次世代ビジネスを展開できる人材育成
縮小する印刷業界にあって、これからは「きれいな印刷物を造る」から「新たなビジネスを創る」へと発想を転換し、新たな価値を生み出すことができる人材が求められている。
1985年にMacintosh(パソコン)、LaserWriter(プリンター)、PageMaker(レイアウトソフト)というDTPに必要な3つの要素が出そろい、プリプレスのフルデジタル化がスタートした。これまでの専門職によるクローズドで、縦割り作業からオープン化された技術の連携作業へと、デジタルで印刷業界の環境は一変し、人材育成のベクトルが変わるきっかけとなるはずであった。
当面は新たな設備を導入し、それをオペレーションできる人材確保が急務となり、ビジネススクール等でもDTP講座に多くの人が集まった。実は初期のDTPエキスパート試験は彼らにより、受験者を増やしてきた経緯がある。
ただし、DTPのオペレーションにとどまる限りでは、デジタル化で技術が進歩しても製造するものは同じで道具が変わったに過ぎない。DTPエキスパートはオペレーター養成ではなく、標準化された知識の普及のために1993年にJAGATがカリキュラム化したものである。デジタル化の先の新たなビジネス展開も視野に入れていた。
デジタル化の進展は、印刷業界だけのことではなく、社会全体のイノベーションである。時を同じくしてインターネットの台頭もあり、ビジネス全般に影響を及ぼし、産業構造をも大きく変えた。顧客のビジネスも変化せざるを得なかったのである。
また、DTP化はバブル経済崩壊と時期が重なり、価格は下落し、小ロット化、短納期のうえに高品質が社会全体の要求するところとなった。結果として、DTPは省力化、コスト削減はもたらしたが、新たなビジネスへの発展や利益の源泉とはならなかった。決して印刷業界がサボっていたわけではないが、取り巻く経済環境や業界の体質など様々な要因により、残念ながら人材投資が進まなかったことは大きい。
インターネット、メディアの多様化、デジカメ、モバイル端末の普及により生活者の行動も激変してきたこともあり、経済が好転したとしても、印刷物そのものの需要は回復しない。これまで印刷内で収まっていた顧客ニーズが多メディア展開に変わる、いよいよそのギャップを埋める人材が必要になってきたということである。
変化する顧客のビジネスニーズに呼応して、新たな印刷ビジネスを展開するためには、顧客志向でソフト・サービス化への対応、川上指向、知力・感性、マーケティングのノウハウ、そしてなにより信頼を得るためのコミュニケーション能力が必要となる。印刷業界にとって、人の能力に左右される事柄が現場から対顧客窓口に移行するという大転換である。
顧客ニーズの多様化に応える能力とその人材育成が求められる中。JAGATはクライアントの課題を抽出、分析し、単一メディアではなし得ないソリューションを提案できる人材を目指し、2002年からクロスメディアエキスパート認証制度を立ち上げた。
今後の印刷ビジネスは「もの造り」から「こと創り」へと向かわざるを得ない。「もの」は設備でできるが「こと」は人から生まれるもの。製造業的発想からの意識転換が必須である。
「印刷物を造る」ということと「ビジネスを創る」ということでは教育の質も違ってくる。いずれにしても、人への投資、人材育成こそがこれからの企業の未来を切り拓く源泉である。生き残っていくためには長期的かつ早急に取り組んでいく必要がある。
(JAGAT CS部 橋本 和弥)
【関連情報】
・DTPエキスパート認証試験・・・第49期試験(3/18)本日(2/23)申請締切
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