「マンガ図書館Z」がコミック版YouTubeをめざす理由

掲載日:2017年1月23日

書店で扱っていない絶版マンガを電子化・公開するマンガ図書館Z。作家に収益を還元するほか海賊版撲滅も目指している。マンガ家の赤松健氏がはじめた電子コミック配信サービスについて紹介。

電子書籍市場の8割を占めると言われるコミック。読み放題のKindle Unlimitedもはじまり電子コミック利用者はますます増えていくだろう。その一方で書店の流通から外れてしまった「絶版コミック」は電子書店でも扱われず海賊版として違法な方法でアップロードされたデータが流通している。

このような状況を打破するための取り組みがJコミックテラスが運営する「マンガ図書館Z」だ。

作家視点で生まれた絶版マンガ配信サイト

出版社からの発行・販売が中止された「絶版マンガ」は、書店では手に入らない。復刊ドットコムのようなサービスもあるが、一定数のリクエスト数が必要で、かつ出版社が同意しないと復刊されないハードルがある。

絶版マンガを読みたいユーザーは古本屋やオークションで中古を手に入れるか、違法に自炊・アップロードされた海賊版を手に入れるしかない。しかし中古や海賊版は、いくら売れてもマンガを描いた作家には収益がはいらないという問題があった。

そこでマンガ図書館Zでは、作家本人がアップロードするか、または作家を含む権利者が許可したマンガに広告をつけて無料で読めるようにした。ビューワー上でクリックされた広告収入を作家に還元するしくみを構築した。

このしくみを作ったのは、『魔法先生ネギま!』『ラブひな』などで知られるマンガ家の赤松健氏である。自身の作品も多数海賊版として公開されていたことから問題視しており2011年から「Jコミ」という名前でサイト運営をはじめた。2015年にはGYAOと共同で新会社を設立して現在のかたちになった。

現在、月間利用者は40万人、4000点以上の作品が公開されている。絶版になったマンガのほか単行本化されなかった作品、『黄金バット』のような著作権が切れた作品も公開されている。

もっとも大きな特徴は、作家を支援することを最優先している点だ。出版社から再版が決まった作品はサイトから削除することになっている。また闘病中の作家を支援するためにクラウドファンディングで作品を販売したりAmazon Kindleストアでの販売およびPOD化もサポートしている。いずれも作品の収益化を支援するための取り組みだ。

将来的には全ての絶版マンガをアーカイブ

同サイトでは、誰でもが気軽に無料でマンガを閲覧でき、権利者が簡単に公開許諾ができて、得られた広告収益はすべて作家側に還元するYouTubeのようなサービスを目指しているという。無料で絶版マンガを閲覧できる環境が整えば海賊版サイトが廃れていくとの見込みだ。

実験的に海賊版として公開されているマンガをマンガ図書館Zにアップロードし、広告をつけて無料公開することで海賊版サイトのビジネスを妨げるユニークな取り組みも行っている。

絶版マンガの全体数から見るとサイトに収録されている作品はまだ少数だ。しかし赤松氏の考えに賛同して作品を公開する作家が増えることで、数年後には今の何倍もの作品数になるだろう。同社では、将来的には絶版マンガをすべてマンガ図書館Zにアーカイブすることを目指している。

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