若年世代のエンゲージメントを高める

掲載日:2024年7月22日
このエントリーをはてなブックマークに追加

世界各国の印刷団体が主催するヤングタレントアワードの概要をお伝えします。

印刷産業の若年人材不足が課題に

就職活動時に入社企業を決めた理由として、「事業内容への興味」に続いて「成長できる環境があると感じた」からとする調査結果がある。これに対し、3年以内に早期離職する若年層が増加傾向にある現況から、「成長」を実感できるような何らかの施策が求められているという仮説を立てることもできよう。

近年の労働環境改善の結果、多くの負荷が低減したのは良いことだが、人が最も成長を実感するとされる「仕事の質的負荷」も減少したことに起因しているともいわれている。「負荷」のマイナス面だけ見て対処した結果、若年世代が潜在的に求めているプラス面の負荷、つまり得られたはずの成長の機会を奪い取っていることになるのかもしれない。

世界の印刷産業界に目を向けると、各国の代表的な印刷関連団体では若年層向けアワードを定期的に開催している。印刷産業に自らコミットしようという意欲を高める契機となるような活動を行っているようだ。

Intergraf: Young Talent Award

2017年より毎年開催されているアワードで、Intergraf加盟国の25歳以下の印刷産業従事者を対象として、革新的なアイデアと創造的なソリューションを備えた応募作品を表彰するものだ。

2024年のテーマは「AI」。「AIは印刷業界にどのような影響を与える可能性があるか、それに伴うリスクと機会は何か」という問い掛けに対し、レポートとプレゼンテーション資料の提出を求めた。

優勝者であるオランダのピエン・ハックス氏はAIの現状と印刷産業への影響について、サービス提供・製品・ワークフローなどさまざまな点について分析し、課題も含めて8ページの資料にまとめた。「AIは効率とコスト削減を原動力として印刷産業を変革し続け、最大の変化はコンテンツクリエーションの場で起きている。人間が本来持っている倫理感と共に用いるべきツールであり、その使い方についてはEU規制が重要な役割を持つ」ことを中心に論じ、見事1位を獲得した。

過去のテーマを見ていくと、「デジタル世界における印刷の立ち位置について」「循環経済における印刷製品をどのように考えるか」「持続可能な未来に向けての印刷ビジョンについて」「あなたの求める労働環境について」「これからの社会において印刷をどのように発展させていくか」などが提示されている。社会との関わりのなかで「印刷」を捉える姿勢を促すような課題を設定していることが分かる。

Printing Charity: Rising Star Awards~若手人材の潜在能力を引き出す

イギリスの慈善団体Printing Charityは、印刷の未来に向けて人材力を高める奨学金型アワードとして、同国在住の18~30歳の印刷関連産業従事者を対象にRising Star Awardsを開催している。自身のキャリアとして目指す目標と、そのために必要なトレーニング計画を提出するという内容である。勤務先の上司やメンターなどに意見を求めながら作成することが推奨されている。

アワードに選出されると、キャリア開発のためのトレーニング関連費として1500ポンド(約21万円)が授与される。対象となるトレーニング計画には、「コミュニケーションスキル」「クリエーティブスキル」「リーダーシップ」「問題解決」やその他の各種専門スキルなど、幅広く認めている。

2024年度の受賞者の一人、アルベルト・アルファロ・ロペス氏は、最適化ワークフローとデータ管理に関する実績をもとに高度なデータ分析スキルと問題解決手法を習得することで、勤務先の企業および業界全体の非効率性を特定して改善することを目標としている。

 

「仕事」は利潤を生みだすものでありつつも、人にとって一定の責任を負うからこそ成長につながる機会ともなりうる。そのための適切なチャレンジの場、教育プログラムがより重要性を増している。

JAGAT 丹羽 朋子

Jagat Info 2024年7月号より一部抜粋

DTPエキスパートカリキュラムは▶こちらからご請求ください。