文字とデザインは進化する

掲載日:2019年4月1日

文字は、デザインの要となる要素である。メディアとともに発展し、社会生活に寄与している。

巷にあふれる書籍や雑誌、チラシ、看板、デジタルサイネージ、Webサイトなどあらゆるメディアには、写真やイラストレーションがなくても、文字のないものはほとんど見当たらない。

例外として、非常口やトイレの案内などのサインはマークだけで表現されている場合もある。しかしそれは、マークの意味が社会的に知られているからこそ可能なのであり、通常は、画像表現をどんなに駆使しても、文字がなければ正確な情報は伝わらない。

文字のデザインという場合、二つの意味がある。一つは個々の文字の形を作ること。もう一つは、文字を単語や文章の形に並べて、媒体を構成することである。前者をタイプデザイン(書体デザイン)、後者をタイポグラフィと呼ぶ。

タイポグラフィという言葉の発展

タイポグラフィという言葉は、活版印刷とともに生まれたという。

もともとは活版による印刷技術を指していたが、 20世紀に入ってから、活字によるコミュニケーションの手段という意味でも使われるようになった。
―参考:『現代デザイン事典』(1969年 美術出版社発行)の「タイポグラフィ」(原弘)の項

活版から写植、DTPへ、技術の発展とともに文字表現の手段も変化している。そして今や、紙媒体だけでなくオンスクリーンメディアまで含めてタイポグラフィの守備範囲になっている。

また、書体デザインや、ロゴ・マークなど、タイポグラフィの構成要素も、タイポグラフィの対象となっている。

例えば、日本タイポグラフィ協会(JTA)による「日本タイポグラフィ年鑑2019」で扱う主な部門は以下の通り

VI(ビジュアル・アイデンティティ)/ロゴタイプ・シンボルマーク/タイプデザイン/グラフィック/ブック・エディトリアル/パッケージ/インフォグラフィック/環境・ディスプレイ・サイン/オンスクリーン

東京タイプディレクターズクラブ(TDC)による、国際デザインコンペティション「東京TDC賞2019」の主なカテゴリーは以下の通り

小型グラフィック/エディトリアル・ブックデザイン/タイプデザイン/マーク&ロゴタイプ/コーポレートステーショナリー/ブランディング/サイン&ディスプレイ/パッケージ/アドバタイジング/ポスター/RGB部門(ディスプレイ/モニターに表示することを前提に制作された作品)

タイポグラフィの目的

タイポグラフィの目的は二つある。

一つは、情報をわかりやすく読者に伝えること。
もう一つは、その媒体の性質を視覚的なイメージで伝えること。

だから、タイポグラフィは、読みやすさとともに、読者の目を引き付ける魅力的な要素が求められる。

最近のトピックスに見るタイポグラフィの社会的な価値

日本タイポグラフィ年鑑2019のグランプリは、茂村巨利氏による「九州ロゴマーク VI」である。クライアントは九州地域戦略会議で、九州の連携する姿を分かりやすく国内外にPRするために作成された。
『暖簾』をモチーフに、「九」「州(しゅう)」「一つ」のそれぞれの文字を組み合わせ、「ひとつの州(くに)」を描いたという。
参考

同年鑑インフォグラフィックス部門ベストワークの「福島アトラス02・03」(中野 豪雄)は、2018年度グッドデザイン賞でもグッドフォーカス賞[復興デザイン]を受賞している。
グッドデザイン賞においては「地域・コミュニティづくり」という、いわば無形のデザインの分類で審査された。しかし、優れたタイポグラフィがあってこそ、プロジェクトを目的に沿って進めることができ、受賞にもつながったと言える。

イワタUDフォントは2017年度のグッドデザイン・ロングライフデザイン賞を受賞している。「文字に新しい視点を与え、カテゴリーを創出させた」と評価された。

これらの事例を見ていくと、タイポグラフィが関わるジャンルの広さ、社会に対する影響力を感じ取ることができる。

今後Webファースト、モバイルファーストによって新しい文字表現が生まれてくるであろう。

しかし文字をいかに伝わりやすく、効果的に表現するべきかということは、時を超えたテーマと言える。

印刷業界は活版印刷から写植、DTPの歴史の中で組版技術を培ってきた、文字表現のプロフェッショナルである。その資産を生かし、タイポグラフィの分野でイニシアティブをとってほしい。

(JAGAT 研究調査部 石島 暁子)