ビジネスゴールに向かうための 制作人材
DTP エキスパート認証試験は、2段階制への移行に伴い実技試験内容も一新し、より「デザイン性・データ制作力」を問う試験問題に改定している。
第53 期実技試験は、20 代後半〜40 代の男性をターゲットとした総合ライフスタイル月刊誌の単発企画ページをレイアウトするという前提で、記事内容や発注者の要望を基にデザインコンセプトを立て、支給素材をレイアウトするという課題である。
制作コンセプトの共有と実体化の相互理解
これまでの試験では、求められる印刷物を適切に作る制作工程全般のディレクションに主眼をおいていたため、データ制作に当たっての必要条件を中心として制作要件を示す課題としてきた。
とはいえここ数年は、「印刷入稿用データ制作力」だけでなく「印刷物の目的を踏まえた制作」という視点にも比重を置き、題材としてはDMはがきや商品販促のためのイベント参加者集客用チラシなど、多様な内容を扱っている。試験合否の基準に大きく影響しない範囲で、制作プロセスの中でデザイン面を考慮に入れることを促すかたちとしてきた。
今回の改定では、この方向性をさらに推し進め、制作物の目的への理解とデザインによる実践という観点を書面化することが試験内容に盛り込まれている。
印刷物を用いる想定ターゲット(ペルソナ)を実技試験要項で示す与件情報に盛り込み、発注者の要求も踏まえて制作物でどのように応えるかが問われる。デザインプロセスに沿って、「制作コンセプト書」としていくつかの項目を記述する出題としている。
制作コンセプト書は何のためにあるか
試験で求める制作コンセプト書では、
- 全体コンセプト(企画記事の内容が伝わるページになるように工夫した点など)
- レイアウトに関して(全体像や着目ポイントに誘導するために配慮した点など)
- 組版に関して(情報に応じた組体裁についてなど)
- 配色に関して(ターゲットや企画意図を考慮した点など)
を短文で記述する。
記述というと難解な解答を求められているように感じるかもしれないが、実際のデザイン制作プロセスでは、あえて言語化しないまでも必ず考慮しているはずの内容である。
この書面は、印刷物を通して達成したいゴールを発注者と共有することを前提としている。
要項と設問で求めているものが理解しにくい場合は、デザイン・レイアウトの基本教本などでデザインのセオリーを学んでいただくと言語化の参考になるだろう。
さらに、これらのコンセプトを踏まえて、実制作者が合理的に情報を管理しデータ制作の全体像が理解できるように、レイアウトフォーマット図の概要を記載することを求めている。
資格試験への取り組みで得られるもの
改定後実技試験では、デザインの本質を総合的に理解し実践できているかを問う。
実業務においても、デザインのセオリーを踏まえ、発注者や実制作者間で共通認識を持ってビジネスゴールに向かうことが重要だ。
さらに、実技試験要項ではビジネスゴールや発注者の想定があらかじめ与えられるが、実際の業務ではこれらの要件を発注側から引き出すヒアリング力も重要となる。
また、引き出した情報を実現するためにどのようなプロセスをたどるのかを体感することは、ヒアリングの際に何を引き出したらよいのかの参考になる。
実技試験に取り組むことによって、ビジネスの幅を広げるコミュニケーション力のヒントにもなればと思う。