コミュニケーションと印刷ビジネス
DTPエキスパート認証試験のカリキュラムは、DTPによる印刷物製作に関連する様々な知識をカテゴリー分けしその学習範囲を示すもので、製作関連技術の進化や印刷を取り巻く環境の変化に応じて2年に一度改訂を行っている。
2022年12月に公開した改訂第15版では、既存の「コミュニケーション」カテゴリーについて、ビジネス化に視点をおいた項目を含め「コミュニケーションと印刷ビジネス」として再編している。
印刷ビジネスはどこから生まれる
出版印刷は読者とコンテンツ企画・制作者、商業印刷は生活者と事業主体企業、包装印刷は商品利用者とブランドオーナーとの間のコミュニケーションを媒介する。印刷という製品の製造企業としての性能を高めるだけでなく、コミュニケーションの本質を理解することが印刷ビジネスの広がり=「創注」につながることは言うまでもない。
よって今後の印刷人材には、コミュニケーションの本質を理解しビジネスを生み出す力につなげてもらえるよう、印刷物の企画、情報デザインのプロセスを踏まえて印刷ビジネスを捉えるカリキュラムとした。
効果につながる印刷物
印刷物製作の目的を達成するためには、コミュニケーション設計とともに具現化にあたってのコンセプト立てをし、造本・紙面設計など実装可能な詳細デザイン仕様を策定していく必要がある。
メディア環境の変化、制作ツールの高機能化により、視覚化技術は進化しており、これらを効果につながるように捉えたうえで実用に適した扱いができるかどうかが、プロフェッショナルな制作人材としての差別化となるだろう。
これを踏まえ、情報デザインの原則であるデザイン計画からターゲットユーザー(印刷物の利用者)のペルソナ設定、コンセプトの検討と視覚化といったデザインプロセスや、情報構造の理解等も学習対象としている点が、現在のDTPエキスパート認証制度の特徴だ。
印刷物製作に至る経緯を知る
印刷受注には、顧客の状況を知るためのヒアリングが重要だ。近年では、印刷物の最終利用者である生活者全般に社会課題意識が高まり、印刷物製作者にも環境問題をはじめとした社会課題への基本的認識が必要となる場面が増えつつある。社会経済的背景を知っておくことは、コミュニケーションの本質を掴むために有効に働くだろう。
印刷業には、印刷物製作にとどまらず、多メディア展開を含め周辺業務を担う機会が広がっている。そうした機会を逃さず印刷会社のビジネスとして成立させていくためにも、まずは印刷物製作に至る経緯を理解して受注する姿勢が肝要だ。
今後の印刷ビジネスに向けて再編したカリキュラム第15版で、これからの印刷人材に必要な知識、スキルの詳細を確かめていただきたい。
(研究調査部 丹羽 朋子)
JAGAT info 2023年1月号より一部抜粋