クリエイターエコノミーと印刷ビジネスの可能性

掲載日:2023年3月27日
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個々のクリエイターと直接つながる経済圏が進展している。

「クリエイター」と聞いて、突出した創造性やアーティスティックな才能やセンスがあるうえ、何よりもそれを生業にしていける人をイメージする人が多いのではないだろうか。

ところが今は、頂点に立つ一部の創造活動、その人でなければ生み出せないような絶対的価値を創造できる人、だけでなく、どこかの誰かにとって価値を提供できる創作活動に対して、「クリエイター」という呼称を使う場面が増えている。

出版社など何らかのエージェントを経由して作品を発表する従来の枠組みでは、市場流通に適した(都合のよい)最大公約数的価値、あるいは突出した絶対的価値を提供する人が既存プロセスに沿って活動することで職業として成立し、クリエイターと認識されてきたといえる。

一方でユーザー側の価値の置き方は本来人ぞれぞれ、いわゆる評価の高い作品群やマジョリティの嗜好に沿った作品群が必ずしも自身にとって最大の価値をもたらすとは限らない。ここでは作品自身としての質の高さという評価軸は別として、小説でも音楽でもイラストでも、自分にとってのベストであることが最大の価値をもたらすものだろう。

こうした個別価値の需給を直接つなぐかたちで創作活動の市場を形成する動きが活性化している。動画、文章、写真、イラスト、作曲などあらゆる個人の創作活動、表現活動をもとに収益化を図ることで形成される経済圏を、「クリエイターエコノミー」といい、その多様な広まりから注目を集めている。

クリエイターエコノミーには、表現活動の作品化やスキル提供という活動の他、クリエイターの活動支援やクリエイターとのつながりの場を提供するサービスなども含まれる。

客観的第三者による評価を媒介とした作品流通の仕組みから、ユーザーの価値とクリエイター作品の直接評価による作品流通への変化がうかがえる。

プラットフォーム・サービスの進展

クリエイターエコノミーが発展した背景には、インターネットにより誰でもが手軽にコンテンツを発信し、それを収益化するプラットフォームが確立されたことがある。YouTubeやInstagramなど誰しも一度は使用したことのあるSNSベースの活動展開の他、オリジナルグッズ販売のECサイト「BASE」や、写真・動画販売の「PIXTA」などもある。

印刷物の製造も含むものとしては、同人誌、イラストを印刷物で提供する「Pixiv FACTORY」や幅広くクリエイター作品を扱う「BOOTH」などが挙げられる。作品の公開から製造、販売までを一つのプラットフォーム上で完結できるサービスとなっており、作品によってはオンデマンド製造により1点から印刷製造販売を行えるなど、クリエイター作品の販売と親和性が高い。

作品提供側の状況はというと、創作活動自体への潜在的欲求を持つ人は多く、印刷会社でも、実はフリーイラストが得意なDTPオペレーターの方が休日に書き溜めた作品集を持っていたり、巧みな話術を公演活動で披露していたり、といった場面に出会ったことも少なくない。どこかの誰かの価値に結び付く道筋がプラットフォーム・サービスによって具現化されたことで、創造活動を収益化したいと考える人も増加すると見込まれている。

クリエイターエコノミーの市場規模とユーザーの行動変容

日本クリエイターエコノミー協会と三菱UFJリサーチ&コンサルティングによる「国内クリエイターエコノミーに関する調査」(2022年10月発表)によると、日本国内の市場規模は約1兆3,574億円、うちモノ・グッズの販売及び動画投稿に関する市場の占める割合はそれぞれ2,000~3,000億円規模と推計される。

市場規模の拡大には、ユーザーの購買行動の動機付けの変化も影響する。作品を所有したいという欲望は、コンテンツ一点一点に対する好みや良し悪しの判断だけでなく、クリエイターのファンになることによって大きく促進される傾向にある。「この作品が好き」という動機付けでは1点しか成立しない取引量が、「このクリエイターが好き」という動機付けにより何倍にもなる。ファンコミュニティやクラウドファンディングなどのファン化促進のプラットフォームが取引量の増大をさらに後押ししているとみられる。

デジタルファーストのクリエイターとユーザーが印刷に期待すること

動画やSNSなどデジタル展開が目立つ中でも、主にファン化したユーザーには印刷物として所有したい感覚が確かにある。先日開催されたpage2023カンファレンス『RGBで実現するビビッドカラー・広色域印刷』でもコミックマーケットの市場規模とともにRGBデータの印刷展開について議論がなされた。デジタルファーストで作品に触れるクリエイター、ユーザーにとってはRGB色域での印刷表現を望む声が強く、RGB印刷の需要拡大につながっているという。

誰でもクリエイターへの道筋を開く環境が整い、誰でもクリエイター作品を入手する近道が整った時代に、印刷ビジネスが関われる領域は広がっているようだ。

(研究調査部 丹羽 朋子)
JAGAT info 2023年3月号より一部抜粋