産状況・実績に関する情報をMIS側に流すという双方向の情報の交換を指す。しかし、日本の印刷企業の一般的なMISの状況を考えると、MISの再構築には課題が山積みであり、かなりの時間が必要になる。
したがって、MIS側に大きな負担が掛かるような形で生産設備とMISの連携を進めようとすると、明かに合理化が期待できる生産設備であっても導入しにくくなる。そこで、ステップバイステップの第1段階では、MISとの連携は持たせない、あるいはMIS側の負担を軽減した形の情報フローを作って、とりあえず生産設備の合理化効果を引き出すという選択肢も当然必要になる。今回のセミナーでは、製本機械の自動化のためのMISとの連携に関する4つの方向とともに、第一ステップとして推奨されるワークフローが紹介された。

すぐそこまで来たCIM実現の領域

印刷物市場のひとつの大きな特徴は製品仕様の多様性であり、それにともなう製造方法の多様性である。自動化の観点から見ると、要求される後加工の内容によって自動化の難易度も異なる。複雑な製本加工の自動化が難しいという話が、印刷CIMを否定的にいうときの材料として持ち出されるケースも見かけるが、「何もかも」、あるいは「全て完璧に」という100%の拘りによって遅れをとるということは、印刷業界が沢山経験してきたことである。出来るところから、あるいは「客観的に見て」メリットがあれば進めればよいだけのことである。

そのような意味で印刷CIM実現に最も近い位置にあるのがデジタル印刷機を使って印刷、後加工をインラインで行なうことができる印刷物生産であろう。マテハンは、紙の給紙部への搭載程度で、それ以外の版、刷り本の扱いも不要なために生産の流れが途切れることがないし、各部のコントロールと生産実績データの採取も既にデジタルで行なわれているからである。具体的には原稿と作業指示をPDF/JDFデータとして作成してデジタル印刷機を自動運転する。データ作成が印刷物発注側で行なわれるならば営業レスの生産になる。

米国の調査結果によれば、2000年時点で、納期が24時間以内の仕事は全体の29%だが、これが年々増えて2010年には37%になると予想している。このような短納期の仕事や再版物の印刷物、あるいは完全原稿の仕事の流れが営業レスになることは必然であり、印刷がデジタル印刷機で可能なものであれば、チェックのための人の介在はあったとしてもCIMでの生産になっていくことも当然であろう。

JDF対応設備が揃うまでの経過処置

各企業ともに、つい最近入れた機械からそろそろ入れ換えなければならないような古い機械などが混在しているはずである。このような状況のなかで、ある機械のみはJDFワークフローに組み込めるが、他の設備は組み込めないといった場合にどの様に考えるか、ということはすべての企業に共通の問題意識であろう。
この問題も、メリットがあると判断するならばできるところから始めれば良いという、当たり前のことになる。CIP3のインキコントロールでも、印刷機械の全てが対応出来なければ導入しないという印刷会社はなく、新しく導入した機械でメリットを出しその後機械を入れ換えるごとに対応機を増やしていくというやり方で来たはずである。生産機械からの実績データ採取は、POSなり稼働記録計の利用等と組み合わせての対処になる。この面では、詳細に取れるデータをどのように有効に使うのか、あるいはそのためのMIS再構築の検討が必要な印刷会社が圧倒的に多いのではないだろうか。

この問題に関しては、規模がある程度以上になるとより厄介な問題になるもので中規模企業の方が対応しやすいはずである。このことと今回のセミナーで紹介された導入事例企業でも中規模企業が多いことは、あながち無関係と言えないのではないだろうか。

相互互換性への疑念

JDFワークフローに関しては、ベンダーが囲い込みを狙って、結局はオープンシステムにならないとの懸念が聞かれる。この点に関して、プリプレスのデジタル化における経緯を振り返ってみればよく、結果としてはだれでもがオープンのメリットを享受できるようになった。JDFの場合も、細かな部分での1対1対応は必要になるかもしれないが、基本的な部分での相互互換性は確保されるものと見てよいだろう。

関連情報:印刷CIM で全体最適を目指す(JDFフォーラムジャパン公開無料セミナー 2005/7 より)

2005/06/29 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会