大手広告代理店でコピーライターとして活躍していた牧野圭太氏が2015 年に設立した文鳥社。
出版社のような名前だが、アイデアとデザインを軸にした新しいプロダクトの開発や、クライアントへのソリューションを提供する会社だ。
書籍の新しいアプローチ「文鳥文庫」
文鳥文庫は、16 ページ以内の文学作品だけを集めた文庫本サイズの書籍だ。価格はすべて統一で1 冊150円、専用ボックスに入った8 冊セットが1200 円。それぞれ15 分間もあれば読み終わるボリュームだ。
書籍といいながらも、1 枚モノで製本がされておらず、蛇腹型で折りたたんだカードのようなかたちをしている。8 枚であれば製本するよりも蛇腹にしたほうが効率的だと思い、このデザインになった。
牧野氏は広告代理店時代に大手出版社の文庫本キャンペーンを担当していた。そのときに、「書籍が売れない時代に、文庫本を手に取ってもらうためにはどうすればよいだろうか」「売るためのキャッチコピーを考えたり店頭でキャンペーンだけやっていても難しいのではないか。根本的に本を読むことに対して新しいアプローチをしなくてはいけないのではないか」という思いがあり、それが誕生につながった。
著作権切れの作品、例えば青空文庫は無料で容易に読める。それをデザインの力で文鳥文庫の形式にすることで作品価値を高めた。
第1弾のラインナップは著作権が切れた日本文学の作品から選んだ。太宰治の「走れメロス」、梶井基次郎の「檸檬」など、誰でも名前は知っているような有名作品が並ぶ。取次を通さず独立系書店、雑貨屋など60 店舗ほどに直接販売、半年間で約3 万冊を販売した。ギフトとしての需要も高く、デザインの美しさを生かして雑貨のような感覚でディスプレイして販売される。
第2弾は恋愛系でまとめ、著作権が切れていないものも含め現代作品を取り上げた。村上春樹氏の短編「四月のある晴れた朝に100 パーセントの女の子に出会うことについて」も収録されている。
文鳥文庫は目立ったプロモーションはしていないが、購入した人がソーシャルメディア、Instagram やTwitter に写真とコメントを投稿し、口コミで広がっていった。牧野氏は、「Instagram にアップしたくなるようなデザインやたたずまいが作れているのだと思う」と分析する。
また、今まで本は贈り物にしにくかったが、文鳥文庫を贈り物として活用する人が多いのが新しい発見だという。ギフト用に何度も文鳥文庫を買う人がいる。プレゼントされた人が気に入って、自分でも購入して別の人にプレゼントする、という連鎖も生まれている。
中小企業にこそ必要なブランディング
牧野氏は、デザインとは、「ある対象を、よりよい形につくりかえる思想と技術」だという。
椅子であれば「座る」という用途に合わせて進化して今のかたちになっている。企業であれば、よりよい企業のあり方とは何か、よりよい事業設計とは何か、よりよいパッケージ、プロダクトとは何かという「よりよさ」を追求する姿勢こそがデザインであり、ブランドにつながっていく。
牧野氏は独立後、いろいろな企業と仕事をするようになり、ブランディングは中小企業にとってもっと必要で、浸透すべきものだと考えるようになったという。
ブランドは一言でいえば「吸引力」だ。ブランドがないと採用のときもクライアントに対しても、自分たちから足を運んでアプローチしていかないといけない。ブランドを持っている企業であれば、自然と向こうから寄ってくる。
ではブランドはどうやって作るのか。牧野氏は「VISION(社会正義を掲げること)」「DESIGN(こだわりを持つこと)」「ACTION(有言実行すること)」の3 つを挙げた。
例えば、文鳥社では都内に10 店舗を展開する八百屋ベンチャーの「旬八青果店」においてコンセプトの開発、ロゴ、店舗設計、その他ポスターなどを手掛けている。
「旬を愛そう。」というビジョンを持ち、ブランドイメージを伝えるロゴのほか、旬の野菜や果物をデザインしたポスターを3 カ月に1 回制作している。そして地域顧客のニーズに合わせた旬の野菜を販売している。
スーパーやコンビニが普及した今の時代にわざわざ旬八青果店で買い物をするのは、店のブランド力によるものだ。また前述の文鳥文庫がソーシャルメディアで自然にシェアされているのもデザインの力が大きい。
デザインそしてブランディングは中小企業にこそ必要で、デザインはその手助けができる牧野氏の話は、デザインや印刷物を制作する印刷会社にとって共感できるものであろう。
関連イベント:
page30回記念トークショー「デザイン思考×地域創生×マーケティング」
2017年2月8日(水) 18:15~19:15
サンシャインシティ ワールドインポートマート5F カンファレンスルーム
第30回目となるpage2017では、これからのビジネスのあり方を考える上で重要な「デザイン思考」「地域創生」「マーケティング」をテーマにした特別トークショーを開催します。
牧野氏には、停滞する従来のビジネスモデルを、デザインの力で刷新する方法を紹介いただき、「文鳥文庫」や「旬八青果店」といった事例からビジネスのヒントを得ます。またデザイン×地域創生について、「長生最中」など地域の特産物に関する商品開発などアイデアや企画を活用している事例を紹介します。
誰もがアイデアやデザインを生みだすことに役立つ話をする。飲み物付きスペシャルトークショー。